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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
9章 革命軍編
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革命軍21

 それは唐突に姿を現した。セイヤとジャックが激闘を繰り広げていることなど気にすることもなく姿を現したのは一つの魔法陣だ。


 それもこの国で目撃することはまずない黄色い魔法陣。闇、火、水、風の四属性が基本属性とされるダクリアでは黄色い魔法陣は存在しないため、多くの人がその魔法陣を見ても不思議な自然現象と勘違いするかもしれない。


 しかし偶々その場に居合わせたセイヤとジャックは黄色い魔法陣を見てすぐに戦いを止めた。ジャックは当初その魔法陣はセイヤが展開したものかと疑ったが、それにしてはあまりにも展開した場所がかけ離れているために別の術者がいると結論付ける。


 一方のセイヤも身に覚えのない魔法陣に驚きを見せる者の、すぐにその魔法陣を展開したである術者のことを警戒する。この時点でセイヤは自分以外のレイリアの人間が近くにいると確信していたが、その姿までは捉え切れてはいない。


 そもそも突然出現した黄色い魔法陣は二人に向けられた魔法陣ではない。魔法陣が展開されたのは二人から少し離れた上空だ。より厳密に記すなら二人が激闘を繰り広げていた場所から小高い丘を挟んだ向こう側の上空である。


 これだけならば警戒に値しないと思うかもしれないが、展開された黄色い魔法陣の大きさが規格外であった。通常、魔法陣が展開する魔法陣の大きさは魔法の威力によって左右されるため一定ではない。ただし一人の術者が扱うことができる魔力の量には限りがあるため大きくても三メルほどの魔法陣が限度だ。


 それ以上の魔法陣を展開したところで威力が削がれるだけだ。


 そもそも魔法陣とは術者の体内で錬成した魔力をこの世界に作用させるために通すゲートのような役割を果たしている。魔力を直接作用させる術も存在するが、魔法の多くは魔法陣を通すことで魔力を意図した形に形作ることを目的とされている。


 わかりやすい例をとれば容器に入った水が挙げられるだろう。容器の穴から流れ出る水の威力を高めたければ出口のサイズを小さくすることで噴き出る勢いを強めるか、もしくは容器のサイズを大きして蓄えておく水の量を増やすことのどちらかだ。


 これは魔法師の体内から魔力をこの世界に流れ出すことに似ており、多くの魔法師は試行錯誤しながら魔法の威力を高めている。そしてどんな魔法師でも魔力には限りがあるため魔法陣を大きくすることには限界が到来する。


 例外的にセイヤやユアは聖属性を使うことで魔力を発生させることができ、疑似的に無尽蔵の魔力を生み出すことができるが、ほとんどの魔法師は聖属性を使うことはできない。


 けれども突如として鉱山の上空に姿を現した魔法陣のサイズは直径にして二百メル。建物一つを軽々と包み込むであろう巨大な魔法陣が鉱山の夜空に現れたのだからセイヤたちが意識を奪われてしまうのも当然といえるだろう。


 セイヤたち以外にも工業都市の人間たちの一部も夜空が光り出したことに気づいて鉱山の方向を奇妙な面持ちで見つめている。魔法に明るくない人々であっても、巨大な魔法陣が展開されたことに対して不安は覚えているに違いない。


 もしかすると魔法を扱えるものなら巨大な魔法陣を見て嘲笑うかもしれない。あまりに非効率な巨大な魔法陣を展開したところで魔力量に限りがあるのだから行使される魔法は蛇口から垂れる水滴程度の威力しか生まれないというかもしれない。


 しかしセイヤやジャックたちは嘲笑うことなどしなかった。緻密に組まれた魔法陣を見て術者は巨大な魔法陣に相当する魔力を有していると理解できた。それ以上に明確な目的もなく巨大な魔法陣を展開するメリットは存在しないので魔法陣のサイズで警戒するのは魔法を扱うものにとっては常識だ。


 だからセイヤたちは巨大な魔法陣を見て驚きを覚えると同時に本能的な恐怖も覚える。経験したことのないほど大きなサイズの魔法陣は仮に行使されれば街一つを滅ぼすことだって容易だろう。自分の常識を超える魔法陣を見て、その魔法陣がどれほどの威力を発揮するかなんて想像することもできない。


