表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
2章 アルセニア魔法学園編
65/428

第53話 予選最終戦

 翌日、Cブロックは最後の一戦を残し、残りの試合はすべて午前中に終わった。最後の一戦は昼食後に行われることになっている。


 昼食後、セイヤたちが会場に行くと、ここ最近には見なかった顔がかなりいた。おそらく他ブロックが終わって見に来たのであろう。


 その中には、アルナたちの姿もあった


 「がんばってね、セイヤ君」

 「俺たちは決勝ブロック決定したぜ」

 「決勝でやりましょう」


 どうやらアルナ、グレン、コニーの三人のチームは決勝ブロック進出を決めたらしい。


 「ああ、頑張るよ」


 セイヤはそう言い残し、ユアとリリィとともに、結界の中へと入っていく。


 三人は結界内で、昨晩話した作戦について、もう一度確認した。そして試合開始のアナウンスが響く。

 

 「始めです」


 アナウンスを聞き、セイヤが二人に確かめた。


 「じゃあ二人とも、頼んだぞ」

 「うん……」

 「うん!」


 セイヤはユアとリリィと別れて単独行動に移る。


 この際、セイヤはすでに微弱だが『纏光(けいこう)』を行使していた。これは相手の対策を考え、奇襲に備えたものだ。


 セイヤが森の木の上を飛びながら移動する。結界の外から見たセイヤは、何も魔法を使わずに木の上を移動しているように見えるため、会場にいた選手や観客たちが驚く。


 そしてセイヤが木の上を移動していると、一人の少女の姿を捉えた。そこにいたのは、銀色の髪を持った少女、エレンだ。


 エレンの手には氷の剣ブリスが握られており、周囲を警戒している。


 セイヤは木の上で止まりながら、エレンのことを観察した。その結果、エレンは単独で周囲を警戒しているようで、その周りには誰もいない。


 しかし、セイヤはエレンが囮だとすぐに確信した。もしこれがエレンではなく、他の相手だったら、セイヤも囮とは確信はしなかっただろう。


 しかしエレンであれば話は違う。セイヤは一度エレンを倒している。そのため、もしエレンが一人でいた場合、セイヤが油断して襲ってくると考えたのだろう。


 セイヤはそう推測した。


 「相手の慢心につけ入るとは、嫌な作戦だ」


 セイヤの考えは正解であり、この作戦はスニルが考えた作戦だ。対セイヤに絶対の自信を持っていたからこそ、思いつく作戦である。


 だが、セイヤはあえて相手の策にはまることにした。


 セイヤは木の上からエレンの正面に飛び降りる。


 セイヤに気づいたエレンが、セイヤに向かってブリスを構える。しかしセイヤはホリンズを召喚しない。


 「武器を構えなくていいの?」

 「あいにく、そこら辺に隠れている奴が怖いんでね」

 「何のことか、私にはわからないわ」

 「そうか」


 セイヤはエレンの事を見ずに、横の草むらの方を見ながら、ホリンズを召喚した。


 「ホリンズ」


 セイヤがホリンズを召喚しようとした、そのとき、突然草むらから栗色の髪の少女が飛び出してきて、魔法を行使する


 「今こそ汝に力を。『アームズブロック』」


 次の瞬間、セイヤの手に収まるはずだったホリンズがバラバラに砕けて塵となってしまう。


 それはエレンの持つブリスも同じで、砕けて塵となったが、エレンはあわてる様子もなく、すぐに氷で再びブリスを作り出す。


 セイヤの目の前には、ブリスを持つエレンと、武器を破壊した栗色の髪の少女が立っている。


 「対策っていうのは、武器破壊の事か?」

 「そうです。あなたの戦い方は見させていただきました。その結果、あなたはもしかしたら水属性の魔法を使えないのでは、という仮説が生まれました」

