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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
2章 アルセニア魔法学園編
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第33話 セイヤのクラス

 セイヤの所属することになっていたクラスでは、教室中がざわついていた。

 

 「なぁ、転校生が来るらしいぜ」

 「マジかよ?」 

 「男? 女?」


 転校生が来るという噂はすでに教室中に回っていた。


 「男らしいぜ」

 「なんだ男かよ」

 「イケメンかな?」

 「そこまでは知らね」


 教室中が普段ならありえない、転校生の話題で持ちっきりだ。一体どんな人が来るのか、教室中が転校生のことを楽しみにしていた。


 チャイムが鳴り、教室にヤユーナが入ってくると、生徒たちは全員自分の席に着く。


 その中には当然、ユアの姿もあり、窓側の一番後ろに座っている。そしてユアの周りには女子が、まるでユアのことを囲むかのように座っていた。


 座りながらも、ざわつく生徒たちにヤユーナが言う。


 「今日は新しいお友達を紹介します。キリスナ=セイヤ君です。入ってきてください」


 セイヤはそういわれ、教室の中へと入る。


 教室に入ってきたセイヤの姿を見て、男子生徒たちは、なんだか普通だな、的な目を向け、女子たちは、一部で可愛いかも!? というような視線を向けていた。


 そんな新しいクラスメイトたちに向けて、セイヤは最初の挨拶をする。


 「今日からお世話になりますキリスナ=セイヤです。魔法は光属性を使い、初級魔法師です。よろしくお願いします」


 セイヤは光属性魔法が得意だと言い、当然、闇属性魔法については言わない。


 クラスメイトたちはセイヤのことを好奇の目で見るが、セイヤは気にしない。セイヤの視線の先にいたのは窓側の後ろにいる一人の少女、ユアだけだ。


 「セイヤ君は、そこの席に座って」

 「わかりました」


 ヤユーナに言われ、自分の席に座るセイヤ。


 セイヤの席は廊下側の前から二番目だ。セイヤがその席に座ると、周りの生徒たちがセイヤに話しかけてこようとするが、すぐに座学の時間になってしまい、全く話すことができなかった。


 アルセニア魔法学園の授業カリキュラムは、セナビア魔法学園と同じ、一日六時間制だ。そのため、座学と座学の間にも十分程度の休み時間が設けられる。


 十分休みになると、セイヤの周りの生徒達がセイヤに話しかけてくる。


 「私はアルナ。よろしくね」


 セイヤの左隣に座るオレンジ色の短髪少女はアルナと名乗り、セイヤと握手する。アルナは笑顔がはじける元気のよさそうな少女だと、セイヤは感じた。


 「俺はグレンだ、よろしく」


 セイヤの前に座る生徒はグレンと名乗り、セイヤと握手をする。


 グレンは短髪の黒い髪をしていて、男らしいがどこか人懐っこい笑顔をしているさわやかな少年だ。


 「僕はコニー。よろしく」


 セイヤの左斜め前の席に座る生徒はコニーと名乗り、二人同様、セイヤと握手をする。コニーは黄色い髪にメガネをかけている博識タイプに見える。


 セイヤも軽く自己紹介を終えると、話は予想通り質問大会へと移っていく。


 まずはアルナが質問をしてくる。


 「キリスナって珍しい名前だね。そんな珍しかったら有名になると思うんだけど本当に存在するの?」

 「あぁ、あるぞ。と言っても俺一人だけだから知られてなくても当然だ」

 「あっ、そうなんだ。なんかごめんね」

 「大丈夫だ」


 アルナが謝るが、セイヤは気にした様子を見せない。


 アルナが謝った理由は、セイヤの一族がセイヤを残して全滅したと考えたからだ。しかし実際のところ、セイヤの一族はセイヤ自身もわからないため、気にすることはなかった。


 そして次はグレンがセイヤに質問をする。


 「どこから来たんだ? アクエリスタンの中か?」

 「ウィンディスタンからだ」

 「それまた遠いな。珍しい」

 「まあな」

 

