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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
2章 アルセニア魔法学園編
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第46話 特級魔法師と十三使徒(上)

 アルーニャ邸にある開けた場所に、セイヤたち三人の姿があった。


 そこは大きな広場になっており、サッカー場ほどの大きさを誇る。そんな場所で、特級魔法師ライガー=アルーニャと、十三使徒バジル=エイトの決闘が行われようとしていた。


 そして、広場にはもちろん例の結界が張ってある。肉体ダメージを精神ダメージに変換する結界さえあれば、どんなことがあろうとも、死ぬことはない。


 二人が本気で戦うには十分な環境が揃っていた。


 「準備はいいか?」


 二人の間に立つセイヤは、審判的な役割を果たしている。といっても、仕事といえるのは最初の決闘開始コールだけなのだが。


 「ああ、いいぜ」

 「問題ない」


 ライガーとバジルが、セイヤに向かって答える。


 「そうか。なら、始め!」


 セイヤは決闘開始の宣言をすると、すぐにその場から立ち退く。下手をして決闘に巻き込まれるわけにはいかないから。


 「出でよ。『ブリューナク』」


 最初に動いたのはバジルだ。氷の槍、ブリューナクを召喚したバジルが、ライガーに迫る。


 「『避雷針』」


 ブリューナクを手に迫りくるバジルに対し、ライガーは緑色の魔法陣を展開すると、そのまま雷を撃ち出した。


 バチバチ、と音を立ててバジルに襲い掛かる緑色の雷。しかし、バジルはすぐに魔法を行使して、ライガーの撃ち出した雷を防ぐ。


 「誘え。『氷壁(ひょうへき)』」

 「やはりクイックメーカーの名は伊達じゃないな」

 「それはどうも」


 次の瞬間、氷の壁が出現し、バジルのことを守る。氷の壁を見たライガーは、さすが十三使徒はレベルが違うと感じた。しかし、だからといって、ライガーはここで諦めるような男ではない。


 「雷の加護を宿りし絆、今こそわが手に顕現せよ。『雷神鬼』」


 ライガーが詠唱を終えると、その手には大きな戦斧が握られる。軽く一メートルは超えている戦斧を手にしたライガーは、そのまま戦斧をバジルに向かって振り下ろす。


 「ふん!」

 「これは!?」


 ライガーによって振り下ろされる戦斧を、ブリューナクで防ごうとしたバジル。しかし、ブリューナクが雷神鬼に触れる直前、バジルはとっさに防御から回避に変えた。


 バジルが避けたことにより、地面に振り下ろされた雷神鬼。そして振り下ろされた雷神鬼の周囲が遅れて焦げる。


 「追撃型の雷ですか」

 「よく気づいたな」

 「ええ、あなたほどの人が単純な攻撃をするわけはないですから」


 小さくだが笑みを浮かべるバジル。しかしその顔には、一切の余裕がない。


 「どうやら様子見をしている余裕はないようですね。変化せよ。『氷変』、『ブリューナク』」


 バジルは余裕がないと見るや、すぐに新たな魔法を行使した。だがその魔法の対象は、ライガーではなく、バジルが握るブリューナク。


 バジルが魔法を行使すると、ブリューナクに変化が生じる。


 槍の先端が少しだけ長くなり、グルグル巻きになる。そして先端の少し下には、サメの背びれのような鋭い氷の刃が生える。最後に槍の中心に、きれいな一輪の氷の薔薇が咲く。


 豹変したブリューナクを見たセイヤは、まるで氷の竜のようだと感じた。そして同時に、その槍は貫くためだけに生まれたと思えた。


 (これが十三使徒……)


