第39話 美少女たちとランチ
セイヤが学園長室から教室に戻れたのは、三時間目の自主練の半ばだった。
本当なら休み時間の間に終わるはずだったのが、セレナとの時間があった分遅れてしまったのだ。
セイヤが教室に戻ると、教室中がセイヤに注目する。そんな中、ユアがセイヤのもとへと近づく。
「おかえりセイヤ……どうだった……?」
「大丈夫だ」
「それはよかった……」
クラス中が、セイヤとユアに注目している。
いつもなら自主練野ためにどこかへと移動するのだが、今日は全員違っていた。全員が、セイヤとユアの関係が気になり。教室に残っていたのだ。
セイヤとユアはそんなクラスメイトたちのことを放置して、二人だけで話を続ける。
「ユアは自主練しないのか?」
「私はセイヤと一緒にいる……」
「そうか。じゃあ、移動するか」
「うん……」
二人は一緒に自主練をすることを決めると、教室から出て行た。
そして残されたクラスメイトたちはお互いに目を合わせ、頷くと、セイヤとユアに続いて教室を出る。そして教室を出た二人の後を追う。
「面倒だな」
「逃げる……?」
「そうするか」
二人が訪れたのは、先ほどまでリリィとナーリのいた噴水のある中庭。しかし二人はそこで自主練をする気はない。
二人は後ろからぞろぞろと着いてくるクラスメイトたちのことを鬱陶しそうに見ると、次の瞬間、二人が同時に魔法を行使した。
足に光属性の魔力を流し込み、脚力上昇させる魔法、『単光』を行使した二人。そして二人は大きな体育館の屋根の上へと降り立った。
「「「なに!?」」」
クラスメイトたちは、二人が体育館の屋根の上に跳躍した姿を見ると、大急ぎで体育館へと駆け出す。もちろん二人を追いかけるためだ。
だがセイヤたちはクラスメイトたちを待つほど優しくはない。二人はもう一度同じ魔法を行使して、今度は校舎の屋上へと飛び移る。
「ここなら大丈夫か」
「うん……」
屋上に移動した二人は、ひとまず安心した。
アルセニア魔法学園もセナビア魔法学園と同様、屋上の生徒による使用は禁止されている。しかし見つからなければ問題ない、ということで、二人は屋上で自主練をすることにした。
残されたクラスメイトたちは、いきなり跳んで消えた二人を探しに体育館の方へと向かったが、当然のそこに二人はいない。
セイヤとユアはクラスメイトたちをまくことに成功したのだ。
「なんとかまくのに成功いたな」
「うん……」
「そういえばさっきは大丈夫だったか?」
「セイヤ酷い……押し付けた……」
「悪かったって」
どうやらユアは、先ほどセイヤがクラスメイトたちの対応を押し付けたことに怒っているらしい。
セイヤはユアの機嫌を直すため、ユアの頭を撫でたが、今回のユアの機嫌はそう簡単には直らなかった。
なぜならユアが求めていることは違うことだからから。
「セイヤ……キス……」
「ここでか?」
キスを求めてきたユアに対し、セイヤは困惑する。
さすがに学園でするのはどうかと思ったセイヤ。しかしユアの機嫌を直すためには仕方ないと心を決め、セイヤは自分の唇をユアの柔らかい唇に軽く触れさせる。
「これでいいか?」
「うん……」
ユアが満面の笑みで頷き、セイヤも自然と笑みがこぼれる。二人はその後、屋上で自主練を始めた。
ユアはセイヤの『纏光』を実践で使えるように練習する。
これはリリィとの戦いで、防御できない攻撃は回避する必要があると知ったためだ。しかし最初からうまくいくわけもなく、かなり苦戦しているユア。
そんなユアのために、セイヤも練習の手伝いをした。
その結果、少しだけ成功したが、それでも実戦で使うのには程遠かった。そして、これからも要特訓ということになる。
セイヤは新たな試みをしていたのだが、ユア同様、まったく上手くいかなかった。
セイヤが行っていたのは、リリィのゲドちゃんこと、水のドラゴンの召喚だ。
リリィとの契約で使えるようになった水属性の魔力を使い、水を生成し、その水でドラゴンを作ろうとしたセイヤ。
しかし、セイヤが作ることができたのは小型動物が限界で、結局ドラゴンの形にすらならなかった。
セイヤもユア同様、これからの特訓が必要だ。
二人は四時間目が終わるまで自主練をして、その後はリリィを迎えに行く。
二人がリリィの所属するクラスに向かう途中、たくさんの訓練生たちがユアと腕を組み、歩くセイヤのことを嫉妬のまなざしで見ていたが、セイヤは無視をした。
訓練生に威圧を放つほど、セイヤも子供ではなかった。
セイヤとユアがリリィの所属する教室の前に着くと、リリィの方から出てくる。
「セイヤ!お姉ちゃんも!」
その姿はいつものリリィ。どうやらリリィは問題なくクラスに馴染めているようで、安心した二人。
「おう、リリィ」
「リリィ、お昼行くよ……」
セイヤとユアは、リリィと昼食に行くために迎えに来たのだ。そんなリリィの後から、一人の少女がリリィに話しかける。
「リリィの知り合い?」
「うん! セイヤとお姉ちゃん」
