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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
2章 アルセニア魔法学園編
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第51話 初戦

 結界内に入って行く男たちの顔は、セナビア学園でアンノーンと嘲笑いながらセイヤのこといじめてきたザック達に似ていると、セイヤは感じていた。


 結界内の森は、木のすべてが大樹で、太陽の光がなかなか入ってこない、深い森であり、地面には草が生えている。


 森の中は太陽が当たらないため、少し寒かった。なので、ユアとリリィは先ほどよりも更にセイヤに密着している。しかし、密着の理由は寒さだけではなく、先ほどの三人が気持ち悪かったからでもあるだろう。


 そんな二人の様子を見たセイヤが言う。


 「なあ、二人とも。この初戦は、俺一人に任せてくれないか?」


 二人が返答に困っていると、セイヤが理由を説明した。


 「あの三人はちょっと気に食わないから、懲らしめてくる。だから二人は木の陰から見ていてくれ」

 「わかった……」

 「うん!」


 ユアは素直に了承する。もしセイヤの顔に殺気などが含まれていたならば、ユアはすぐに止める気だった。しかしセイヤの顔を見たユアは理解する。


 セイヤがあの三人を殺す殺さない以前に、対等と見ていないことを。それは言うのであれば、道をふさぐ大きな岩が邪魔だから撤去しよう、と言った感じだ。


 そしてセイヤたちが結界内に入って十分が経ったのだろうか、森の中には澄んだ声が響く。


 「試合開始です」


 声の主はおそらくセランだ。森の中全体に声を響かせるため、反響魔法を使ったと思われる。


 セイヤはそんなことを考えながら、一人で森の中をゆっくり歩く。その手には、武器などは握られていない。


 森のように隠れる場所が多い場所では、敵の位置を補足することが大切だ。だからセイヤはまず敵を探すことから始めた。


 しかし、自分から探すのは面倒だったセイヤ。そこでセイヤは、あえて丸腰でいることで、敵をおびき出そうとしたのだ。


 敵が攻撃してくれば、攻撃のした方向に敵はいるはずだ。


 しかし敵もセイヤが丸腰でいることを不審に思ったのか、なかなか攻撃してこない。もしくはまだセイヤを見つけられていないのかもしれない。


 セイヤは仕方ないので近くにある木に寄り掛かり、座る。敵が攻撃してこない以上、座って待つか、もしくはまだ見つけられていないのなら、見つけてもらうしかない


 結界外でこの様子を見ていた他の選手たちは、驚きの声を上げた。しかし次の瞬間、彼らはさらに驚くことになる。なんとセイヤがそのまま目を閉じて、寝始めたのだ。


 結界外から見たらセイヤは完全に寝ているように見えた。だが、もちろんセイヤは大事な初戦などで寝たりなどはしない。


 セイヤは視覚、嗅覚の感覚を閉じることによって、聴覚に集中していたのだ。


 その際、光属性の魔力を耳に流し込み、聴力を上昇させて近くの音に集中している。その姿はかつてのセイヤのクラスメイトであるカイルドに似ていた。


 セイヤが周囲の音に集中してから三分ぐらい経った頃、セイヤが不意に目を開いた。


 「そこにいるのはわかっている。出てこい」


 セイヤがそう言うと、木の陰からは眼鏡の男と坊主の男が出てくる。


 「よく気づいたな。驚いたよ」


 眼鏡の男がセイヤに向かって手を上げながら言った。


 「ほかの二人はどうした? 戦力にならないからって、置いてきたのか? それともいい姿を見せるために格好つけたのか?」


 坊主の男もメガネの男に続いてそんなことを言う。


 「さあ、どっかにいるんじゃねーの」


 セイヤは先ほどとは百八十度変わった態度で、とぼけた。そんなセイヤの態度が不満だったのか、眼鏡の男が言う。


 「先ほどまでの敬意はどうした? 女が近くにいるからって、格好つけているのか?」


 眼鏡の男の発言に、坊主頭の男が笑った。しかし、セイヤは本音を語る。


 「敬意って、敬う相手に使うものだろ? なんで俺がお前らに敬意を払う必要があるんだ? さっきは教師の前だったからであって、最初からお前らに対する敬意なんてものは存在しない」

