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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
2章 アルセニア魔法学園編
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第44話 目覚めは美幼女と

 セイヤたちがアクアマリンの前夜祭から帰った翌日の朝、セイヤはなぜか、自分のベットではなく、リリィの部屋のベッドで目を覚ました。


 セイヤの隣では子供バージョンのリリィがスヤスヤと眠っている。


 「なぜ、俺はリリィの部屋で寝ているんだ?」


 なぜ自分がリリィの部屋にいるのか、疑問に思うセイヤ。


 リリィの部屋は廊下の一番奥にあり、セイヤの部屋とはユアの部屋を挟んで離れている。だから部屋を間違えたということはありえない。


 しかしリリィに理由を聞こうにも、彼女はまだ夢の中だ。


 「昨日は自分の部屋で寝ていたはず。なのに、なぜ……」


 セイヤは自分がここにいる理由を思い出すため、昨夜の記憶をたどる。


 「そう言えば……」


 昨晩、セイヤが自分の部屋で寝ていると、急に部屋の扉が開かれた。そして開かれた扉から姿を現したのは、妖艶な雰囲気を纏った大人バージョンのリリィ姿だ。


 「どうしたんだ、リリィ?」


 セイヤがリリィに聞くと、リリィはよりいっそう妖艶さを増し、セイヤに近づく。


 「うふふ、夜這いよ」

 「ふざけるな」


 セイヤが困った顔でリリィのことを注意すると、リリィは顔を膨らませながら答える。


 「セイヤ君ったら酷い。今日のアマコンで頑張ったって言うのに、ご褒美はないのかしら?」


 どんどんと妖艶な雰囲気を増していき、ベッドの上に座るセイヤの隣に腰かけたリリィ。その表情は、普通の男が一度見れば、理性を崩壊させることが容易だ。


 しかし、セイヤはいつも通り答える。


 「それは感謝している。だが、頑張ったのはユアも一緒だろ」

 「そうだけど、私が出てこられる時間は短いのよ? その時間を使って、セイヤ君に尽くしたのに、ご褒美がないなんて、セイヤくん、ひど~い」


 妖艶さに加え、悲壮感を混じらせたリリィが、上目使いがセイヤのことを見つめる。


 確かにリリィの言う通り、大人バージョンのリリィが外に出て来られる時間は短い。そして、そんな貴重な時間を自分のために尽くしてもらったセイヤは、リリィの要望に応えたいと思う。


