第34話 セイヤの婚約者
突然ユアがセイヤの膝の上に座り、セイヤの腕で自分を抱きしめたことに、クラスメイトたちが固まる。
そんな中、一番最初に動けたのはアルナだった。
アルナは驚いた表情でセイヤに聞く。
「セッ、セイヤ君って、ユアさんと知り合いなの!?」
とぼけようにも、もう遅い。そう悟ったセイヤは、自分がユアの家で居候になっていることを素直に話そうとする。
しかし、セイヤがアルナの質問に答えようとする前に、セイヤの膝の上に座るユアが特大の爆弾を落とした。
「セイヤは私の婚約者……」
「…………えっ?」
ユアの爆弾発言にフリーズするアルナ。その顔はユアが言ってことを全く理解できていないように思える。
そして周りのクラスメイトたちは、ただでさえ固まっていたというのに、さらなる衝撃で、まったく動く気配もない。
セイヤはそんなクラスメイトたちを放置して、ユアに文句を言う。
「ユア」
「セイヤ酷い……」
セイヤがユアに文句を言おうとしたが、その前にユアのほうから不満を言われる。
セイヤはそんなユアに言い返した。
「いや、ユアこそなんていう爆弾発言してくれるんだ」
「爆弾発言?」
「婚約者についてだよ。ライガーに言うなって朝言われただろ」
「そう言えば……」
思い出した! と言うような顔をするユアに、セイヤが不満を言う。
「おかげで楽しい学園生活が終わりを告げた……」
「大丈夫……セイヤは私がいれば楽しい」
「そうだな……」
胃が痛くなるような思いで、答えるセイヤ。そして婚約者には敵わないなと思うセイヤであった。
そんな時、膝の上に座るユアが、セイヤに頭を撫でて欲しいアピールをする。なのでセイヤは上目遣いでアピールをするユアの頭を撫でた。
セイヤに頭を撫でられたユアは、とても気持ちよさそうに目を細め、リラックスしたようにセイヤに身を預ける。
そんなユアに対し、セイヤは仕方ないと思いながら、頭を撫で続けた。
そしてセイヤがユアの頭を撫でていると、クラスメイトたちのフリーズがやっと解ける。その目はセイヤのことを、何者なのだ? と物語っていた。
クラスメイトたちはセイヤとユアの関係を見て、好奇心の目を向ける生徒がほとんどだったが、一部の生徒は違うまなざしでセイヤを見ている。
それは先ほどまで言い争いをしていた、ユア様親衛隊とユア様ファンクラブの二つだ。
この二つのグループから、殺気のこもった視線がセイヤに向けられる。
向けられる殺気にセイヤは居心地の悪さを感じるが、ダリス大峡谷の魔獣に比べれば、彼らの殺気はなんともない。
そこで二時間目始業のチャイムがなった。クラスメイトたちは強制的に解散される。
どこか消化不良と言った顔で、自分の席に着くクラスメイトたち。
自分の席に戻ったユアは、周りの親衛隊たちから事情を聴かれてるが、素っ気ない態度をとっている。
クラスメイトの好奇心の目はユアだけでなく、当然セイヤにも向けられる。その視線はもちろん、お隣さんや前の人たちも同じだ。
「セイヤ君、どういうこと?」
「お前……婚約者って……」
そんなことを聞いてくるアルナとグレン。コニーはなぜか、いまだフリーズしていた。
セイヤは二人の質問に答えたいが、どう答えていいか分からずに困ってしまう。
説明するには長い時間がかかり、中には言えない内容が満載だ。なので、白を切ることを選択する。
「言った通りじゃないのか?」
「そ、そうだけど」
「それにしても驚いたぜ」
「学園時代の魔法師の婚約ってそんな珍しいか?」
「珍しくはないけど……」
セイヤの言う通り、魔法学園時代からの婚約は珍しいわけでもない。
魔法師は一族同士の交流の場などで、小さい頃からいろいろな人に出会う。当然その中には同年代で気の合うもの、合わないもの、魔法の感覚が似ている者などがいる。
もし本人たちが望めば、当主の名の下、婚約をすることが許されている。
婚約した場合、その二人は結婚後、どちらかの家に属さなければならないのだが、その時はたいてい家柄の高い家に属すのが、二人のためと言われている。
たとえば、セイヤとユアの場合、セイヤが初級魔法師一族、ユアが特級魔法師一族なので、結婚後は特級魔法師一族であるアルーニャ家に属すことになる。
「だったら普通だろ」
「確かに普通だけど、相手はユアさんよ?」
「そうだぜ。この学園では女神様扱いだぜ。そんな女の婚約者ってお前……」
「まあいろいろあって、こうなったって感じだ」
そんな言葉に「こいつ何者?」と言った目をするアルナとグレン。セイヤはそんな二人に対し、適当な態度を取りながら、二時間目の座学の先生はまだかと待っていた。
とっくにチャイムが鳴っているのに来ない教師。早く授業が始まらないと永遠にクラスメイトの好奇心の目に晒されることになってしまう。
先ほど、セイヤのことを可愛いという視線で見ていた一部の女子たちは、今は唖然としていた。
そしてファンクラブの少年たちは、ずっとセイヤを殺気のこもったまなざしで睨んでいる。
そんな中、やっと次の座学の教師が来て、二時間目の座学が始まる。
二時間目が始まり、セイヤはやっと終わったと安心していた。
しかしセイヤは知らなかった。次の中休みに、更なる問題が、青髪の幼女によってもたらされると。