 セイヤは心の中で十三使徒の力に感嘆しながらも、ライガーがどう出るのか気になっていた。


 ライガーは豹変したブリューナクを見ると、先ほどまでより、一層表情を厳しくする。


 「これはまた、とんでもない武器を出してきたな」

 「ええ、これは氷竜の魂を宿した槍です。いくら特級魔法師といえども、貫かれたら一貫の終わりでしょう」


 豹変したブリューナクを片手にライガーを見据えるバジル。そこには確かな余裕があった。


 しかし余裕ならライガーにもある。


 「確かに貫かれたら終わりだ。だが、当たれば、の話だ」

 「というと?」

 「俺の二つ名は雷神だぜ?」

 「まさか!?」


 ライガーのことを驚愕の眼差しで見つめるバジル。それはセイヤも同じだった。


 「ああ、そのまさかだ。雷神の加護ここにあり、今こそその力を我に纏へ。『雷神』」


 次の瞬間、ライガーの身に雷が纏われる。その姿はセイヤがダリス大峡谷で対峙した雷獣に似ていたが、雷の質が違っていた。


 雷を纏ったライガー。その姿こそが、雷神の異名をもつライガーの本気だ。


 まさかセイヤもこんなところで見られるとは思っていなかった。


 「いくぞ」


 そう言い捨てたライガー、しかしその言葉がバジルの耳に届くときにはすでに、ライガーの姿はそこにはない。


 「こっちだ」

 「!?」


 バジルは慌ててライガーの声がした方法を見たが、そこにはすでに戦斧を構えているライガーの姿があった。距離にして一メートルもない、そんな間合いで、ライガーは雷神鬼を振り抜く。


 「ぐっ……」


 バジルはとっさにブリューナクで防ごうとしたが、かろうじて致命傷を防ぐことができただけだった。雷神鬼によって吹き飛ばされたバジルが地面を転がる。


 「まだだ」

 「なに!?」


 しかし次の瞬間には、ライガーの姿はバジルの転がっていく先にあった。そして先ほどと同様、ライガーがバジルに向かって雷神鬼を振り下ろす。


 「誘え。『氷壁(ひょうへき)』」


 バジルはすぐに氷の壁を展開して防御しようとしたが、雷神鬼が氷の壁に触れた瞬間、氷の壁が一瞬にして蒸発する。


 「くっ、流氷の巫女。『アイスロック』」


 氷の壁が蒸発し、水蒸気によってやや視界が悪くなった中、バジルの新たな魔法がライガーに襲い掛かった。バジルの倒れている周りの地面に水色の魔方陣が展開され、無数のツララが発生し、ライガーのことを襲う。


 「ちっ」


 ライガーはツララを回避するため、バジルから距離をとる。




 二人の戦いを見ていたセイヤは言葉が出なかった。


 雷神の異名を持つライガー、彼の速さはセイヤに匹敵する。それでいて、あの重たい雷神鬼を使いこなすのだから、さすがは特級魔法師であろう。


 しかしセイヤは気づいてはいない。ライガーの動きを認識できる時点で、それ相応の実力を備えていることを。


 もし仮に、並みの魔法師がライガーの動きを見たところで、まずその動きを見ることはできない。たとえ認識できたとしても、一体何が行われているのか、理解はできない。


 だからライガーの動きをしっかりと認識しているセイヤはかなりの実力者なのである。


 そして、セイヤはバジルの動きのも感嘆していた。高速で襲い掛かってくるライガーに対し、的確に、かつ最善の攻撃をするバジルの状況判断力は相当のものだ。


 まさに二人の戦いは、実力者同士の熱戦だった。




 そんなセイヤの感想とは裏腹に、バジルはかなり苦戦していた。高速で攻撃を加えてくるライガー、それに対する策はあるが、決定的とは言えなかった。


 高速でどこから襲い掛かってくるかわからないライガー。それなら全方位に攻撃をすればよい。


 これこそがライガー攻略法だ。そしてバジルはその策ができる魔法師である。


 しかし、それでは決定打には決してならない。


 ただでさえ固いライガーの防御が、雷を纏ったことによって、より一層硬化している。そしてそれを破るには、一点集中の攻撃しかない。


 だが、そんなことをすれば当然ながら防御はザルになり、ライガーに隙を晒してしまう。


 まさに大ピンチ。十三使徒の力をもってしても、雷神のことを仕留めるのは難しかった。


 「急におとなしくなったな」

 「くっ……」


 余裕な表情で雷神鬼を担ぐライガーに対して、バジルは睨むことしかできない。


 強固な防御、そして認識速度を超えた動き、攻撃こそ最大の防御というが、この状態ではそんな言葉など通用しない。いや、そもそも前提が違うのだから、考えたところで無駄である。


 (あれを使うしかないか……)


 バジルは心の中で、この状況を一発逆転できる魔法のことを考えた。その魔法は強力ゆえに、リスクが伴う。


 普段なら使用を躊躇う魔法だが、今は全く躊躇いなどない。最初こそ、雷神の娘であるユアから話を聞くために決闘を提案したバジルだったが、今ではそんなことはどうでもよかった。


 今はただ、強者との戦いを楽しんでいるだけだ。そして勝ちたい、そう思っている。


 だからこそ、勝つために最善を尽くす。


 「竜化解放!」


 グギャーーーーーーーーーーーー


 次の瞬間、ものすごい咆哮を上げながら、バジルの握っていたブリューナクが、槍から竜の姿へと変わった。

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