 「わかった。それで、何をしてほしいんだ?」

 「ありがとう、セイヤ君。今から私の部屋に来てくれないかしら」


 リリィは嬉しそうな表情を浮かべ、セイヤのことを自分の部屋へと連れ出す。そして、部屋に着くと同時に、セイヤの腕を引っ張り、ベッドの中に引きずり込んだ。


 「セイヤ君。今日は私と一緒に寝て」


 リリィの表情はいつもと違い、どこか真剣だった。セイヤはその瞬間、リリィが何を求めているのかを悟る。


 リリィが求めていること、それは完全契約の代償である魔力の交換だ。そして魔力の交換は、膨大な魔力を交換するため、長時間を要する。


 だから一夜をかけて行うのだ。


 セイヤが素直にベッドの中に入ると、セイヤに抱き着くリリィが優しく囁いた。


 「ありがとう」


 セイヤの意識はそこで途切れる。


 そして時間は進み、朝、場所はリリィの部屋。


 「あの後どうなったんだ?」


 セイヤが記憶の続きを思い出そうとするが、思い出せない。そんな時、セイヤの隣で寝ていたリリィが目を覚ます。


 ところが、リリィはなぜか全裸で、しかも睡眠をとっていたにもかかわらず、どこか疲れているように見える。


 そんなリリィに対し、セイヤは昨晩のことを聞いたが、リリィは何のこと? と言った顔をしてキョトンとする。


 昨晩の真相は、どうやら大人バージョンのリリィしか知らないらしい。


 二人はその後、朝食をとるために食堂へと向かった。


 二人が食堂に着くと、すでにユアとユアの両親がいた。ユアたちはセイヤたちのことを待っていたようで、五人が揃うと、朝食が始まる。


 朝食にはパンケーキにソーセージとたまご、あとはサラダなどがついており、ドリンクにはフルーツジュースやコーヒー、紅茶、ミルクなどがあった。


 朝食を食べ始めてすぐ、ユアの母であるカナがユアとリリィに向かって言う。


 「ユアちゃん、リリィちゃん、今日は女性陣だけでショッピングに行かない?」


 カナの言葉に、ユアとリリィはショッピング? と言った顔をする。そんな二人にカナが説明を始めた。


 「もう少ししたら暑くなるでしょ? そのために服を買いに行きましょう。セイヤ君をメロメロにするワンピースなんてどうかしら?」


 カナはセイヤのことを見ながら、ニコニコして言うため、セイヤは反応に困ってしまう。しかし、ユアとリリィはすぐに答えた。


 「行く……」

 「行く!」


 ユアとリリィは、真剣なまなざしで答える。そんな二人を見たカナが、「うふふ」と言いながら、セイヤ向かって言う。


 「セイヤ君は、幸せ者ね」


 カナの言葉に、セイヤはまたも反応に困ってしまう。そんなセイヤの様子を見て、また「うふふ」と笑うカナ。


 この人はもしかしたらドSなのかもしれない、と思うセイヤであった。


 朝食後、女性陣はカナに連れられてショッピングに連れて行かれると、セイヤはライガーに呼ばれていた。


 セイヤが部屋に入ると、ライガーは来客用のソファーに座っており、セイヤもライガーの正面に腰を下ろす。


 話はすぐに始まった。


 「まず昨日のことだが、問題なしだ」


 昨日の事とは、ミスコンで暴走した観客たちを、セイヤが気絶させたことだ。あの後、ライガーがセイヤの正当性を主張し、お咎めなしになっていた。


 「そうか。迷惑かけたな」

 「気にするな、お前は未来の息子だからな」


 ライガーは笑いながら言うが、直後、目を細めて真剣な表情になる。ライガーの変化に伴い、セイヤも表情を引き締める。


 「ただ、協会の連中が目を付けている」

 「きょうかい? ああ、特級の協会の方か」

 「そうだ」


 協会とは、特級魔法師によって作られる機関であり、聖教会などからは独立している。


 協会に入ることができる魔法師は、特級魔法師以上であり、その権力は聖教会にも及ぶ。それに加え、比較的自由に動ける機関だ。


 例えば、アクエリスタンの教会がウィンディスタンに干渉したい場合、まずは聖教会に要請をして、次に聖教会がウィンディスタンの教会に返答を聞く。


 そして、その返答がアクエリスタンの教会に知らせ、ウィンディスタンの教会が干渉を了承すれば、初めてアクエリスタンの教会はウィンディスタンに干渉できる。


 この手続きだけで、早くても丸一日はかかる。


 しかし、特級魔法師による協会はそのような面倒な手順を取らずとも、各地に干渉できるのだ。


 言ってしまえば、協会は聖教会の暴走を止めるために設置されたような機関であり、聖教会もまた、協会の暴走を止めるための機関である。


 両者は互い牽制(けんせい)しあうことによって、平和なレイリア王国を保ってきた。


 しかし、セイヤには疑問が残る。


 「なぜ協会が?」


 セイヤには、自分が協会に目を付けられている理由に、見当がなかった。


 しかしライガーの答えは意外のものであった。


 「それは俺が二人を家に置いているからだ。リリィの方は養子だから問題ないとして、お前の方は居候となっている。

  協会の中には、お前が特級になりうると考える奴もいるようで、お前の身辺を調べているみたいだ」

 「なるほど。そういうことか」


 ライガーは昨日、挨拶と言ってアクアマリンの運営委員とあいさつをしていたのだが、その際、他の特級魔法師とも会っていた。


 「現在この国にいる特級魔法師は全部で十二人。俺らは皆、力が拮抗しており、争った場合は甚大な被害を出すことになるだろう。

  そこで各一族は、有望な若手魔法師を取り込むことにより、力を付けようとしているところもある。そしてその中にうちも含まれたようだ」

 「それで俺が目を付けられたと?」


 確かに納得できる話だ。特級魔法師は強力な魔法師である分、影響力も強い。もし仮に、新たな特級魔法師が生まれるのであれば、協会もそれなりに調査するはずだ。


 「そういうことだ。他の特級魔法師から見れば、お前はうちの期待の戦力という事になる。だから身辺調査も厳しくなるぞ」

 「おいおい、よしてくれよ。そんな面倒お断りだ」


 やっと平和な生活が手に入ったというのに、協会などに関わったらたまらないと思うセイヤ。


 「俺もやめさせたいところだが、ここで隠すとさらに厄介なことになる。だから放置することにした」

 「はあ、わかったよ」


 そして二人の話が終わりかけた、その時。使用人である緑の髪の女性、メレナが部屋に入ってきた。


 「失礼します、旦那様。旦那様にお客様が来ております」

 「俺に? 連絡は来ていないが」


 ライガーほどの人間ならば、来客が来る際に必ずアポを取ってくるはずだ。なので、アポがない時点で今日は何もない日ということになる。


 しかし来客が来た。それはつまり、客が日程を間違えている、もしくは、ただの非常識な奴ということになる。


 ところが、メレナの答えはライガーの考えを、斜め上以上に行くものだった。


 「聖教会の十三使徒です。なんでも、アポなしで無礼承知の上だそうです」

 「十三使徒が? わかった。客間に通せ、すぐに行く」


 ライガーは一瞬にして纏う雰囲気を変えるのだった。


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