 「貴様ァ!」


 セイヤの本音に、眼鏡の男が大声を上げる。そんな時、セイヤに向かって背後から大きな火の玉が飛んできた。


 眼鏡の男と坊主の男は何もしていない。つまり、もう一人の茶髪の男だ。火の玉は大玉ほどある大きな玉で、セイヤの向かってものすごいスピードで飛んでくる。


 セイヤは即座に右手にホリンズを召喚すると、右手に召喚したホリンズにリリィの水属性を纏わせた。そして、その水属性の魔力を纏ったホリンズで、迫りくる火の玉を真っ二つに斬る。


 それを見た男たちがニヤリと笑みを浮かべる。


 「お前の適性は水か。今から俺らが先輩の力を、見せてやる」


 三人の男たちが、一斉に右手を前に出して詠唱を始める。


 セイヤは光属性の魔力を使えば三人を詠唱前に倒せたが、律儀に魔法が発動するまで待っていた。


 「「「火の巫女の心、今傷心する。『火針(ひばり)』」」」


 男たちは、火でできた針を千本、それも一人ずつ作り、セイヤに向けて放つ。


 セイヤには男たちによって行使された三千本の針が襲い掛かる。男たちはセイヤをこの魔法で弱らせ、痛めつける気なのか、続けて魔法行使する様子はない。


 セイヤは左手にもホリンズを召喚し、右手のホリンズと同様に、水属性の魔力を纏わせる。そして両手に水属性の魔力を纏ったホリンズを持つセイヤは、続けて脳と腕に光属性の魔力を流し込む。


 セイヤが上昇させたのは、両腕の機能、両腕の神経の電気の伝達速度、脳の処理能力、動体視力。


 上昇を終えたセイヤは、その場で回転しながら双剣ホリンズで火の針を一本一本切って、沈静化させて消していく。


 一本一本寸分の狂いもなく断ち切っていくセイヤの姿は、同じ人間のようには思えなかった。


 三人の男と、結界外から見ていた他の選手たちは目の前の信じられない光景に音場を失う。なんとセイヤは三千もの火の針を、わずか三秒で消し去ったのだ。


 そしてセイヤが男たちのもとへ、ゆっくりと歩いていく。


 「ひっ、くっ、来るな。化け物」

 「わあああああ」


 茶髪の男と坊主頭の男が情けない声を出しながら、セイヤから逃げていこうとする。そんな二人に対し、セイヤは両手に持つホリンズを投擲して、二人の男の心臓を突き刺す。


 心臓を刺された男たちは、その場で倒れて光の塵となってリタイヤした。


 セイヤの目の前には、腰を抜かして座り込む眼鏡の男がいる。その表情には恐怖が刻まれていた。


 「お前、一体何者だ? あんな動き、人間じゃねえ」


 眼鏡の男は、まるで化け物を見るかのような目で、セイヤのことを見ていたが、セイヤは普通に答えた。


 「あれくらいできる魔法師は、たくさんいるだろ」


 セイヤは当然の事を言った。セイヤが行ったことはインパクトがあったものの、常人にも可能な動きだ。しかし、眼鏡の男にしてみれば、セイヤの動きは規格外のものだった。


 「あっ、あんなの魔法学園の生徒にはできない。できたとしても千本が限界だ」

 「そうか」


 すでにセイヤの顔には眼鏡の男に対する興味はない。


 「なんだよ、なんなんだよ、意味が分からねぇよ」


 理解できないことに、声を荒げる男。そんな男に対し、セイヤは水属性の魔力を撃ち出した。


 「終わりだ」

 「うぐっ……」


 ただの水属性の魔力によって、男の心臓が貫かれた。そして次の瞬間、男の体が光の塵となって消える。


 「試合終了。登録番号86の勝利」


 そして森の中には、セイヤたちの勝利を告げるセランの声が響き渡った。


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