第55話 生徒会
「なんであなたがここにいるのよ?」
セレナがセイヤのことを見て固まる。
「なんで、って、呼ばれたから」
「呼ばれたって、誰に?」
「ナーリに」
ナーリの名前を聞いた瞬間、セレナが激しく動揺し始めた。
「あっ、あっ、あなたは、リリィちゃんじゃ物足りず、あの子にまで手を出したの!?」
「はっ?」
「信じられない。このロリコン」
セレナは激しく動揺しながらセイヤのことを指さすが、その腕はかなり震えている。セイヤがどうしようかと考えていると、救世主が登場した。
「お姉ちゃん? どうしたの? そんなに震えながら先輩のことを指さして」
ちょうど資料を取りに行っていたナーリが、帰って来た。
「ナッ、ナーリ。先輩って、この男が?」
「うん。そうだよ」
セレナの動揺は、先ほどよりも激しくなっていた。
「この男は婚約者がいるにもかかわらず、その妹と不倫するロリコンよ?」
「知っているよ」
「えっ?」
この時、セレナの頭の中では、婚約者や愛人がいるのを知っていながらも、セイヤに抱きつくナーリの姿が浮かんでいた。
「せ~んぱい。たとえ婚約者や愛人がいても、私を一番に愛してくださいね」
「ああ、もちろんだナーリ」
こんな感じである。
「だめよ、ナーリ。戻ってきて」
「何が?」
「そんな男、駄目よ」
「どういうこと?」
「だからお付き合いするなら、もっと普通のお付き合いを」
「待って、お姉ちゃん勘違いしているよ。先輩とはそんな関係じゃないから」
ナーリがセレナの誤解を解こうとする。
セイヤはというと、ナーリがセイヤのロリコン説を否定せず、知っていると言われたことに心にダメージを受けていた。
ナーリが本音を出すと怖いと思うセイヤであった。
「違うの?」
「うん。先輩はユアさんの婚約者でリリィの愛人だよ。そしてリリィは私の友達」
「でも愛人って……」
「リリィがそれでいいって言っているなら、いいじゃん」
「でも……」
「どうかしたの、セレナ?」
姉妹喧嘩が始まろうとしていたその時、ナーリの部屋とは違う部屋のドアが開かれ、二人の少女が姿を現す。
一人は緑の髪を背中までウェーブにした、大人びている少女。
もう一人は小柄な無表情の少女。短髪の髪は水色で瞳の色も水色だ。
ナーリは部屋から出て来た二人に気づくと、挨拶をする。
「あっ、モーナさん、アイシィさん」
「あらナーリちゃんこんにちは」
「久しぶり。ナーリ」
セイヤは心のダメージを忘れ、部屋から出てきた二人へと視線を移す。
「ナーリ」
「あっ、先輩は初めてでしたね。こちらの緑の髪の方はモーナ=テンペスターさん。アルセニア魔法学園の生徒会長です。年は先輩の一つ上になります」
「よろしくお願いします」
モーナと言われる少女は、おっとりとした雰囲気を纏っている。整った顔に、豊満なバストを持つ、まさにお姉さんと言った感じだ。
セイヤはこの少女が頼れる生徒会長なんだろう、と思った。
「そしてこちらの水色の髪の方がアイシィ=アブソーナさんです。先輩の一つ下で、生徒会の書記を務めています」
「よろしく」
アイシィは無表情だが、その顔からはセイヤを警戒していることがわかる。きれいな水色の髪の少女は小柄な幼女体型をしていた。
「そして、こちらがキリスナ=セイヤさんです」
「あなたがセレナの言っていた、不倫のロリコンさんですね」」
「女の敵」
ナーリがセイヤを二人に紹介すると、モーナの方は比較的やわらかい態度で接してくれるが、アイシィの方は侮蔑のまなざしで見ていた。
「違いますよ。それはお姉ちゃんが」
「そうよ。二人とも。この男が私たち生徒会の敵よ。いますぐ処罰してあげるわ」
セレナはそう言うと、魔力の練成を始める。
「お姉ちゃん!?」
「ちょっと、セレナ?」
「セレナ先輩」
突然魔力の練成を始めたセレナをあわてて止めようとする三人。しかし、セレナは三人の言っていることを気にも留めず、魔力練成を続ける。
ナーリはどうしようと慌てるが、生徒会の二人はすぐに説得をやめて、セレナの魔法発動と同時にその魔法を打ち砕こうと、魔力練成を始めた。
「さっ、三人とも、やめてください」
「大丈夫よナーリ、このロリコンは私が処罰するから」
