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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
9章 革命軍編
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革命軍26

 際限なく生み出される不可視の壁を攻略し、その右手に握るホリンズで特級魔法師ミカエラの首を突き刺したセイヤの顔は浮かなかった。なぜなら人の首を刺したというのにセイヤには一切の手ごたえが感じられなかったから。


「フェイクか」

「正解だ」


 首を刺されたミカエラがわずかな笑みを浮かべると彼の肉体がぐらいと揺れ、次の瞬間にはその姿が消える。手ごたえを感じられなかったセイヤは特に驚いた様子も見せずに自身の右腕を巻き込んで生成された不可視の壁を消失させると周囲を警戒した。


 意外にもミカエラは奇襲はせずにセイヤの前に姿を現す。


「このように肌がひりつくのは久方ぶりだ」

「その割には随分と余裕そうだな」

「脂汗の一つでも浮かべた方が良かったか?」


 危うく首を刺されそうになったというのにミカエラは余裕のある表情でたたずんでいる。


「だが、貴様が警戒するべき相手だということは大いに認めよう。あの小僧と同じく聖の力と夜の力を持つだけのことはある」

「なに……」


 気になることを口にしたミカエラに対してセイヤは問いかけようとするが、その前にミカエラが会話を遮った。


「ただし、この私に傷一つ付けられない時点で興ざめだ。落ちろ」


 たった一言だが魔力が込められた言葉が発せられると、セイヤを中心とした半径10メルの地面が一瞬にして無に帰す。それは底が見えない深く暗い穴であり、足場を失ったセイヤは穴の中へと落下を始めた。


「なら!」


 なくなった地面に対してセイヤは夜属性の魔力を使って《地面が消える》という事象の消失を試みた。ミカエラが聖属性の魔法を使ってセイヤの足元を消し去ったのなら、その魔法の行使自体を消失させれば地面が戻るはずである。


 けれどもセイヤの予想に反して地面は戻らない。それどころかミカエラが続けて聖属性の魔法を行使したことで底の見えない穴からマグマがセイヤに向かって噴出し始めた。


 セイヤは地面の修復を止め、自身に向かって噴出するマグマに対して夜属性の魔法を行使する。今度の魔法はうまく作用し、穴の底から噴き出たマグマは一瞬にして姿を消すが、それで安堵することはできない。


「叩きつけろ」


 再びミカエラが魔法を行使する。今度は単純は聖成であり、セイヤの頭上に3つの白い魔方陣が展開されてそこから地面と同質の大きな岩柱がセイヤに向かって撃ちだされた。


 この攻撃に対してセイヤは頭上に夜属性の魔法を行使することで防ごうと試みたが、すぐに止めて聖属性の魔法を行使する。生成するのは《自身に接近するあらゆる事象は軌道を変えて通り過ぎる》という法則だ。


 聖属性の実力ではミカエラに数段劣っているセイヤの魔法がミカエラの生み出した固有世界では上手く作用しない。最初はそう考えていたセイヤは、ある可能にたどり着いていた。


 それはこの世界を生成したのが自分だということ。


 一番最初に革命軍の隠れ家からミカエラを引き込む形で固有世界を生みだしたセイヤであるが、その後にはミカエラが固有世界の主導権を握っていた。この時点でセイヤは自身の固有世界とは別の固有世界をミカエラが生み出し、そこに自分たちがいると考えられていた。


 しかし、戦いを通していく内に固有世界の法則に干渉しようとしたセイヤは理由はわからないが上手く機能しなかった。当初はミカエラの聖属性による法則が強固で自身の干渉が意味をなしていないと思っていた。


 それならば夜属性が通用する時としない時の差があるのは不自然である。


 そこでセイヤがたどり着いた一つの可能性。その可能性が正しいならばセイヤの聖属性は正常に機能する。事実、セイヤに向かって撃ちだされた岩柱のすべてはセイヤを避けるように穴の底へと姿を消す。


「そういうことか。この世界は俺の固有世界……」


 ただの可能性が確信に変わる。


 二人がいるのはミカエラの固有世界ではなく、セイヤの固有世界であった。ミカエラはセイヤの固有世界に上書きする形で魔法を行使しているのであり、その大元はセイヤの固有世界である。普通に考えれば他人の固有世界に干渉することなど不可能と考えてしまうが、そもそも聖属性の使い手は稀有な存在でありセイヤが気づけないのも無理はない。


 いくらミカエラの法則に対抗しようとしても、元となる世界はセイヤの世界である。自分の世界を自分で壊そうとして無意識に魔法が相殺し合って上手く機能しなかったのだ。


 例えるなら大元であるセイヤの固有世界が《地面がある》と定義すると、ミカエラが《地面がない》と上書きをする。そこにセイヤが夜属性で《地面がない》という事実を消失しようとすると、最初の《地面がある》という聖属性と《地面がないことはない》という二つがぶつかり合うのだ。


 これが複数の魔法師同士によるものなら能力が勝る方に軍配が上がり、結局のところ地面が存在することになる。だが今回はどちらもセイヤによるものであり、地面が存在するという事実が重複して存在するためにセイヤの無意識領域で矛盾が生じ、最初に行使された魔法を優先した。


 その結果、セイヤが後から行使した夜属性は行使をキャンセルされ、最終的に上書きされたミカエラの魔法が残った。


 セイヤの夜属性が機能したときはミカエラが独自で生み出した法則に作用する時である。この違いに気づけたならばミカエラが名乗をしたのかを理解するのは造作もないことである。


 けれども今回はセイヤの固有世界にセイヤが上書きする形で聖属性を行使した。それならば魔法が重複することもない。そして、このことに気づけたならば、わざわざ何度も壊れるホリンズを使わなくても良い。


「戻ってこい、大剣デスエンド」


 なぜか地面から抜きとれなかった大剣デスエンドも、地面と同じ理論で言えば容易に抜くことができる。大剣デスエンドが手中に収まると、セイヤは空中で一閃する。


 夜属性の魔力が乗った斬撃がミカエラに迫るが、再びミカエラが展開した不可視の壁によって阻まれる。だが、今度は夜属性の魔力に耐えきれずに剣が砕けるということはなかった。


 聖属性でなくなった地面を戻して降り立ったセイヤはミカエラに言う。


「そろそろ終わりにしようぜ」

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