 「なるほどな」


 これまでの試合、セイヤは魔法を使わなかった。唯一、初戦で魔力を撃ち出しただけで、それ以外は基本的に、ホリンズに水属性の魔力を纏わせて戦ってきた。


 つまり、彼女たちはセイヤが魔法を使えない魔法師だと勘違いし、ホリンズさえ壊してしまえば戦えないと思ったのだ。


 「面白い奴だ。そう言えば、お前の名は?」

 「名乗っていませんでしたね。私はピカルニーナ=エデルナニツォと言います。呼びにくいでしょうから、ピカと呼んでください」


 栗色の少女はそう言うと、セイヤに向かってにっこりと笑った。


 「そうか。じゃあいいことを教えてやろう。お前の仮説は正解だ。そして俺はあの双剣がないと、魔法どころか魔力もろくに扱えない」


 堂々と嘘をつくセイヤ。そんな事を露知らず、ピカはやっぱりと言う顔をする。


 「そうですか。ではリタイヤしてくれますね?」


 ピカはリタイヤするのが当たり前と言った顔で、セイヤに問いかけた。しかし、もちろんセイヤにリタイヤする気などない。


 「なんでだ?」

 「だって、今のあなたは何もできな……」

 「ピカ!」

 「えっ?」

 「悪いな。今のやつは嘘だ」


 エレンがピカの名前を叫ぶが、セイヤはすでに高速移動で、ピカの正面まで移動していた。そして次の瞬間には、ピカの心臓部分はセイヤの手によって貫かれる。


 そしてピカはそのまま光の塵となって、リタイヤした。残されたエレンは、セイヤのことを睨む。


 「今の動きに反応できるとは、さすがだな。だが、これでお前らの切り札はなくなったぞ?」

 「たしかに。でも、今の私はこの前とは違う。今度こそ蹴散らしてやるわ」

 「面白い」


 セイヤとエレンの戦いの幕が切って落とされた。


 




 一方、ユアとリリィの方にはスニルがいた。


 「こんにちはユア様。できればユア様と戦いたくないのですが」

 「残念……それは無理……」

 「そうですか。今宵の風も我が手中に。『クレアスナーツ』」


 スニルが魔法を行使すると、スニルの手には鞭が握られる。スニルはその鞭で、すぐにユアとリリィに襲い掛かった。


 ユアとリリィは同時に後方に飛んで、スニルの鞭を回避する。


 「リリィはまだ力を隠しておいて……」

 「わかった!」


 ユアはリリィにそう言うと、レイピアであるユリエルを生成する。


 「私はユア様の情報を多く持っています。諦めてください」

 「無理……」


 スニルは鞭をユアの足に巻きつけようとするが、ユアは跳躍しながらユリエルで弾く。しかし、弾いた鞭がそのまま曲がって、空中にいるユアの足に絡みつく。


 ユアを捕まえたスニルは、鞭を引き、ユアのことを引っ張る。しかしユアは空中で体勢を整えると、そのままユリエルでスニルを貫こうとした。


 スニルは鞭からユアを解放し、横に移動して攻撃を回避する。


 「流石です、ユア様。しかし、負けません」


 スニルは鞭の持たない左手をユアに向けて、魔法を行使した。


 「風の巫女、この地に舞い降り吹き荒れろ。『風牙(ふうが)』」


 ユアに強力な風が襲いかかるが、ユアはその風をユリエルで斬り、そのままスニルに斬りかかる。


 スニルは鞭に風属性の魔力を流し込み、硬化させると、棒となった鞭でユリエルを受け止める。


 そして鞭とユリエルがぶつかった瞬間、スニルは鞭の硬化を解除して、ユリエルに巻きつけ、そのままユアの手からユリエルを奪い取る。


 「ユア様もわかっているはずです。私とユア様では相性が悪いと。しかも私はユア様の使用魔法や戦闘スタイルも知っている。ユア様の光属性の魔法では私の風属性の魔法を破れません」


