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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
2章 アルセニア魔法学園編
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第38話 アルセニア魔法学園長

 セイヤが学園長室と書かれた部屋の扉をノックすると、すぐに反応があった。


 「入れ」


 扉の向こう側から聞こえてくる男の声。その声が、集団の上に立つ者の声だということは、セイヤたちにもわかった。


 「失礼します」

 「失礼します!」


 セイヤとリリィは挨拶をしながら部屋の中へと入る。


 「よく来たな」


 二人が部屋の中に入ると、中には四十代後半ぐらいの男が二人いた。


 片方は椅子に座り、見るからに偉そうな男だ。そしてもう片方の男は、座っている男の横に立って控えている。


 セイヤとリリィが部屋に入り、扉を閉めると、立っている男が話し始める。


 「キリスナ=セイヤ君、リリィ=アルーニャさん初めまして。私はアルセニア魔法学園、教頭のザッドマンと言います。こちらの方は」

 「学園長のレオナルドだ」


 椅子に座るスカーレットの髪をした筋肉質の男が、この学園の学園長のレオナルドらしい。服の上からでもわかる筋肉が、彼の存在感を際立たせている。


 そしてレオナルドの横に控えている青い髪に黒縁メガネをかけた男が、教頭のザッドマン。ザッドマンは筋肉質ではないものの、纏う雰囲気は相当できる男だ。


 セイヤとリリィは、そんな二人に対して自己紹介をする。


 「キリスナ=セイヤです。今はアルーニャ家でお世話になっています」


 セイヤの自己紹介を聞き、リリィも続く。


 「リリィ=アルーニャです!」


 二人が自己紹介を終えると、さっそくザッドマンが事務的な説明を始めた。


 「君たち二人については、ライガー殿からある程度、事情を伺っております。セイヤ君は両親が亡くなり、一族が一人になったところをライガー殿が保護。

  リリィさんは孤児になっていたところをライガー殿が養子に迎えた。それに間違いはありませんね?」

 「はい」

 「はい!」


 二人はザッドマンの質問に対して即答で頷く。


 しかしもちろんこれはライガーの用意した作り話であり、セイヤの両親はとっくの昔に消え、リリィも孤児とは言えない。


 だからといって、本当のことを言えるわけもなく、二人はライガーの作った話に乗るしかなかった。


 ザッドマンは確認を終えると、二人に事務作業の終了を告げる。


 「わかりました。ではこれで確認は終わりです」

 「は、はい」


 意外と早く終わったことに、セイヤは驚く。だがこのままいて、怪しまれるのも嫌なので、セイヤはリリィと一緒に退出しようとした。


 しかし、セイヤが扉を開ける直前、学園長であるレオナルドがセイヤのことを呼び止める。


 「キリスナ=セイヤは少し残れ」

 「セイヤ?」


 レオナルドに呼び止められたセイヤは一瞬ビクッとする。


 そんなセイヤをリリィが心配そうなまなざしで見るが、セイヤはリリィに大丈夫だと言いながら、笑みを浮かべた。


 「大丈夫だリリィ、教室に戻っていろ。友達がいるんだろ?」

 「うん!」


 リリィは元気よく頷くと、友達であるナーリの待っている自分の教室に向かって走っていく。


 リリィが去ったことを確認したセイヤは、学園長であるレオナルドの座る方に振り向き、身構える。


 そんなセイヤに対し、次の瞬間、レオナルドがとった選択は威圧だった。


 一瞬にしてレオナルドから放たれた威圧がセイヤに襲い掛かる。


 その威圧感はさすが魔法学園の学園長を務めるだけあって、ダリス大峡谷を経験したセイヤでも多少は息苦しくなった。


 だがあくまで多少であって、セイヤはすぐにレオナルドの威圧に慣れ、ニヤリと笑みを浮かべる。


 それは無意識に出てしまった笑みであり、特に意味はない。


 セイヤの様子を見たレオナルドは、何かを納得したように頷き、セイヤに言う。


 「まあ、座れ」

 「わかりました。失礼します」


 レオナルドは目で部屋の真ん中に位置するテーブルを指し、セイヤに座るように促す。


 そしてセイヤが席に着くと、奥の机に座っていたレオナルドも移動してきて、セイヤの正面に座る。


 席に着いたレオナルドがさっそくセイヤに言った。


 「お前は何者だ?」

 「質問の意味がよく分かりませんが」


 魔法学園の学園長であるから、その類の質問は必ず回りくどい聞き方をしてくると踏んでいたセイヤ。


 しかしレオナルドの質問はこれでもかというほど、ストレートだった。


 まさかこんなにもストレートに聞いて来るとは思っていなかったセイヤは、とっさに知らないふりをするのが精いっぱいだ。


 そんなセイヤに対し、レオナルドが攻め方を変える。

 

