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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
2章 アルセニア魔法学園編
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第36話 セイヤの苦労

 二年A組では険悪な雰囲気が漂っていた。


 それはもちろん、ユア様親衛隊とユア様ファンクラブによるものだ。しかし彼らの標的はお互いではなく、ユアが膝の上に座っているセイヤだった。


 中休みも先ほどの十分休み同様、ユアはセイヤの下へ行き、セイヤの膝の上に座っていた。さらにセイヤに対して頭なでなでを要求し、セイヤはユアの要望に応えるため、彼女の頭をなでなでしていたのだ。


 そんなことをしていれば、当然、二つのグループが黙ってはいない。


 そして二つのグループはセイヤに詰問する。


 「あなた、ユア様の婚約者ってどういうことよ?」

 「そうよ!」


 ユア様親衛隊たちがセイヤを睨みながら言う。どうやら親衛隊だけではなく、ファンクラブも事情説明を求めているらしい。


 「お前、どういううつもりだ?」

 「そうだぞ、ユア様の婚約者って」

 「ユア様、脅されているなら言ってください!」

 「そうです。親衛隊はユア様のことをお守りしますので、本当のことを言ってください」


 親衛隊とファンクラブは、ユアがセイヤに脅されていると勝手に解釈して、ユアのことを見る。


 しかし当のユアは、セイヤに頭を撫でられて気持ちよさそうに目を細めているだけで、そんな言葉が耳に入ってきてないという感じだ。


 そうなってくると二つのグループの矛先は自然とセイヤに向かう。


 「あなた、すぐにユア様を解放しなさい」

 「そうすれば親衛隊はあなたのことを見逃すわ」

 「決断は早くした方がいいわよ」


 親衛隊の言葉にセイヤは困った顔をする。


 「お前、ユア様に近づきたいならファンクラブに入れ。それがこの学園でのルールだ」

 「ルールを破ったらファンクラブの制裁があるぞ!」


 勝手な解釈をしながら、セイヤにもルールを守れと要求してくる二つのグループ。


 ルールを破れば制裁があると脅してくるが、セイヤからしてみればそんな制裁など、ダリス大峡谷の魔獣に比べたら全然怖くない。


 といっても、二つのグループを消滅するわけにもいかない。転校初日からクラスメイトを塵一つ残さず消したら大問題だ。


 結局、困ったセイヤはお隣のアルナに助けを求める視線を向けるのだった。


 しかし、アルナは勘弁して、と言った顔で目をそらし、グレンや座学の時間中にフリーズが解けたコニーもセイヤから顔をそらす。


 本当に困ったな、と言う顔をするセイヤに、ユアが機嫌悪そうに言う。


 「セイヤ今ほかの女を見た……」

 「待て、ユア。これは仕方ない」


 ユアの理不尽な言葉にさらに困るセイヤ。そんなセイヤに対して、ユアは頬を膨らませながら不機嫌アピールをする。


 「むっ……」

 「許せ」

 