 魔法学園の転校は珍しい事であるが、全くないというわけではない。


 一族の仕事の関係上で転校することは稀にあるが、その場合でも、アクエリスタンならアクエリスタン内での転校だ。


 そのためセイヤのように他の地方から転校してくる生徒は本当に珍しかった。


 グレンの質問に答えたセイヤに対し、今度はコニーが質問をしようとする。しかし、コニーの質問は大きな怒声によって打ち消されてしまう。


 「はっ? なんでそうなるんだ?」


 大声の主は、窓側の後ろの方にいた。そこでは三人組の少年と、四人の少女が言い争っており、少女達の後ろにはユアが座っていた。


 セイヤが後ろの方で言い争う男女を見ていると、アルナとグレイが言う。


 「またやっているよ。いつも、いつもご苦労なことだわ」

 「まあ、どっちも頑固者だからな」

 「それにしても毎度毎度飽きないのかしらね……」


 そんなことを話している二人に、セイヤは聞いた。


 「あれは何やっているんだ?」

 「あっ、セイヤ君は知らなかったね」

 「あれには関わらない方がいいぞ」

 「そうだね。セイヤ君も気を付けた方がいいよ。僕も昔、巻き込まれたりして大変だったから」


 三人は関わらないほうがいいと言うが、どう考えてもユアが巻き込まれている。そしてユアはセイヤの婚約者であり、関わらないようにするのは不可能に思えた。


 なので、セイヤはアルナたちに詳しく聞く。


 「それで、あれは喧嘩なのか?」

 「セイヤ君も物好きだね~」

 「まあ知っても問題ないと思うぜ」

 「僕も同意見だよ」


 グレンとコニーが教えても大丈夫だろうという表情をすると、アルナが詳しい事情を説明しだした。


 「そっか、そだね。えっと、セイヤ君、言い争っている人たちの後ろに白い髪の美少女がいるじゃん?」

 「あぁ」


 セイヤは確信した。


 ユアだ、ユアがあの言い争いの原因だ、と。そして自分もすぐに巻き込まれるのであろう、と。


 「あの子の名前はユア=アルーニャ。特級魔法師一族よ」

 「へえ~」


 セイヤは知っているが、いろいろ面倒なことになりそうなので、あえて知らないふりをする。


 「そして、あの子の周りにいる四人の女子はユア様親衛隊」

 「親衛隊!?」


 親衛隊と聞き、驚くセイヤ。なにせ親衛隊である。


 ライガーいわく、ユアは友達がいないと言っていた。なのに、親衛隊はいるらしい。


 親衛隊の存在に驚いていたセイヤに、アルナが説明をする。


 「そっ、彼女らはあの子に近づく男子たちを、片端から潰していくの」

 「それは物騒だな。もし近づいたら?」

 「セイヤ君近づく気? それだけはやめといたほうがいいわよ。学園生活を捨てるようなもんだもの」

 「なるほど……」


 どうやらセイヤの学園生活はすでに捨てられてしまったらしい。


 転校初日から衝撃の事実を知らされ、学園生活が終わったセイヤは悲しむしかなかった。


 「やばいな……」

 「たしかにユアさんは可愛いけど、お近づきになる前に死ぬわよ。親衛隊のメンバーの中には上級魔法師も多数いるから」

 「それはまた……」

 「まっ、近づかないのが一番ね」


 近づかないのが一番と言われても、おそらくセイヤはこの学園内で一番ユアの近くにいるであろう存在だ。


 どうするべきか……そんなことを考えていたセイヤに対し、今度はグレンとコニーが説明を始める。


 「そんでもって、男たちの方はユア様ファンクラブだ」

 「ファンクラブ!?」

 「うん、学園の八割の男子で結成されるクラブだよ。その中にはもちろん親衛隊同様、上級魔法師もいるよ」


 ユアさん、あなた親衛隊にファンクラブがあって、なんで友達できないんですか? という疑問が浮かぶセイヤだったが、すぐにユアが人間不信だったことを思い出す。


 「それで、ファンクラブの活動は?」

 「ユアさんに近づこうっていう魂胆だ」

 「なるほど」 


 ファンクラブの行動を聞き、セイヤは何となくこの学園の実態を察する。


 つまり、男たちはユアに近づこうとするが、親衛隊がそれを防ぎ、喧嘩がよく起こるという事である。


 「いつもこんなに激しいのか?」


 セイヤはただの喧嘩にしては激しいと思っていた。こんな喧嘩が日常茶飯事では、たまらないと思い、聞いてみた。


 「そんなことないぜ」

 「いつもはもっと落ち着いているよ」

 「じゃあ、なんでだ?」

 「それは、ユアさんが久しぶりに登校してきたからよ」


 アルナの答えでやっと全てを理解したセイヤ。


 ユアは誘拐された後、アクエリスタンに帰ってきてからもずっと、セイヤたちと一緒にいた。


 その間、当然ながら学園があったのだが、セイヤたちとずっと一緒にいたユアが登校しているはずがなかった。


 つまりユアも登校するのが久しぶりだということだ。


 「なるほどな」

  

 そんなことを言いながらセイヤはユアの方を見る。すると、ちょうどユアと目が合う。


 どうやらユアもセイヤの方を見ていたらしく、セイヤはアイコンタクトで「お前も大変だな」と送る。


 セイヤのアイコンタクトに対し、ユアは顔を膨らませて不機嫌アピールをした。


 セイヤは助けたいのは山々だったが、転校初日から問題を起こすのは御免だったため、目をそらす。


 ユアはセイヤが助けてくれないと理解するや、すぐに行動に出た。


 自分の席を立ち、廊下側に歩き出す。


 ユアが動いたことで、当然、親衛隊やファンクラブの面々もユアに続いて廊下に出ようとする。


 しかしユアが廊下に出る直前、急に左に曲がるや、すぐに教室の前のほうへと方向転換をした。


 (ユア……まさか……)


 ユアがセイヤのほうに向かってきたことで、セイヤはまさか自分のほうに来るのでは? と考える。


 そしてセイヤの予想通り、ユアはセイヤの前まで歩いて来ると、セイヤの膝の上に座る。


 「「「!?」」」


 教室中がユアの行動に驚愕する。


 しかしユアの愛情表現はまだ終わらない。


 ユアはセイヤの腕を持ち上げると、自分を抱くように交差させる。その姿は、まるで私はセイヤのものと訴えかけているようだ。


 終わった……。


 セイヤは心の中で、自分の学園生活が終わったと思うのだった。


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