第52話 セイヤの実力
「勝者、登録番号86」
アナウンスと共に、セイヤ、ユア、そしてリリィが結界内から出てくる。三人が結界の外に出ると、他の選手たちが畏怖のまなざしで見つめていた。
「あいつら、また勝ったのか」
「親衛隊と並んで今勝率一位だぞ」
「親衛隊は三人でだけど、あのチームは金髪一人しか戦ってないわよ」
「ほかの二人はまだ一戦も参加してないぞ」
「いくらなんでも、強すぎだろ」
畏怖のまなざしを向けながら、ひそひそと話す選手たち。
予選ブロックの四日目、セイヤたちは今のところ十四勝零敗という戦績を収めている。つまり勝率十割だ。
この時点で、残すカードは数試合だったが、Cブロックから決勝ブロックに駒を勧められる可能性があるチームは、セイヤ達の登録番号86と、ユア様親衛隊の登録番号12のふたチームだけだった。
セイヤたちのチーム、登録番号86は、今まで戦ってきた十四戦、すべてをセイヤ一人で勝ち抜いてきた。
セイヤはホリンズと水属性の魔力を巧みに使い、相手を沈静化させて倒したり、体術だけで倒したりと、さまざまなバリエーションで戦っている。
そのため、ユアとリリィはただ隠れて待っているだけだった。だから二人の戦い方や、どのような魔法を使うのかは、誰も知らない。特にリリィは。
なぜセイヤたちがこのような戦い方になったかというと、それは初戦のセイヤのミスによってだ。
セイヤたちの初戦の相手であったチームが、どうやら中級魔法師で、しかも学園でも強い部類に入る生徒だったらしい。そしてチームを一人で倒したセイヤは、一瞬で注目の的になった。
だからセイヤはその注目を利用して、今までの戦いを一人で戦ってきたのだ。
「余裕だった……セイヤ……」
「セイヤすごかった!」
ユアとリリィがセイヤの腕に抱きつきながら褒めてくる。
「ありがとな」
セイヤが礼を言うと、二人はよりいっそうセイヤに抱きつく。
そんな三人を見ながら、会場にいる男子生徒たちは嫉妬のまなざしでセイヤを見る。どうやら金髪の少年が、白髪の美少女と青髪の美幼女に抱きつかれている様子が羨ましかったようだ。
三人が次の対戦を待機するため、会場で座れる場所を探し始めると、セイヤたちに三人の女子生徒が近づいてくる。
「ずいぶんと余裕ね、キリスナ=セイヤ」
三人のうち、真ん中にいた黒髪をポニーテイルにした強気の少女がセイヤに向かって言い放つ。その少女の横には、栗色の髪をショートにした少女と、長い銀髪を持った少女がいる。
銀髪の少女は、セイヤのクラスメイトのエレンだった。黒髪の少女と栗色の少女はセイヤを見下すような形で立っていたが、エレンはどこか気まずそうにしている。
「誰だ、お前?」
セイヤは礼儀など関係なく、黒髪の少女に聞いた。黒髪の少女はそんなセイヤの態度などを気にするそぶりもなく、自らの名を名乗る。
「私はユア様親衛隊、総隊長スニル=クロニクル。ユア様、私たち親衛隊はユア様に近づく男はすべて消し去りますのでご安心を」
スニルと名乗る少女が、ユアに向かって忠誠を尽くす騎士のようなポーズをとるが、ユアは何も言わずセイヤの背中の中に隠れる。
「ずいぶんとユア様と仲がいいのね。でも、あなたは私が倒すわ」
「私たち親衛隊が、あなたたちの予選最後の相手です」
スニルに続き、栗色の髪の少女がセイヤに向かって言う。
「そうか。悪いが決勝ブロックに進むのは俺たちだ」
セイヤが当然の事を言うかのように宣言すると、スニルは笑みをこぼしながら言う。
「残念ながら、勝つのは私たちよ。私たちはあなたが今まで戦ってきたチームとは違うわ」
「私たちも勝率十割なので」
スニルと栗色の髪の少女は、自分たちが勝つのを確信しているようだ。
「それでは、対戦を楽しみにしているわ。キリスナ=セイヤ」
スニルはそう言い捨てると、どこかへ行ってしまう。栗色の少女とエレンも着いていくが、エレンはどこか元気のない様子だった。
しかし、そんなことなどどうでもいいセイヤは、特に気にしない。
「お前も大変だな、ユア」
セイヤは自分の背中に隠れていたユアにそんなことを言う。
「あいつら苦手……でもセイヤがいるから大丈夫……」
ユアはセイヤの背中に抱きつきながら、安心したような顔で答えた。
「私もいるよ!」
リリィが元気に言うと、ユアが笑顔になる。三人はその後、近くのベンチに座った。
時刻は夕暮れ、おそらく今行われている試合が今日最後の試合になるだろう。
そしてその試合が終わると、教師のセランとナジェンダが前に来て、今日の試合は終了したことを伝える。しかし、連絡はまだ終わらなかった。
「ええ、次に明日の話なのですが、このCブロックから決勝ブロックに出られるのは登録番号86と登録番号12の二チームだけになります。
そして、この二チームは現在勝率十割で、直接対決を残したままになっていますので、これを考慮してこの二つのチームの直接対決、つまり予選Cブロック代表決定戦を、明日の最終戦にしたいと思います」
セランが宣言すると、会場からは一斉に雄叫びが上がった。どうやらそっちの方が盛り上がるらしく、消化試合も少しは盛り上がるようだ。
「連絡は以上だ。解散」
ナジェンダの言葉で、選手たちは続々と下校していく。
予選ブロック中は、クラスで集まることはなく、朝から会場に集まり、試合を行っていく。途中、作戦会議の時間やら昼食の時間などを挟むが、基本的に一日中試合ばっかりだ。
セイヤはユアとリリィと一緒に下校する。
予選ブロック中、ナーリとはあまり会えないため、この日も三人で帰ることになった。そして三人は夕食を食べ、寝る準備をすると、セイヤの部屋に集まる。
もちろん作戦会議のために。
「明日の試合だが、おそらく俺一人だと厳しいだろうな」
セイヤがふとそんなことを言う。
「あいつらの言い方からして、何か俺への対策をしてきているだろうな」
「うん……」
「そうね。となると私の出番かしら?」
セイヤの意見に賛同する二人。
リリィは作戦会議の時は大人バージョンになるため、最近の夜は毎日大人バージョンのリリィなっていた。そして作戦会議が終わると、そのままユアの前でセイヤのことを襲い始める。
そんなリリィを止めるのではなく、便乗してユアまでセイヤのことを襲うのが、ここ最近の日課であった。
「ああ、そうなるかもな。あいつらはユアの親衛隊を名乗るほどだ。ユアに付いての情報を持っていてもおかしくない。となると、切り札は俺が一度も見していない『纏光』とホリンズの連携か、リリィの水属性だろうな」
「ごめん……足手まといで……」
予選ブロックで何もできなさそうなユアが謝ってくる。
「気にするな、ユア」
「そうよ、ユアちゃん。その分、決勝ブロックで頑張ればいいんだから」
「ありがとう……」
ユアは二人に笑いながらお礼を言う。そしてその日の夜も、作戦会議やリリィの誘惑などで更けていき、三人はCブロック代表決定戦を迎えるのであった。




