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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
9章 革命軍編
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革命軍24

 セイヤに聖属性を使える理由を問われるとミカエラは少しだけ考え込む素振りを見せる。ミカエラの態度を見たセイヤは改めてミカエラが聖属性を使えるのだと確信した。


 最初はただの疑念にしか過ぎなかったが、ジャックとの戦いでミカエラが見せた力の一端は光属性というにはあまりにも神々しいものであった。ミカエラが特級魔法師であるということを差し引いても彼の力は異質であり、セイヤはミカエラが聖属性を使えるのではないかと疑いの目を向けていたのだ。


 そして今の彼の仕草はセイヤの質問を肯定するものであった。


「貴様が言う聖属性というのはこういうことか?」


 ミカエラが言葉を終えた瞬間、周囲の景色が一変する。先ほどまでセイヤが生成していた草原の固有世界は一瞬にして砂漠へと変貌する。地面に生えていた草木は跡形もなく消え去り、現れたのは草木が一つもない砂の大地。


 草原を照らしていた太陽も高度を高くしながらセイヤの肌を焼くように眩い光量を放っており、空気も乾ききったものへと変わった。二人を照りつかせる太陽はとどまることを知らずに大地を熱し、周囲はあまりの暑さに揺らぎ始める。


 ごくりと唾を飲んだセイヤであるが、それが無意識に身体が水分を欲したのか、それとも一瞬にして自分の固有世界を激変させたミカエラに対する緊張かはわからない。額ににじみ出た脂汗をぬぐったセイヤは目の前に立つミカエラのことを睨む。


「ふむ、やはり人間の体にこの気候は適さないようだ」


 セイヤの視線を他所にミカエラは自身を照り付ける太陽を憎たらしい目で見ると再び魔法を行使する。すると先ほどまで二人を照りつかせていた太陽を隠すように生じた黒く厚い雲が空を覆う。しばらくするとぽつぽつとセイヤの頬に水滴が触れた。


 その水滴をきっかけに大気を覆った厚い黒雲から一斉に水滴が地面に叩きつけられ、あたり一面は一瞬にして豪雨地帯となる。そればかりか砂漠の砂は雨に打たれると一瞬で堅い地面へと変貌する。雨はすぐに止み、上空の黒雲はいつの間にか姿を消して白い曇天に変わっていた。


 あっという間の出来事であったが、セイヤがミカエラの実力を察するには十分すぎるほどの衝撃を残した。ただ砂漠が熱いなら新しく固有世界を生成すればいいところをミカエラは敢えて天候を操ることで解決した。


 それは固有世界の置ける自らの絶対優位性を示したことになる。今のミカエラならば天候どころかセイヤの鼓動さえも操作できるに違いない。


 レイリア王国において特級魔法師という枠に区分されているミカエラであるが、彼の実力は並の特級魔法師を遥かに超えていた。そもそも聖属性という力がレイリア王国において特別な力であるために最早ミカエラをレイリア王国の基準で判断することは適していない。


 同じ聖属性を使う魔法師としてセイヤが測ったミカエラの力は自身の数段上であった。それどころかセイヤに聖属性を指南したモルガーナよりも勝っている。それほどまでにミカエラの見せた聖属性は重厚で強力であった。


 たった数度の魔法の行使で実力差を思い知らされたセイヤであるが、彼には絶望感はない。もしセイヤが聖属性しか使えない魔法師ならば太刀打ちもできなかっただろうが、セイヤには聖属性と同等以上の力である夜属性があった。


 加えて今のセイヤは聖属性よりも夜属性の方を得意としている。その証拠にミカエラが行使した聖属性は全て夜属性によって消失させらてセイヤには直接の影響を及ぼしていない。


「これで準備は整っただろう」

「もう一度だけ聞く。なぜお前が聖属性を使える?」


 快適になった空を見上げながらつぶやくミカエラに問うたセイヤは大剣デスエンドを握りしめる。そこには一切の隙もない完璧な立ち振る舞いであるが、一方のミカエラは特に警戒した様子を見せていない。


 湿った風がセイヤの頬を撫でる。ミカエラは視線をセイヤに移すと応えた。


「貴様は聖の力が何かを知っているのか」

「どういう意味だ」

「そのままの意味だ。聖の力が何であり、同時に貴様の使う夜の力が何か」


 セイヤは言葉に詰まる。聖属性と夜属性についてはモルガーナから聞いて理解しているとつもりであったが、直感的にミカエラが問うているのはそう言う次元の話ではないということを理解していた。


 答えを持たないセイヤをみたミカエラが嘆息する。


「貴様も結局はそちら側の人間ということか」

「なんだと」

「これ以上の問答は無用だ。知りたければ自分の力で気づくんだな」


 その言葉を最後にミカエラはセイヤに向かって魔法を行使する。その魔法は聖属性でただ矢を生成して一斉放射する単純な魔法であるため、セイヤは右手に握る大剣デスエンドを一振りして夜属性の魔力が乗った斬撃で消失させる。


 この程度の攻撃ではセイヤの夜属性を押し切ることはできないと知っていたミカエラに驚いた様子はない。むしろ防がれる前提で次の攻撃に移る。


 セイヤを起点に地面に展開された白い魔方陣はミカエラによるもの。足元の魔法陣に気づいたセイヤはすぐに大剣デスエンドを地面に突き刺すと地面に展開された魔法陣は消失する。だがセイヤはすぐに異変に気付いた。


 地面に刺した大剣デスエンドが抜けなくなったのだ。それはまるで大剣デスエンドが地面に固定されたような感覚である。セイヤはすぐに夜属性の力を使って地面に固定化された事象を消失しようと試みるが、なぜか上手く作用しない。


「ならば……」


 ミカエラの魔法を消失しきれなかったセイヤは大剣デスエンドから手を放すと単身でミカエラに向かって攻め入る。その手にはいつの間に生成されたのか、双剣ホリンズが握られている。


 『纏光』で自身の身体能力を上昇させたセイヤは刹那の時間でミカエラとの間合いを埋め、双剣ホリンズで斬りかかる。しかしミカエラに到達する前にセイヤの剣は不可視の壁に阻まれた。


「これならどうだ!」


 双剣ホリンズを防がれたセイヤは刀身に夜属性の魔力を纏わせて不可視の壁に斬りかかる。すると今度は剣が触れた瞬間に不可視が消失し、ミカエラの肉体が露わになった。けれども不可視の壁を消失させた反動でセイヤのホリンズは砕け散る。


 セイヤは砕け散ったホリンズに構わず反対の手に握っていたもう片方のホリンズでミカエラに襲い掛かったが、その時には再び不可視の壁が完成されていた。


 再び夜属性の魔力を纏ったホリンズと不可視の壁が衝突しあって両者が砕け散る。


 だがセイヤは止まらない。ホリンズが砕けることも気にせず次々と新たなホリンズを生成して闇属性の魔力を纏わせてミカエラに斬りかかる。ミカエラも同じように不可視の壁が消失された傍から次の壁を用意して攻撃を防ぐ。


 まさに両者譲らぬ攻防であった。

お久しぶりです。

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