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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
9章 革命軍編
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革命軍25

 激しい打撃音が何度も聞こえる中で地面に転がっていくのはセイヤが生成したホリンズの破片である。ミカエラが展開する不可視の壁を破ろうと何度も双剣ホリンズを振るい、壁に触れるたびに砕けるホリンズ。それでもセイヤは構わずにホリンズを生成し続けてミカエラに迫ろうとする。


 激しい攻防で何本ものホリンズが砕け散るが、実際は不可視の壁によって砕かれているのではない。ホリンズが砕け散るのは決まって不可視の壁を消失させた後であり、もしホリンズが不可視の壁によって砕かれているのなら触れた衝撃で砕けるはずであった。


 そのことからホリンズは他の要因によって砕け散ることがわかる。では一体何がセイヤのホリンズに負担を与えていたかというと、それはセイヤの夜属性の魔力であった。


 これまでセイヤが双剣ホリンズを使う際に使用してきた魔力は基本的に光属性の魔力と闇属性の魔力である。魔法体系において基本属性に分類される魔力を纏ってきたホリンズは双剣としての役割をいかんなく発揮しており、セイヤも魔力によって砕けるとは思っていなかった。


 しかし、今のセイヤが使用している魔力は闇属性の上位互換ともいえる夜属性の魔力である。その力は並の魔法師が一生をかけても到達することができない最上位の魔力であり、双剣ホリンズはその魔力に耐久することができなかったのだ。


 そもそもセイヤが夜属性の魔力を使う際に手に取っていたのは大剣デスエンドである。加えて双剣ホリンズはその名前から推察される通り聖属性系の武器であり、聖属性の対極にある夜属性とは相性が悪かった。


 だからセイヤがホリンズを振るう度にギリギリ形を保っていたホリンズは夜属性の魔力に耐え切れず粉砕してしまったのである。


 そのことに気づいたセイヤは自らの思いを抑えつけて攻撃に身を転じていた。元々魔法を不得意としていて剣術で活路を見出すとしていたセイヤにとって剣を使い捨てにすることは耐えがたいものであったが、目の前にいる相手はそのような甘いことを言える相手ではない。


 セイヤは何本も剣が折れようとも構わずに剣を振り続けた。


「いい加減、己の愚行に気づいたらどうだ」


 目の前で何本もの剣を鉄くずにしながら自身に迫ろうとするセイヤを見て、ミカエラはその行為の無益さを説く。けれどもセイヤの剣は止まることを知らずひたすらにミカエラを仕留めようと振るわれる。


 激しい打撃音が止むことはない。むしろ時が経つにつれて音は次第に激しくなっていく。その中でセイヤはどうにかミカエラの隙を伺っていた。


(僅かだが綻びが見えてきた……)


 あまたのホリンズを代償にセイヤは永遠にも感じられた戦いに勝機を見出す。あとはその勝機をつかむために尽力するまでだ。


 セイヤは他のホリンズと同じように右手に握るホリンズでミカエラの不可視の壁を貫く。夜属性の魔力を纏ったホリンズの剣先はミカエラを守る不可視の壁に触れると消失させる。だが直後には夜属性の魔力に耐えきれなかったホリンズは自壊を始めてしまう。


 その時だった。


「いまだ!」


 セイヤが叫んだ刹那、自壊を始めたホリンズの刀身が白く輝く。直前まで纏っていた黒い魔力は姿を消し、白い魔力がホリンズの刀身を包み込む。そして自壊を始めたホリンズの刀身はまるで時をさかのぼるかのように再び刀身を形成した。


 しかし、セイヤがホリンズの刀身を再生させた時にはミカエラの不可視の壁が再び形成される。ただ先ほどまでと違うのは不可視の壁が形成されたのがセイヤの右腕だということだ。


 セイヤの右腕を巻き込んで形成される不可視の壁はあまりにも奇妙であった。セイヤの肉体のほとんどは壁の外にあるというのに、右腕から先だけは壁の向こう側に突き出ており、右手に握られているホリンズの剣先は今にもミカエラの頬に触れそうである。


「どうやら届かなかったらしいな」


 寸前のところで自身に届かなかった剣を見たミカエラには焦りの色はない。むしろセイヤのことを憐れむように見つめていた。


「その壁は空間を隔てる。一度巻き込まれたのならば、貴様の右腕は空間ごと切断される」

「それはどうかな」

「なるほど」


 右腕を不可視の壁で隔たれたセイヤには不思議と焦りはない。その理由はすぐにわかった。


 ミカエラが空間ごと切断されるといったセイヤに右腕はしっかりと繋がっていたのだ。不可視の壁は健在だというのに切断されない右腕を見てミカエラはセイヤの意図を理解する。


「自身の腕への干渉を避けたか」

「最初からこうすべきだったな」


 セイヤが行ったことはとても単純なものである。ミカエラの使う不可視の壁は一見すると異質な力ではあるが、その根底にあるのは聖属性による法則の操作だ。彼は聖属性を使って空間内に《自身と外界を断絶する壁が存在する》という法則を生成し、不可視の壁を構築していた。


 そしてセイヤは夜属性の魔力でミカエラの生成した法則を無理やり消失させることで不可視の壁を壊していたのだ。けれども壁を壊したところでミカエラが再び法則を生成すれば不可視の壁は容易く完成し、二人はいたちごっこに陥っていた。


 そこでセイヤはミカエラが生み出す壁の一部に自身の肉体を食い込ませることを模索したのだ。最初の段階でミカエラが生成した固有世界でも夜属性の魔力を持つセイヤに直接的に作用をすることができないと確認していたセイヤは不可視の壁が自身には影響しないと考えたのだ。


 実際にミカエラの不可視の壁はセイヤの右腕を切断することができなかった。そして双剣ホリンズのすぐ先にはミカエラの肉体がある。


 決定的な好機を前にセイヤは続けて魔法を行使した。


 行使する魔法自体は単純は光属性の魔法である『光延』だ。これは光属性の魔力を刀身に付与することで魔力の刀身を形成して疑似的に刀身を長くする魔法だ。


 だが『光延』単体では特級魔法師であるミカエラには届かないのでセイヤは聖属性の魔力を付与して魔法の質を一気に高めた。


 魔力によって延びたホリンズがミカエラの首を突き刺す。まさに致命傷ともいえる一手であった。


 

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