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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
9章 革命軍編
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革命軍30

 セイヤが振り下ろす大剣デスエンドから生じた斬撃が大天使ミカエルに向かって迫るが、その通りに道を邪魔するようにミカエルの放つ白い炎が斬撃を相殺する。二つの力がぶつかり合った衝撃で周囲に衝撃波が生じたが、セイヤたちは気にする素振りも見せない。


 白い文字が輝く大剣デスエンドを再び数度振り下ろし、夜属性の魔力を乗せた斬撃で攻撃するセイヤであるが、ミカエルの使う白い炎の前に霧散してしまう。だが逆にミカエルの攻撃を夜属性の魔力で防げるということでもあるため、両者の力は拮抗しているといっていいだろう。


 ただしセイヤの表情は厳しい。


(届かないか……)


 何発もの斬撃を撃ち出すセイヤの攻撃を容易く防ぐミカエルの表情は余裕があった。最初こそセイヤの力に驚いた様子を見せたものの、ペースを乱されるまでには至らなかった。


 互いの力がギリギリのところでせめぎ合う中ではあるが、このままではじり貧であるとセイヤは理解していた。いくら中距離から攻撃をしたところでミカエラの白い炎の前では彼には届かない。


 戦況を打破するにはセイヤが得意とする近接戦闘に持ち込む必要があった。ただミカエルはこれまでの敵とは異なり未知の力を使う相手であり、自身の間合いに戦いを持ち込んだところでセイヤに有利に働くとは限らない。そもそもセイヤの今の力がどこまで通用するかさえもわからないのだ。


 それでも今までのように中距離での戦いを強いられるのはセイヤにとって不利に違いない。だからセイヤは意を決してミカエルに接近した。


「《限界突破》」


 自身の体内に光属性の魔力を流し込み、強制的に身体機能を上昇させるセイヤの奥義の一つである『纏光』の限界突破。体外に対する光属性の魔法は両者の戦いに置いては意味をなさないが、体内に対する魔法の行使は依然として有用である。


 色を失ったモノクロの世界でセイヤはミカエルに迫ると、大剣デスエンドで斬りかかる。いきなりの速度の変化でミカエルは虚を突かれるが、すぐに白い炎を操って防御する。


「今のは肝を冷やした」

「なら、これでどうだ!」


 セイヤは大剣デスエンドにありったけの夜属性の魔力を流し込んでミカエラの白い炎にぶつける。大剣デスエンドの文字が一層輝きを増しながらミカエラの白い炎を消散させていく。


 しかし、ミカエルも黙って攻撃を受けたりはしなかった。


「剣には剣を」


 時間にして刹那であった。ミカエルの右手に握られていたのは細い長剣である。ただの剣にしか見えないが、セイヤが今まで見てきた剣の中で間違いなく最強の硬度を誇る代物である。


 ミカエルはその剣に白い炎を纏わせるとセイヤの大剣デスエンドを止める。


「そして貴様のお家芸を真似しよう」


 今度はミカエルの左手に同様の剣が握られていた。ミカエルは同じく左の剣にも白い炎を纏わるとセイヤに向かって振り上げた。セイヤは咄嗟に夜属性の魔力を使って防御しようとしたが、それよりも先にミカエルの剣がセイヤに届く。


 静かな音とともに両断されたのはセイヤの右腕だ。右腕が同時に打ち返された大剣デスエンドを握ったままセイヤの後方へと飛んでいく。


「くっ……」


 右腕をセイヤは僅かに苦悶の声を上げるが、すぐに聖属性を使って右腕を再生させる。同時に後方へ飛んで行ったセイヤの右腕は切断面から白い炎に包まれて灰へと姿を変え、大剣デスエンドは地面に転がった。


 だがセイヤは構わずに両手に双剣ホリンズを生成して夜属性の魔力を纏わせてミカエルに斬りかかる。


「右腕を失っても動じないか。だが、その剣では我に届かないことは証明済みだ」


 ミカエルの言う通り、双剣ホリンズではセイヤの夜属性の魔力に耐え切れず激しい戦いには向いていない。ましてやミカエルの白い炎に対抗するには白い文字が浮かんだ大剣デスエンドでより洗練された夜属性の魔力でしか対抗できない。