「セレナ、落ち着きなさい」
「そうですよ、セレナさん」
「大丈夫よ」
セレナは説得に聞く耳を持たず、魔力をどんどん練成していく。
もしセレナが魔法を発動したら、この家に何かあるかもしれない。そしてそのセレナを止めるために、モーナとアイシィが魔法を発動すれば、最悪の場合は家が崩れる。
だが、二人がうまくやれば、被害をゼロにできる。しかし、成功率はよくて五割と言ったところだ。
「先輩……」
ナーリはセイヤにどうしようと言った目を向ける。
「大丈夫だ」
セイヤはナーリの頭の上に自分の手を乗せ、頭を撫で始め、ナーリのことを安心させた。
そして次の瞬間、躊躇いもなく、闇属性の魔法を発動する。
セイヤは心の中で『闇波』と呟いた。すると、生徒会の三人が練成されていた魔力が、一瞬にして消滅する。
「えっ?」
「これは?」
「?」
突然のことに、生徒会の三人は何が起きたか理解できてないようだ。それもそのはず。セイヤは闇属性の魔法を使ったのだから。初めての感覚でも仕方がない。
セイヤがなぜ闇属性の魔法を使うことを決心したのかというと、事の発端はセイヤであり、セイヤが今日ここに来なければ起きなかった事件であるからだ。
同時に、リリィの友達であり、自分にとっても大切な後輩が不安がっているのだから、使うのは当然である。
「お姉ちゃん、先輩はいい人だよ」
「でも、」
「でもじゃないよ。お姉ちゃんはあとちょっとで、家を壊すところだったんだよ」
「うっ……ごめん」
ナーリに説教されるセレナはどこか面白かった。そんな二人を見ながら笑っていたセイヤに、モーナが近づいてくる。
「今のは、あなたが?」
「まあな」
「あのようなこと、初めての体験です。魔力が消されるなんて、いったいどうやって?」
「秘密だ」
何をしたかと聞かれたところで、セイヤが闇属性と答えるわけがない。
「ふふ、そうですよね。なにはともわれ、今回の事は感謝致します、キリスナ=セイヤ君」
「どうも」
セイヤがそういうと、モーナは笑ってセレナのところへ行き、ナーリと一緒に説教を始める。
アイシィもセイヤのところに来て、「感謝します」と一言言って、すぐにセレナのところへ戻る。
「セイヤ……」
「セイヤ!」
セイヤが声のした方を見ると、そこにはナーリの部屋から出てきたユアとリリィの姿があった。二人はすぐにセイヤのところ来て聞く。
「闇属性使った……?」
「ああ。でも大丈夫だ」
「わかった……」
どうやら、二人はセイヤの闇属性を感じて、部屋から出てきたらしい。そんな二人に気付いたセレナたちが、セイヤに聞いた。
「もしかしてロリコンの婚約者ってユアさん?」
「そう……セイヤは私の夫……」
セイヤに聞かれた質問なのだが、なぜかユアが答える。
しかし、セレナはそんなこと気にするよりも、セイヤが特級魔法師一族の婚約者と言うことに驚いていた。それは、他の生徒会メンバーも同じらしく、セイヤのことを驚きの表情で見つめていた。
「まさかあなただったとはね。特級の婚約者が」
「なるほど、セイヤ君の力も納得ね」
「ライバル」
生徒会の面々は、なぜかセイヤのことを知っているらしい。
「どういうことだ?」
セイヤが聞くと、モーナが答えた。
「今、学園で噂になっているのです。今年の選抜は荒れると。生徒会と、特級の婚約者たちのチームによって」
「なるほど。それで?」
答えたのはセレナだった。
「あなたたちには絶対勝たないといけないのよ。それが、生徒会が最強の証になるから。それにロリコンには負ける気ないし」
戦意むき出しのセレナ。
「悪いが、勝つのは俺らだ」
「ロリコンには負けない」
アイシィが静かに言う。
「まあ、戦うことがあれば、ですけど。セイヤ君のチームと当たるとしたら、最後の選抜決定の戦いになるので、お互い頑張りましょう」
「ああ」
生徒会の面々はそう言い残して、セレナの部屋へ戻っていった。
「セイヤ……」
「勝つぞ。ロリコンって言われたまま、黙っておくことはできない」
「うん……」
「うん!」
「じゃあ私の部屋で作戦会議ですね」
「頼む」
セイヤたちもナーリの部屋へと戻り、作戦を立てるのであった。




