革命軍29
ミカエルの白い炎のよって周りを包囲された挙句、その炎の海に飲み込まれたセイヤは命尽きたかのように思われた。
白い炎が一体何なのかということはセイヤにもわからない。ただしその炎を人類の尺度で分析するならば、それは聖属性と炎属性の複合魔法になるであろう。しかし、聖属性と炎属性の複合魔法などというんは空論にしか過ぎない。
そもそも聖属性は他の属性とは異なり人類の中で稀有な属性であり、その使い手は百年に一人の逸材と言われるほどである。そのような力はある種の人類を超越した力であり、神聖視されてきた存在でもなる。
一方の炎属性は聖属性とは異なり使い手は多い。基本属性である火属性から派生した炎属性は火属性の上位互換とも呼べる力であり、その点に置いては光属性の上位互換とされている聖属性と共通しているともいえる。
だが、あくまでも基本属性という視点から見た話である。いくら同じ基本属性の上位互換と言えども、その違いは象と蟻ほどの差があるに違いない。つまり同じ上位互換同士の魔法を複合させたところで聖属性が炎属性を飲み込んで成立しなはずなのだ。
それなのにミカエルの使う白い炎は聖属性と炎属性の複合魔法のように感じられる。実際には人類の尺度である複合魔法とは異なるのだが、セイヤは仮称として白い炎を聖なる炎と呼ぶことにした。
聖なる炎は人類の力では到底抗うことのできない強力な力であり、セイヤの力でも対抗することは不可能である。実際に聖なる炎に向けて夜属性の魔法を行使しても効果はなかった。
術者でミカエルが言うには彼の力は人智を超越した力であり、理解できない力は固有世界の力をもっても縛ることができない。つまりセイヤが聖なる炎に対抗するにはミカエルと同等以上の力を持って迎え撃たなければならないのだ。
だがセイヤにセイヤにそのような力があるのか。
迷いを抱くセイヤの右手が疼く。
「剣が……」
セイヤは右手の疼きが大剣デスエンドによるものだと理解する。
「剣が語り掛けてきてる……?」
あり得ないという感情と、何かあるのかもしれないという二つの感情がセイヤの中で混じり合う。そしてセイヤの心の中で声が聞こえる。
(思い出して……)
言葉とともにセイヤの脳内にはこれまでの出来事が走馬灯のように駆け巡る。ジャックと戦いから始まり、モルガーナとの特訓、ルナの試練、魔王たちとの死闘、学園での戦い、リリィとの戦い、そしてユアとの出会い。
すべてがセイヤにとって大切な出会いであり、大きく成長させてくれた経験だ。これまで何度も死線を潜り抜けてきたセイヤには、まだセイヤ自身も理解しきれていない力がある。
そしてその力はこれまでの経験を経て新たな次元へと昇華されている。
「そうか……」
それが成功するかなんてセイヤには関係ない。ここで試さなければどの道セイヤに待っている運命は死である。ならば試してみるのが普通であろう。
セイヤが大剣デスエンドを強く握りしめると、セイヤの思いに呼応するように大剣デスエンドに白い文字が浮き上がる。その文字は次第に輝きを増していき、セイヤの秘めたる力を否応にも引き出していく。
大剣デスエンドを構えたセイヤは一言だけつぶやき、剣を振るう。
「デスウェイブ」
次の瞬間、セイヤに迫っていた聖なる炎が一斉に姿を消した。それは消滅でも消失でもない消散というべき事象であった。
何が起きたのかセイヤ自身にも理解できなかったが、確実なことが一つだけあった。その力を持ってすればミカエルの力に対抗しうるということである。
自らの炎を消散させられたミカエルはわずかに驚いた様子を見せた。
「貴様、その力は……」
ミカエルが初めて見せた驚きの表情。これまでもセイヤの力に感心するそぶりは見せていたが、それでも予想の範囲内であった。けれども今のミカエルを見る限り、今度のセイヤの力はミカエルも想定外であったようだ。
「まさか、そのような力までも秘めていたとはな……いや、戦いを通して成長したということか……」
「この力が何か知っているのか」
「なるほど。その様子ではそれが一体何なのかを理解できていないようだ」
警戒心を見せるミカエルにセイヤは違和感を覚える。大天使と名乗り人類を超越している存在であるミカエルでさえも警戒する力が一体何なのか、セイヤにもわからない。
「この力が何かは知らないが、お前に唯一対抗しうる力ということには間違いない」
「我を前に威勢がよくなっているではないか。だが、今はそれさえも悦ばしい」
ミカエルがセイヤに向かって右手を構え、一瞬にして大量の聖なる炎を放射する。これに対してセイヤも大剣デスエンドをミカエルに向けて構えると、聖なる炎に向けて黒い魔力を一斉噴射した。
人智を超えた異次元の力同士が激しい音を立てながらぶつかり合い始める。




