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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
9章 革命軍編
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革命軍23

 自身にまとわりつくように地面から生えてくる木々を消滅させるセイヤであるが、いくど消滅させようとも木々は無尽蔵に生えてきてセイヤに襲い掛かる。


 このままでは魔力をと時間を浪費するだけだと考えたセイヤは木々の成長の根源である魔法陣を対処しようと考える。しかしいくら周囲を索敵しても魔法陣どころか術者の気配すら感じ取ることができなかった。地面から木々をはやしてセイヤに的確に襲い掛かっていることから術者はセイヤのことを視認していることは確かなのだが、その気配を感じることはできない。


 考えられる可能性として気配を消すのではなく、他の何かに似せることでセイヤの索敵を欺いていることがあげられる。こうなってくるとセイヤの敵をピンポイントで対処することは不可能だ。


 対抗策として周囲に向かって無秩序に闇属性の魔力を巻き散らかし、無作為に消滅させていくという手段がある。これならば敵の位置を補足できていなくても対処することが可能であるが、セイヤはそれをしようとは思わない。


 なぜなら現時点で敵の狙いがわからないから。この場にはセイヤの他にダクリアの冒険者であるジャック、レイリアの魔法師であるミカエラの姿がある。そしてセイヤのことを妨害する人間はどちらかの勢力の人間ということまでは予想がつくが、その所属がわからない段階で手を下すのは避けたいというのがセイヤの本心だ。


 それに敵はあくまでセイヤのことを妨害することに重きを置いており、危害を加えようとはしていない。それならば敵と決めつけて攻撃するのも早計であった。


 一方でジャックは魔剣クリムゾンブルーを手に《天使》ミカエラへと襲い掛かっていた。


 ミカエラの首を取りにいったジャックは魔剣クリムゾンブルーを振りぬくが、ミカエラは後方へ軽く跳躍するところで迫りくる刀身を難なく回避する。回避されたジャックはそのまま右足を踏み込むと振りぬいた右手の肘をミカエラの鳩尾に向かって突き出す。


 しかしミカエラの方も腹筋に力を入れることでジャックの攻撃を防ぐ。同時に拮抗状態になったタイミングでミカエラはジャックの頭上に黄色い魔法陣を展開して光の矢を降り注がせる。


 この攻撃に対してジャックは闇属性を行使することで魔法陣ごと消滅させた。だが一瞬だけ頭上に気をとられたジャックの隙を逃さないミカエラはジャックの右手首を掴むと右足を軸に素早く回転して後方にジャックの身体を放り投げる。


 ジャックの方も自身の周囲に展開する衰退の魔力でミカエラの動きを止めようとしたが、ミカエラの使う属性は光属性である。さらにレイリアでも最高位に位置する魔法師であるミカエラの魔力は容易くジャックの衰退を相殺するため意味をなさない。


 後方へ放り投げられたジャックに向かってミカエラは再び黄色い魔法陣を展開させて攻撃を試みる。ジャックは先ほどと同様にその魔法陣を闇属性の魔力で消滅させるが、すぐにその魔法陣がフェイクだということに気づいた。


 直後、空中を進むジャックを囲むように展開された二十四の魔法陣。ジャックはすぐに闇属性の魔力を使って魔法陣を消滅させようとしたが、ジャックの魔力よりもミカエラの魔法の方が先に起動した。


 ミカエラが行使した魔法はとても単純な光のレーザーだ。威力にしてみればそれほど脅威ではないのだが、真価を発揮するのはそれから出会った。


 展開された二十四の魔法陣は緻密に計算された場所に配置されており、撃ちだされた一筋の光は最初の魔法陣に触れると反射して二つに分裂する。しかも光属性の魔力には上昇という効果が付与されており、当然この性質は光のレーザーにも適用される。


 魔法陣に触れるたびに分裂し、威力を増す光のレーザーは光速で分裂と反射を繰り返し、一瞬にして無数の光の筋となってジャックに襲い掛かった。


「ちっ……」


 ジャックはすかさず自身を中心とした衰退圏内の効力を最高水準まで上げてミカエラの攻撃の威力を軽減しようと試みる。実際にジャックに近づく光の筋は威力こそ衰退したが、それでも完全に防ぎきることはできなかった。


 まるで無数の針に貫かれるような感覚に陥ったジャックは全身から血を流しながら鉱山の上へと倒れこむ。それはジャックが初めて味わう感覚であった。


 倒れこむジャックに向かってミカエラが告げる。


「貴様に用はない」

「るせぇ……てめぇにはなくとも、こっちにはあるんだよ」

「ふむ、どうやら死にたいようだな」


 ジャックのことを見下ろすミカエラの視線はとても冷たいものであった。その視線は普段ジャックが標的に向けるものと同じである、向ける側から向けられる側になったジャックは怒りを覚える。


「てめぇ……」

「弱い犬ほど叫ぶ」

「殺してやる」

「貴様のような駄犬に何ができる。いや、駄犬だからこそ実力差がわからないということか」


 ミカエラは落胆するように告げると巨大な魔法陣を一瞬にしてジャックの足元に展開させる。そして直後、魔法陣の中心にいたジャックの身にすさまじい重力が圧し掛かった。


「ぐっ……」


 言葉を発しようにも襲い掛かる重力によって口がうまく回らない。そればかりか全身の骨という骨が圧し掛かる重力に悲鳴をあげているが、ミカエラは気にした様子も見せない。


 明らかにミカエラはジャックに対して興味を失っていた。


 このままいけばジャックの身体は重力によって潰され、ジャックが圧死するのは必至だった。それにこの状況ではジャックが魔法を行使することもできない。


 勝負は完全に決まった。はずだった。


 しかし次の瞬間、ミカエラは信じられない光景を目の当たりにする。


「んな……」

「ん?」

「ざけんな……」

「まだ声を出せる余力があったか」


 ジャックが言葉を発したことに意外感を示すミカエラであるが、この時点でミカエラはさらに魔法を行使しておくべきであった。


 次の瞬間それは起きる。


「ふざけんなぁぁぁぁぁ」


 ジャックの咆哮にも似た叫び声とともにミカエラの展開していた巨大な魔法陣が消滅した。

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