「お姉ちゃんって、ユアさん?」
「そうだよ!」
赤髪のショートカットの少女、ナーリがリリィを見て驚いた表情を浮かべる。
それは教室の中にいた生徒達も全員同じようで、驚愕の表情を浮かべながらユアとリリィのことを交互に見る。
「その子がリリィの言っていた友達か?」
セイヤがリリィに聞くとリリィは頷く。
「そうだよ!」
「あっ、初めまして。私はリリィのクラスでクラス委員をしてるナーリといいます」
ナーリはセイヤとユアに向かって、丁寧にあいさつをする。
「そうか。俺はキリスナ=セイヤ。これからもリリィをよろしくな」
「私はユア=アルーニャ。妹がお世話になっている」
「いえ、私はそんな……」
ナーリはユアの美貌に戸惑いながら固まる。そんなナーリに対し、セイヤが助け舟を出す。
「俺らはこれから昼に行くけど、よかったらナーリも一緒にどうだ?」
「えっ、あっ、えっと、いいんですか?」
ナーリが驚きながらセイヤのことを見る。
相手は見ず知らずの男子生徒、そしてこの学園一可愛いと言われているユア、そして、そして、そんなユアの妹である美幼女リリィ。
ナーリはそんな三人と一緒に行動していいのかと、本気で考えてしまう。しかし、そんなことをセイヤが理解しているはずもなかった。
「ああ。その方がリリィもいいだろ?」
「うん!」
「決定……」
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて」
そんなこんなで、四人は学園外のあるちょっと高級なレストランに来ていた。
レストランには魔法学園の生徒はいなかったものの、他の客たちはセイヤたちのテーブルの方をずっと見ていた。
その視線には、絶世の美女二人と、普通に可愛い女の子の中で楽しそうに食事をするセイヤ対しての嫉妬がほとんどだ。
だが、いい加減、嫉妬の眼差しに慣れてきたセイヤは周りからの視線を気にしない。
そんなセイヤに対し、ナーリが聞いた。
「ところでセイヤ先輩はユアさんと付き合っているのですか?」
ナーリの疑問はもっともだろう。
二人で腕を組みながら行動し、片時も離れないように思われる。そんな二人はどこからどう見ても恋人同士だ。
しかしユアの答えはナーリの予想を超えるものだった。
「セイヤは私の婚約者……」
「こ、婚約者ですか!?」
「そう……」
婚約者という言葉に赤面するナーリ。どうやら十四歳の少女には早い話題だったようだ。
しかし直後、婚約者という言葉だけで赤面しているナーリに対し、リリィがまたしても爆弾を落とした。
「それで、リリィがセイヤの愛人!」
「あっ、愛人!?」
「そうだよ!」
ナーリは口を開けたままパクパクさせている。
それは周りの客も同じようで、先ほどよりもより更に殺気のこもった視線でセイヤのことを睨んでいた。
そんな周りの視線に鬱陶しさを感じたセイヤが、一瞬だけ威圧を放つ。すると、一瞬にして周囲の客はセイヤたちから目を背けた。
本能的に、これ以上は危ないと悟ったのだ。
一方、情報処理ができず、言葉が出ないナーリ。セイヤはすぐにナーリに対してフォローを入れた。
「落ち着いてくれ、ナーリ」
「せっ、先輩はどう思っているのですか?」
「俺はリリィが望むんだったら」
それはセイヤの本心。セイヤはリリィが望むのであれば、それでもいいと考えていた。
契約云々は関係ない。ただ、セイヤはリリィが悲しむ姿を見たくなかったから。
しかしそんな事情を知らないナーリはセイヤのことを睨む。
「最低」
ナーリの瞳からは「この女たらし!」と言いたいことがわかった。しかし十四歳の少女からしてみれば、そう思ってしまうことは仕方がないことだ。
ナーリは続いてユアに聞く。
「ユアさんはいいんですか? 妹が婚約者の愛人って?」
「問題ない……」
「そんな……」
ユアの予想外の答えに、ナーリは再び固まる。が、直後、すぐ回復し、今度はリリィに迫った。
「リリィはそれでいいの? 愛人って結婚できないんだよ?」
「うん! だってリリィはセイヤともお姉ちゃんとも一緒にいたいもん!」
「リリィ……」
ナーリはリリィの言葉を聞き、驚いた表情をする。しかしすぐに何かを理解した顔になり、セイヤに向かって謝罪した。
「三人がそう言うなら私に口出しする権利はありませんね。さっきは取り乱してすいませんでした」
「いや、こっちこそ。そこまでリリィのことを考えてくれてありがとな。これからもリリィを頼む」
「はい」
ナーリはセイヤに向かって元気よく頷き、同時にクラスの男子たちからリリィのことを守らなくてはと決心した。
その後、四人は昼食を終えると、レストランを出て、再び学園へと戻る。
「先輩、ごちそうになってしまいすいませんでした」
「気にするな」
「はい、ではまた」
「あぁ、リリィも後でな」
「うん!」
セイヤとユアは、噴水のある中庭でリリィとナーリと別れると、自分たちの教室へと向かう。そして、午後の授業に備えるのであった。




