第45話 珍客
十三使徒が訪問して来たため、ライガーがその対応に当たる。なので、セイヤは部屋から出ようとした。
「待て、お前も一緒に来い」
「俺もか?」
なぜ自分も同席する必要があるのか、と疑問に思うセイヤ。しかしライガーには薄々十三使徒の訪問して来た理由が分かっていた。
「そうだ。十三使徒の用件は十中八九、お前だ」
「俺が?」
「ああ、おそらく暗黒領を調べて消滅の痕跡を見つけたのだろう。十三使徒なら闇属性を知っていてもおかしくない。
それに巷で噂になっているアルーニャ家は子供たちに魔獣討伐に行かせるという噂を聞き、お前らが暗黒領から帰還したことを知ったのだろう」
「そういうことか」
一瞬にして纏う雰囲気を変えるセイヤ。二人は緊張しつつ、十三使徒の待つ部屋へと向かう。
二人が部屋に入ると、そこには銀色の長い髪をした男が座っていた。ライガーはその男の正面に、セイヤがライガーの隣に座る。
使用人のメレナが、全員分の紅茶を出して部屋から退出すると、銀髪の男が挨拶をする。
「顔を合わしたことは何度かありますが、自己紹介をするのは初めてですね。
私は聖教会十三使徒の一人、バジル=エイトと申します。この度は急な来訪に応えていただき、感謝します」
バジルが自己紹介をして頭を下げると、続いてライガーも自己紹介を始めた。
「特級魔法師のライガー=アルーニャだ。急な来訪には驚いたが、気にする必要はない。そして、こっちが……」
「わかっています。キリスナ=セイヤ君ですよね?」
セイヤのことを紹介しようとしたライガーだったが、その前にバジルがセイヤの名前を言う。
バジルの言葉を聞き、苦笑いを浮かべるライガー。
「まさかセイヤのこと知っているとはな。用件は人攫いの件だろ?」
「ええ、あの事件の解決こそが、私の七賢人から受けた命です」
ライガーの質問に対し、バジルはあっさりと答える。ライガーは質問を続ける。
「どこまで知っているんだ?」
「彼がウィンディスタンの学生ということだけです」
素直に答えるバジル。しかしバジルがそれ以上の事も知っていると思ったライガーは、さらに質問を続けた。
「ほかには?」
「彼が闇属性を使う可能性があり、人攫いの施設を消滅させた第一候補です。あとは、ダリス大峡谷を通れるほどの実力を持っている、といったところでしょうか」
「よくわかっているな」
バジルの言葉に苦笑いを浮かべるライガー。
そんなライガーからし視線を外し、バジルはセイヤのことを見据える。
「ところで、君がキリスナ=セイヤ君ですね?」
「はい。俺がキリスナ=セイヤです」
相手が十三使徒であるため、一応だが敬語を使うセイヤ。しかし心中ではかなり
セイヤが質問に肯定すると、バジルは納得した顔になる。そんなバジルに対し、ライガーが質問をする。
「それで、セイヤのことを七賢人に報告するのか?」
ライガーは真剣なまなざしで聞いた。
「ご安心ください。今回の来訪は聖教会十三使徒バジル=エイトではなく、一個人の、バジル=ナーベリアとしての来訪です。それに七賢人にはもう解決したと報告してしまいました」
ライガーはバジルの答えに目を細めるが、すぐに次の質問をする。
「バジル=ナーベリアとして、とは、どういうことだ?」
「単純な話です。ただ、私個人がこの事件の真相を知りたいだけで、本当のことさえ教えて貰えれば、満足して帰りますよ」
「なるほどな」
報告する気はないというバジルだが、これは一種の脅しに近い。もしここで、事件の真相を教えなければ、バジルは七賢人に報告するかもしれない。
「それでセイヤ君、あの施設で何があったのか、教えてくれませんか?」
セイヤはライガーの方を見て、どうすればいいと聞くが、ライガーはお前に任せると答えた。
なので、セイヤはあの施設での出来事をすべて話すことにする。
「施設の中心人物は白衣を着た男で、魔法師ではなかったと思います。俺は殺される直前に闇属性魔法を使って、白衣に男を消滅させ、その後、施設もすべて消滅させました。
その後、この家の長女と出会い、保護してもらっています」
「この家の長女も誘拐されていたのですか? そんな報告は聞いていませんが……」
バジルは驚いた顔でライガーのことを見たが、ライガーは飄々と答える。
「安心しろ。報告はしてない」
「なぜですか?」
「こっちの情報網を使っていたからな」
「協会ですか?」
「そうだ」
バジルはあきれた、という顔でライガーのことを見つめたが、すぐに視線をセイヤに戻す。
「ところで、君は施設を消したと言っていましたが、他の人や犯人のことを考えなかったのですか?」
「別に考えていませんでした」
バジルの顔が一瞬、険しくなる。
「クラスメイトも?」
「どちらかと言うと、クラスメイトの方がどうでもよかったですね。
いつも俺に暴力をふるい、最後は自分が助かるために俺のことを見捨てた。そんなやつらを助けられるほど、俺は強くない」
バジルのセイヤを見る目が、徐々に険しくなっていく。
「君はそれで後悔してないのか? 被害者の中には、他の人もいたかもしれないのだぞ?」
バジルは少々声を荒げながら、セイヤのことを睨む。それに伴い、セイヤもまた、表情を厳しくする。
「後悔はないし、これからもする気はない。捕まった時点で、そいつの責任だ。捕まってもなお、抗おうとせず、助けを待っているやつを助けるほど、俺には余裕がなかった」
セイヤは自分の思っている本音を言った。
それは魔法師として間違ったことではない。魔法を習った時点で、自分の身は自分で守らなければならないし、問題が起きても自己責任だ。