 ホリンズではミカエルの前に数秒間の形を残すことがせいぜいといったところだろう。


 もちろんセイヤもそのことは百も承知だ。


 言葉よりも先にセイヤは行動に移す。双剣ホリンズに流れ込むのは白い魔力、つまり聖属性だ。そしてその上から夜属性の魔力を纏わせる。


 一見すると相反する力を混ぜることで相殺し合って上手く機能しないように思えるが、ミカエルはすぐにセイヤの意図に気づく。


「内面と外面の同時操作か」


 セイヤが行ったのはいたってシンプルな手法である。ホリンズ内部には聖属性を使用することで剣の情報体にアクセスして剣を無理やり強力なものへとする。一方で外部には夜属性の魔力を纏わせることでミカエルの白い炎に対抗しうる力を備えさせる。


 相反する力を同時に同一の物体に付与する一方で、アクセスする対象を別のものにすることで両立させたのだ。けれども、これはとても繊細な作業ゆえにセイヤは全神経をホリンズに集中させていた。


 夜属性の魔力を纏わせたホリンズがミカエルの剣とぶつかりあう。剣術だけならばセイヤの方に分があるように思えたが、魔法戦という観点からすればミカエルの方が有利であった。そもそもセイヤのホリンズは無理やり強化した諸刃の剣であり、質でいえばミカエルの剣に劣る。


 そのため何度か刃を交えると衝撃に耐え切れず砕けてしまう。セイヤは質で負けている剣を量で補おうと何本も新しいホリンズを生成して強化し、ミカエルの剣とぶつかり合う。


 その間もセイヤの身体は傷つくが、構わずにミカエルに攻撃を続ける。《限界突破》の調節も雑になって内部からもセイヤの肉体は崩壊していく。だがセイヤの無意識領域で勝手に聖属性が発動して体の傷を治療してくれるから問題ない。


 足がちぎれようとも次の瞬間には元通りの足となり、眼球が不可に耐え切れず破裂しようとも次の瞬間には元通りの形へと戻る。


 痛覚はもはやズタズタに傷つき、痛みさえもセイヤの脳には届かない。セイヤはただミカエルを倒すことだけを思って剣を振るう。


「まさに狂人だな」


 目の前で立ち止まることなく斬りかってくるセイヤを見て狂人と表現したミカエルであったが、その表情には先ほどまでの圧倒的な余裕はない。


 いくら剣を振ってセイヤの肉体を傷つけようとも、いくら白い炎を使ってセイヤのことを焼こうとも、セイヤは構わずに次の瞬間には元通りの状態で襲い掛かってくる。


 まるでゾンビと戦っているように感じられたミカエルはセイヤの動きを止めようとする。


「劫火に焼かれて停死せよ」


 ミカエルの右手の長剣がセイヤの心臓を貫く。そして剣に纏われた白い炎がセイヤの肉体を焼いていく。だがミカエルはすぐに目の前にいるセイヤの肉体が偽物だと直感する。


「まっていたぜ、このときを」


 セイヤの声が聞こえてきたのはミカエルの背後からであった。


 ミカエルが振り向くと、そこには大剣デスエンドを構えたセイヤの姿がある。大剣デスエンドに浮かぶ白い文字は今まで以上に輝いており、纏う魔力は戦いの中で最も洗練されているといっていい。


 まさにセイヤの渾身の一撃と言えるだろう。


 そしてミカエルが白い炎を回したところで追いつかないと両者とも理解していた。


 千載一遇のチャンス。セイヤは絶対のこのチャンスを逃さないという思いで剣を振り下ろした。濃縮されていた高純度の夜の力が一斉に解き放たれてミカエルに襲いっかかる。


 たとえミカエルが人智を超越した力を持っていたとしても防ぎきるのは不可能だろう。


 激しい爆発音と爆風が辺りを包み込む中で、渾身の一撃を放ったセイヤは魔力切れを起こして倒れ込んでしまう。


 本来、聖属性を使うことができるセイヤは魔力を無限に生成できるといっても過言ではないため魔力切れを起こすことはない。しかし格上であるミカエルとの戦いでは常に魔力を生成し、これまでやったことのないような離れ業も披露してきた。


 その負担は身体や脳だけでなく、精神にさえも圧し掛かり、セイヤの身体は一時的に活動を止めてしまったのだ。


 倒れ込んだセイヤには立ち上がる気力さえもなく、何かを考えることさえ億劫だった。初めて自分の限界を超えた戦いはセイヤに大きな傷跡を残した。しかし、それでも大天使と名乗るミカエルを撃破できたのだから幸運と言えるだろう。


 と、その時だった。


「今のは本当に肝を冷やした」


 爆炎の中からそんな声が聞こえる。そして次の瞬間、周囲に立ち込めていた爆風が一気に内部からの風圧で押し出されると、ミカエルが姿を現す。


 その背中には大きな白い羽が生えており、まさに天使と言える存在であった。

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