 セイヤが許せとばかりにユアの頭をなでると、ユアは再び気持ちよさそうに目を細めた。その光景は本当に仲のいいカップルそのものだった。


 しかし、そんな二人の様子に親衛隊とファンクラブはますます機嫌を悪くしていく。


 「あなた、ユア様のことを呼び捨てで……」

 「もっと敬意を持ちなさい」

 「そうだぞ、お前! 頭を撫でるのもやめろ!」

 「返事をしたらどうなんだ」


 ここまで言われると、流石にセイヤも面倒くさくなってきたので、一言だけ言う。


 すでに安泰な学園生活が失われたセイヤの顔は不機嫌丸出しだ。


 「お前ら、面倒くさい」


 不機嫌丸出しのセイヤの視線は、彼らのことを怯ませる。セイヤの視線には無意識の殺意が籠っていた。


 しかし彼らも魔法師の卵だ。すぐにセイヤに向かって言い返す。


 「面倒くさいって何よ?」

 「そうよ。私たちは警告してあげているだけじゃない」

 「今ならあなたをファンクラブから守ってあげてもいいわ」

 「だから、早くユア様を解放して」


 どうやら親衛隊はセイヤのことをファンクラブから守ってくれるらしい。しかしだからと言ってセイヤがユアを離すわけがない。


 そもそも、もし仮に二つのグループがセイヤに襲い掛かったところで、勝てる可能性はゼロだ。


 セイヤと彼らでは魔法師としての格が違った。


 だが思春期の少年少女には実力を冷静に分析することは難しい。だから彼女たちは引かない。


 「お、お前は楽しい学園生活を送りたいだろ?」

 「ああ、そうだな」


 親衛隊を無視しているセイヤに対し、ファンクラブの一人が質問した。セイヤは本音で答える。


 「だったら、ファンクラブに入ることを進める」

 「そうすればみな平等にユア様とお話しできる」

 「はっ?」

 

 よくわからないことを言い出すファンクラブに唖然としているセイヤ。


 なぜ婚約者であるセイヤがファンクラブなどに入り、しかも他の男たちと平等に話さなくてはならないのか、理解ができなかった。


 まったく道理は通っていない提案だが、二つのグループはセイヤに答えを催促する。


 「早く決断しなさい」

 「親衛隊の加護に入るの?」


 セイヤに問い詰めてくる親衛隊。それはファンクラブも同じだ。

 

 「ファンクラブに入れ」

 「そうだ」


 教室の中が、廊下側の席を中心に異様な雰囲気で包まれていく。


 親衛隊とファンクラブ以外の生徒たちは窓際によって、セイヤたちから距離を取っている。それは先ほどまでセイヤの近くにいたアルナたちも同じだった。


 転校初日の生徒に詰め寄る親衛隊とファンクラブ、よくわからない二つのグループに詰め寄られるセイヤ、そんな争い事など無関心にセイヤのことを感じながら安らいでいるユア。


 しかしそんな異様な雰囲気を吹き飛ばしたのは、元気に響く声だった。


 「セイヤ!」


 元気な声と共に教室に入ってきたのは、きれいな青い髪をした美幼女リリィだ。リリィはセイヤのことを見つけると、その背中に思いっきり抱き着く。


 「リリィ、よくここがわかったな」

 「うん! 凄いでしょ!」

 「あぁ」


 セイヤの首に手をまわして抱き着くリリィは、セイヤの膝の上に座るユアに気づく。


 「あっ、お姉ちゃん!」 


 「「「「「「「「「「「「おっ、お姉ちゃん!?」」」」」」」」」」」」


 クラス中がリリィの発言に驚き、リリィのことを見た。


 確かにリリィはユア同様、絶世の美幼女だが、その外見はユアとは大きく異なるため、驚くのも無理はない。


 ユアはそんなクラスメイトなど気にした様子もなく、リリィに話しかける。


 「リリィ、学園はどう?」

 「楽しいよ! 友達ができたの!」

 「それはよかった……」


 リリィの友達ができたという発言で、セイヤとユアは安心した顔を見せる。


 セイヤとユアは妖精のリリィが学園生活送れるのか不安であったため、友達ができたという発言は素直にうれしかった。


 二人が安心していると、リリィが言う。


 「セイヤ、早く学園長室に行こう!」

 「ああ、そうだな。ユア、俺らは学園長に会ってくる」

 「わかった……」


 そう言うと、ユアはセイヤの膝の上から降りて自分の席へと戻る。


 セイヤとリリィは学園長室へ向かうため教室を出るが、教室から「ユア様、妹とはどういうことですか?」などと言う声が聞こえてくる。


 なので、セイヤはユアに申し訳ない気持ちになるが、リリィとともに学園長室を目指す。


 教室を出るとリリィがセイヤの手を握ったため、二人は手を繋ぎ、学園長室に向かうのであった。

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