 「質問を変えよう。お前はどんな力を持っている?」

 「力ですか?」


 セイヤは一瞬、レオナルドが闇属性のことを知っているのかと思ったが、すぐに違うと確信する。


 もしレオナルドが闇属性の存在を知っているならば、このような回りくどい聞き方はしない。


 それに、そもそもレオナルドが闇属性の存在を知っているとは思えなかった。


 案の定、セイヤの予想は当たっていた。


 「そうだ。お前は特級魔法師一族に居候している。なぜあの訓練生と同じく養子ではなく居候なのだ? 理由は簡単だ。お前が一族の当主になっているからだ」

 「たしかにそうですが……」


 レオナルドの言う通り、ライガーがセイヤを養子にできなかった理由は、ユアの婚約者と言うこともあったが、それ以外にセイヤがキリスナ家の当主でもあったからだ。


 魔法師間の掟で、一族の当主は養子にできないと定められている。そのため、セイヤは居候としてしか扱えないのだ。


 セイヤの保護者であったエドワードが、セイヤのことを養子にしようとした際、エドワードの一族が反対した理由はこの掟にもあった。


 それでも一番の理由はセイヤの実力なのだが。


 「特級が居候にしてまでも家に置く魔法師ということは、お前に何かしらの力があるということではないか?

  お前には悪いと思うが、キリスナという一族について調べさせてもらった。だが情報が全く出てこない。

  唯一出てきた情報は、ウィンディスタンのセナビア魔法学園にキリスナ家の生徒がいたが、拉致された後に死亡したという情報だけだ。

  しかもその生徒はかなり弱かったらしい」


 レオナルドが調査結果を述べるが、セイヤはどこか他人事のように聞いていた。


 「なるほど」


 この時点で、レオナルドはセイヤがウィンディスタンの魔法師だとは思っていない。


 レオナルドが集めた情報によると、ウィンディスタンの魔法師は魔法が素人並みに使えなかった。そんな魔法師を特級魔法師が居候としておくわけがない。


 だが、同時に他の情報がないため、もしかしたらセイヤはウィンディスタンの魔法師で、なにかしらに理由があって今に至るのではないか、とも考えていた。


 どちらにせよ、レオナルドは真相をセイヤから聞くつもりだ。


 「もし仮にお前がその生徒だとしたら、なぜウィンディスタンに帰らずにうちに来たのか。しかも転校扱いじゃなく、入学扱いで」


 いきなりに核心をついてきたレオナルド。


 しかしセイヤに話せることは何一つなかった。


 「それについてはお話しできません。」

 「それはどうしてだ?」


 セイヤのことを睨むレオナルド。


 厳密に言えば、セイヤはアルセニア魔法学園に転入したのではなく、新しく入学したことになっている。


 そこには何かしらの理由があると思われるが、セイヤはそのことを一向に話そうとはしない。


 沈黙が続く中、先に口を開いたのはセイヤだ。


 「お答えできません。しかし、お願いがあります」

 「なんだ?」

 「セナビア魔法学園にはこの事を黙っておいて欲しいのです」


 それは自分がウィンディスタンの魔法師だと認めたことと同じだ。そしてこれがセイヤにできる最大限の譲歩だった。


 これ以上は、セイヤも話す気はない。


 なぜセイヤが話したのか。理由はただ一つ。セイヤの願いをかなえるため。


 セイヤの願いはただ一つ。


 やっと手に入れた新しい生活を守ること。


 もし仮に、セイヤの生存がウィンディスタンに知られれば、当然ながら教会やら聖教会が事情を聴きにやってくる。


 その際、闇属性の存在や、ユアの聖属性などが知られてしまったら大問題だ。


 そんな事態だけはどうしても回避しなければならない。


 最悪の場合、力でどうにかできるかもしれないが、セイヤ自身がそのようなことを望んではいない。


 レオナルドはそんなセイヤの様子を見て問う。


 「それがお願いか?」

 「はい」


 レオナルドにセイヤの願いを聞く必要はない。ましてやセイヤは今日会ったばかりの素性の知れない魔法師だ。


 レオナルドはセイヤのことを睨むように聞く。


 「なるほど。理由を聞いても答えないと?」

 「そうなります」


 困った顔をしたレオナルドは、セイヤに対して重要なことだけを聞いた。

 

 「これだけは聞かせろ。お前は俺の敵か? それとも学園の敵か?」

 「どちらも違います」

 「そうか。では味方か?」

 「場合によります。俺はアルーニャ家の味方です」

 「なるほどな」


 セイヤの答えを聞いたレオナルドがニヤリと笑みを浮かべる。


 レオナルドがセイヤから感じたものは、アルーニャ家に対する恩義と忠誠心。おそらくセイヤはアルーニャ家のことを最優先で動き、こちらがアルーニャ家に敵対しない限り、セイヤが敵になることはない。


 レオナルドはそう確信した。


 敵でないのなら、レオナルドはそれでよかった。


 「わかった。もういいぞ」

 「失礼します」


 セイヤはそう言い残し、退出した。


 セイヤが退出した後、レオナルドに対してザッドマンが聞く。


 「学園長、やはり彼が?」

 「ああ。お前が調べてきた通り、ウィンディスタンの生徒だろうな」

 「目的は一体何なのでしょうか?」


 ザッドマンは質問をしたが、答えが返ってくることなど期待していなかった。


 「いや、わからない。いったい奴は何者なんだろうな。うちの教師陣を余裕で圧倒する力を持ちながら、学園に通うとは。ライガーの考えもわからん」

 「引き続き調査します」

 「ああ、頼んだ」


 ザッドマンはそう言い残すと、学園長室から退出する。そしてレオナルドは手元にあるセイヤの資料に再び目を落とすのであった。


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