 まさに未知の存在だった。


 そして突如として鉱山の夜空に展開された巨大な魔法陣の下にあった建物で休んでいた革命軍の冒険者たちも異変に気付いて外に出始める。だが彼らが上空に展開された理解を超越する巨大な魔法陣を視認した時には行使された魔法が彼らに襲い掛かる。


 それは唐突に行使された。


 上空に展開された巨大な魔法陣から降り注いだのは光だ。傍から見ればただの光であるが、周囲にいたセイヤたちは間違いなくそれを見た。


 魔法陣から降り注ぐ膨大な光量は間違いなく熱量も持っていた。しかもその熱量はこの世界の機器で測りきることができないほど高い。降り注いだ膨大な光量は地上に広がるあらゆるものを包み込むと、そのすべてを例外なく焼き尽くしている。


 魔法陣の圏外にいたセイヤたちはすぐに防衛魔法を行使して迎え撃つが、彼らに襲い掛かるのは光ではなく衝撃。ダクリアでも実力者の二人であっても防ぎきるのがやっとの衝撃が丘の向こうから襲ってきたのだ。丘の向こうは一体どうなっているのか、想像もつかない。


 膨大な光量は時間にしてみれば五秒もなかっただろう。光が降り注ぎ終わると上空に展開された巨大な魔法陣は跡形もなく姿を消し、鉱山は静寂に包み込まれる。


 まるで数舜前の出来事が嘘のように静寂に包み込まれた鉱山の中でセイヤたちが展開した防衛魔法はボロボロになりながらも役目を果たしていた。ただセイヤたちの表情は険しい。


 互いに視線を送り合いながら戦いを止めた二人は警戒しながら丘の向こうへを目指す。この時点で二人には戦う意思はなく、丘の向こうで何が起きたのかを調べる方が最優先であった。


 けれども丘の向こうに広がる光景はあまりにも凄惨なものであり、セイヤたちは言葉を失う。


 先ほどまでそこにあったであろう建物は跡形もなく消え失せており、建物の骨組みであったあろう鉄骨がわずかに残っている程度。その鉄骨も建物の全体は残っておらず、残っているのは多く見積もっても三割程度だろう。


 それ以上に大きかったのは人的被害であろう。先ほどまでその建物の中にはセイヤたちを除いた革命軍の生き残りである百名近くの冒険者がいたはずだというのに、その場に彼らの姿は一人もなかった。肉体の残骸さえ残っていないのだ。


 まるでまとめて異空間に飛ばされたとでも言われた方が納得できるくらいに跡形もなく消えていた。ただ不自然に地面に残された人の形にも似た影が、彼らの生前の姿を証明するものであった。その影は魔法が行使される直前に建物の外に様子を見に来た者たちの影。


 それ以外に彼らの生きた証は何も存在しなかった。突如として上空に展開された巨大な魔法陣から降り注いだ光が一瞬にして革命軍の生き残りたちを蒸発させたのだ。


 何があったのか、鉱山に建物があって中に人がいたと言われなければ想像することができないほど跡形もなく革命軍の存在は消えていた。その光景には裏の世界で生きてきたジャックでさえも言葉が出ないほどだ。


 無慈悲などという生温い言葉で表現することさえ気が引ける事態を引き起こした術者は意外にも近くにいた。正確には丘を越えてきたセイヤたちと建物の残骸を挟んだ反対側に立っていた。


 その人物はセイヤたちに気づくと僅かに驚いた様子を見せるが、一方のセイヤは僅かどころでは済まなかった。セイヤの元々の目的を考えれば、その人物が姿を現したことに違和感はない。むしろ納得するべきなのだろうが、セイヤは驚きを覚えてしまった。


 だが時間が経つにつれて驚きが納得に変わっていき、言葉をつぶやける程度には回復する。そしてセイヤの口から術者の名前が告げられた。


「お前はミカエラ……」


 セイヤたちの前に立っていたのはレイリア王国で特級魔法師の地位につく《天使》ミカエラであった。

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