いくら魔封石によって魔法が使えなかったからと言って、助けをただ待つのは魔法師として評価はできない。
しかし、バジルはセイヤの言い方に納得できなかった。
「貴様!」
「落ち着け」
バジルが立ち上がり、声を荒げるが、ライガーが静かに重く言う。
「失礼しました」
「セイヤの言っている意味が分からないわけがないだろ? お前はウィンディスタンでのセイヤの成績を知っているはずだ」
ライガーの言う通り、バジルは参考資料としてセイヤの成績などを見ていたため、セイヤの成績を知っている。
「初級の中でも下の方……」
「そうだ。そんな奴に、敵と戦って人質を助けろと?」
「力を隠していたのでは?」
バジルはライガーではなくセイヤの方を見て聞く。
「いや、殺される直前で使えるようになった」
「そうか、すまない」
バジルも、セイヤも、いつの間にか敬語ではなくなっていたが、二人はそんなことを気にしない。
「それで、ライガー殿はなぜ彼を居候に?」
「それは娘の婚約者だからだ」
「婚約者?」
「ああ、そうだ」
ライガー言っていることを理解できていないバジル。なぜなら普通、特級魔法師が自分の娘の婚約者に、闇属性魔法を使える男を選ぶとは思えないから。
「本音は闇属性魔法師の確保ですか?」
バジルは裏に何か意図があると思い、質問したが、ライガーの答えは違う。
「違う。娘がセイヤを婚約者に望み、セイヤも婚約者でいいと言った。別に闇属性魔法など関係ない」
「そうですか」
バジルはそこで一呼吸置き、話題を変える。
「ところで、暗黒領から帰還の際、少女がもう一人いたと聞いていますが、その子は誰ですか?」
「そいつはダリス大峡谷にいた妖精だ。俺が契約して連れて来た」
バジルの質問にはライガーではなく、セイヤが答える。
「契約って完全契約か? いったいどうやって?」
セイヤの答えは衝撃が強すぎため、かなり間抜けな顔になってしまうバジル。世間が今のバジルの顔を見たら、十三使徒に失望してしまうのではないかいうぐらいだ。
「どうやってかは秘密だ。といっても、教えたところでできるのは今のところ俺だけだがな」
「お前はいったい何者なんだ? 闇属性魔法だけでなく妖精とも完全契約なんて……」
バジルはセイヤのことを見て、言葉を失う。だがその答えは、セイヤ自身も求めているものだった。
「自分が何者かは、俺が一番知りたい」
「記憶を失っているのか?」
「まあな」
「すまない」
バジルはセイヤが記憶を失っていることを、非常識に聞いてしまったと思い、謝罪する。しかしセイヤからしてみれば、セナビア魔法学園でさんざん言われてきたことなので、特に気にすることはなかった。
「それで、お前はセイヤが闇属性魔法を使えて、妖精とも完全契約できるということを、七賢人に言わないんだな?」
ライガーはバジルに最終確認をする。
ライガーが一番恐れていたこと、それはセイヤの秘密が聖教会に知られ、セイヤが聖教会に連れて行かれることだ。
そうなってしまうと、再びユアの信頼できる人間が消えてしまう。
セイヤと出会ってからのユアは、以前のユアとはまったく変わっており、とても輝いていた。だからライガーは、そんなユアを前のユアに戻したくない。
「安心してください。何か問題がない限り、報告する気はありません。ただ、できればライガー殿の娘にお話を聞きたいのですが」
バジルはセイヤのことを七賢人に言わないかわりに、ユアから施設の話を聞こうとする。しかし、それに対するライガーの答えは決まっていた。
「それはできない」
「なぜですか?」
「あいつに拉致された時の記憶を思い出させたくないからだ。あいつは今という時を楽しんでいる。だからあいつに、そのことを聞くのは許さない」
ライガーは本音を言った。しかし、バジルとしても引き下がることはできない。
「もし、セイヤ君の情報を七賢人に報告すると言っても?」
「ああ、その場合は、俺がお前を消す」
ライガーは殺気こそ出してないものの、かなりのプレッシャーをバジルに向ける。それに対し、バジルもまた、ライガー同様の威圧感を放つ。
特級魔法師と十三使徒の威圧のぶつかり合い、普通、こんなところにいたらすぐに気を失ってしまうものだが、セイヤは平然としていた。
「十三使徒を殺したら、どうなるか分かっているんですか?」
たしかに、もし仮にライガーがバジルを殺した場合、聖教会の敵と認定され、十三使徒や、協会、それに各地の魔法師たちが敵となる。
そうなったら最後、レイリア王国では生きていけない。しかし、ライガーは笑っていた。
「その時は戦うさ。何せうちには特級魔法師一人に、それと同等の力を持つセイヤがいる。俺の娘も強いぞ。しかも妖精までいる。お前は戦争を起こす自信はあるのか?」
ライガーは何かを確信している感じだった。人数的には辛いが、まるで援護があるから絶対勝てる。それは根拠のある自信だ。
バジルはそんなライガーに対し、不気味さを感じた。そしてこの場での最適な方法を考える。
「ライガー殿、決闘をしませんか?」
「決闘?」
「そうです。もしライガー殿が勝ったならば、私はセイヤ君のことも七賢人に報告せず、娘さんに話を聞きません。
しかしもし私が勝ったら、娘さんに話を聞かせてもらいたい」
確かに決闘なら、お互い死なない。そして「弱者は強者の言うことを聞く」この方式は、よくフレスタンで使われる方式であった。
「いいだろう」
こうして、世にも珍しい特級魔法師と十三使徒の決闘が始まるのだった。




