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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
9章 革命軍編
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革命軍31【終】

「そんな……」


 地面に倒れ込んだセイヤの前に現れたのはかすり傷一つないミカエルの姿であった。死力を尽くした一撃を浴びせたというのにミカエルには届かなかった。


 もはや立ち上がる力を残していないセイヤはミカエルのことを睨むことしかできない。


「伏してもなお睨みつけるか。実に狂気的な人間だな」


 セイヤの前に降り立ったミカエルは背中に生えた大きな翼を広げるとセイヤに向かって右手を差し出す。その姿はまるで死者を迎えに来た天使の姿である。


「私の肝を二度も冷やかせた人間は初めてだ」

「どういうつもりだ」

「簡単なことだ。私はここで貴様を殺すことを惜しいと思い始めた」


 ミカエルの言葉は裏を返せばセイヤをいつでも殺せると言っているようなものだ。現にセイヤは既に力を使い果たしておりミカエルの攻撃を防ぐ余力はない。


 聖属性で魔力を生成することもできなくはないが、それをしたところで焼け石に水だということはセイヤ自身が一番わかっていた。


 これまでにも絶望の淵に追い込まれてきたセイヤであるが、その都度自分の力で乗り越えてきた。しかし今目の前にいる相手は自分の力でどうにかなるような存在ではない。


 大天使を自称するに値する力を持った存在。


 控えめに見積もってもセイヤが出会ってきた相手の中で群を抜いて実力のある存在と言っていいだろう。いくら思考を巡らせても勝ち筋が見えない。そればかりか自分が敗北する未来しか見えてこない。


 ミカエルはそれほどまでに絶大な力を持った存在である。


「キリスナ=セイヤ、一つ問おう」

「なんだ」

「随分と従順になったじゃないか」

「もう俺にはどうする力も残ってないからな」


 既にセイヤは万策尽きている。セイヤに残された選択肢は潔く自決するか、あるいはミカエルの手によって人生に幕を下ろされるかの二択である。といっても、今のセイヤには自決できるほどの体力も残っていない。


 むしろ今も息をできていることの方が奇跡であった。ミカエルとの戦いで限界をいくつも超えたセイヤの肉体は悲鳴を上げることもできないほどに弱っている。自決をしなくても虫の息である。


「貴様はなぜ力を持ち、それを行使する」

「理由だと」

「そうだ」


 なぜ力を持つのか。それはセイヤにとって難しい問であった。


 セイヤは自ら望んで力を手に入れたわけではない。厳密にはセナビア魔法学園時代は強い魔法師への憧れから強さを求めて鍛錬をしていたが、ミカエルが問うている力とはそのようなものではないだろう。


 ここで彼が言う力とは聖属性や夜属性のことである。


 人類という視点から見えれば聖属性と夜属性の両方を持つセイヤは異端の存在といえよう。だが、その力は何もセイヤ自身が望んで手に入れたものではない。


 生まれた時からセイヤの中に刻み込まれていた力である。そのため力を持つ理由など生まれた時から持っていたからとしか答えられない。そこまで考えてセイヤは自分の中の矛盾に気づく。


 先天的に持っていた力に理由もなにもない。だが力を行使することには理由があるはずだ。


 自分は一体何のために力を使うのか。強い魔法師に憧れていたから? この世界を救いたいから? 両親の思いを紡ぎたいから?


 違う。


 セイヤは心の中で自分の本当の思いに気づく。


「俺は……ユアを……リリィを……みんなを守りたい」


 本音を言えば世界なんてどうだっていい。両親の思いは大切だが、それだけに人生を左右される必要はない。では、どうして自分は戦っていたのか。


 それは自分の周りにいる人たちにずっと笑っていてほしかったから。その結果が世界を守ることであり、両親の思いを引き継ぐことである。


 セイヤはようやく自分の本当の思いに気づいた。


「それならば貴様が今なにをすべきかわかるはずだ」


 ミカエルの言葉にセイヤは頷くと鉛のように重い身体に力をこめる。


 立ち上がる必要はない。身体を起こすだけで十分だ。セイヤは歯を食いしばって身体を持ちあげると両足を腕の方へと運ぶ。


 僅かに動くたびに身体から悲鳴が聞こえてくるが、セイヤは構わずに動かし続ける。その表情には執念の色が見て取れる。


 両足を何とか腕の方に持ってきたセイヤはそのまま足を曲げるとミカエルの方に向かって頭を下げた。その恰好は土下座であったが、土下座というには何とも不細工な格好である。


 正座こそしているものの上半身は重力に耐えられずに地面にへばり付いており、頭も磁石でくっついているかと思わせるほど地面にピタリとくっついている。


 その姿は土下座というよりも誇張された時代劇で見る将軍に頭を下げる家臣の姿にも見えた。


 自分が不格好だということはセイヤもわかっている。けれども格好がつかなくとも自分の思いを口にすることはできる。


「お願いです。どうか、見逃してください」


 セイヤがミカエルに向かって懇願する。力の差は歴然であり、余力を残すミカエルとは違いセイヤに残っている力はほとんどない。セイヤにできることは命乞いだった。


 どんなに不格好でも、どんなにみっともなくてもいい。ここで生き延びることができれば可能性は残る。自身がなぜ力を行使するのかを理解した時に生まれた感情は仲間たちに、ユアに会いたいというものであった。


 たとえ全てを失ったとしてもユアに会いたい。


 セイヤは自分の全てを差し出してミカエルに慈悲を求める。


「なんでもします。だから、この場は見逃してください。お願いします」


 頭を下げ、懇願し続けるセイヤをミカエルは黙って見つめる。だがその表情はセイヤの処遇を決めかねているというよりはセイヤの心の底からの声に耳を傾けているようである。


「もう一度問う。貴様は何のために力を持ち、その力を行使する」

「俺は……みんなを、愛する人を守るために力を使います」

「それならば今以上の力を求めるか」


 ミカエルの言う今以上の力が何かはセイヤにはわからない。しかし、その力で今よりも強くなってユアたちを守れるというならば願ってもない力だ。


「はい!」


 力強く答えたセイヤを見てミカエルは頷くと、懐から大きな白い鉱石を取り出してセイヤの目の前に置く。


「これは……」

「それは思いを刻む石だ。貴様を愛する者たちの思いが集うことで新たな力となるだろう」


 そういうとミカエルは背中の翼を大きく広げる。


「汝、キリスナ=セイヤ。大天使ミカエルの名において慈悲と灯火を授けよう。貴殿に聖なる炎の祝福があらんことを」


 直後、ミカエルの姿は虚空へと消えた。そしてセイヤの意識は闇に落ちた。

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[一言] 更新待ってました!!感想で色々言われてますけど、気にしないで頑張ってください!応援してます‼️
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