 スニルはユリエルを左手に持ちながらユアに諦めるようにと言う。


 「ユリエル」


 ユアはユリエルをもう一度生成した。


 リリィはユアに言われたため、二人のことを離れていたところから見守る。ユアが負けるとは一ミリも思っていないリリィは、ユアのことを全く心配していない。


 ユアはユリエルでスニルに斬りかかるが、スニルはユアの攻撃を左手に持つユリエルで受け止める。ぶつかり合う二つのユリエルが火花を散らす。


 スニルは左手のユリエルでユアの攻撃を受け止めると、同時に右手に持つ鞭のクレアスナーツでユアに攻撃を仕掛けた。だがユアはその鞭を『光壁シャイニング・ウォール』を駆使して防御する。


 スニルはそのままぶつかりあっているユリエルを手放し、後方に跳躍して距離をとる。


 「『光延(スプリード)』」


 ユアは後方に距離を取ったスニルに対して、すぐに光延(スプリード)』を行使して、ユリエルの長さを延す。


 そして延びたユリエルが、スニルの太ももに刺さった。ユリエルが刺さったことにより苦悶の表情を浮かべるスニル。


 ユアは『光延(スプリード)』を解除して、そのまま足に光属性の魔力を流し込み、一気に加速し、ユリエルをスニルの心臓を貫く。


 ユリエルによって貫かれたスニルは信じられないといった表情を浮かべていた。


 「なぜ? ユア様にこんな戦い方はなかったはずです」


 スニルは自分の知らないユアの戦闘スタイルに驚く。今までのユアは、魔法の高速発動と剣術による戦い方が主流で、今回のような戦いはしなかった。


 しかし、ユアはダリス大峡谷をもとに、セイヤの戦い方を見て、自分の最適の戦い方を見つけたのだ。


 「愛する人のおかげ……」

 「あの男ですか?」

 「そう……」

 「くっ……」


 スニルはそのまま光の塵になって消えた。


 



 

 ホリンズを壊されたセイヤは、素手で氷の剣ブリスを持つエレンと戦っていた。


 セイヤはいつでもホリンズを生成できたのだが、あえて生成しなかった。理由は決勝ブロックを見越しての事だ。


 ピカのように、間違った仮説を立てて戦いを挑んでくる者がいれば、非常に有利になる。だからできれば誤解を広めたかったからである。


 「いくら武器がないからって、また避けてばかりか?」


 エレンはブリスで斬りかかりながら、すべてを避けるセイヤにそう問いかける。今のセイヤは武器がないが、微弱ながら『纏光(けいこう)』を行使しているため、楽にエレンの攻撃を避けられていた。


 しかし回避しているだけでは、当然ながら勝てるわけがない。


 「なら、そろそろ反撃してやるよ」

 「負けない」


 セイヤの言葉に、警戒するエレン。しかしそれは意味のないことだった。


 ダリス大峡谷を経験しているセイヤと、学園で育ってきたエレンでは、決定的に違っているものがある。


 それは戦いに向き合う姿勢。


 学園で戦ってきたエレンには、負けても次頑張ればいいという思いが、少なからずあった。


 しかし、ダリス大峡谷で本当の戦いを経験したセイヤに、次があると考える思考はなかった。


 その時点で、勝敗が決まっている。


 次の瞬間、一瞬だけ『纏光(けいこう)』を強めたセイヤが、エレンの首を素手で斬り落とす。


 「えっ!?」


 エレンは何が起きたのか理解していない。ただ、急に視界が低くなったことに驚き、そのまま光の塵となってリタイヤした。


 結界の外から見ていた人たちは、いったい何が起きたか分からないと言う様子だ。しかし、教師陣のセランとナジェンダは視認こそできなかったものの、何かを感じていた。。


 だがセイヤを見つめるその目に、好意的な色は含まれてはいない。むしろセイヤのことを咎めているようにも見えた。


 そんなことを知らないセイヤは近づいてくる気配のほうを見た。


 「セイヤ……」

 「セイヤ!」


 そこにいたのはユアとリリィだ。


 「そっちはどうだった?」

 「お姉ちゃんが倒したよ!」

 「そうか。これで決勝ブロックだな」

 「うん……」


 こうして、セイヤたちの決勝ブロック進出が決まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