革命軍20
全身を黄色い魔力、光属性の魔力で覆われたセイヤは自身に向かって振り下ろされた魔剣クリムゾンブルームを受け止めると押し返してジャックから距離を取る。
意外にもジャックからの追撃はなく、ただセイヤのことを睨みつけている。
「てめぇ、その力は……」
ジャックの言葉を聞いたセイヤはわずかな後悔を抱いていた。できれば使いたくなかった力の一つがこの光属性であり、この力を使うことでセイヤがレイリアの関係者だということが露呈してしまう。
当初の懸念の一つであったジャックがレイリアの魔法師の関係者という可能性は限りなく低くなっていたが、それでもこの力をダクリアで使うには抵抗感が拭えなかった。
しかし光属性を使わなければジャックに斬られていたのも事実。光属性の使用は仕方ないと割り切る方が得策だろう。ただし光属性を使ってしまったことでジャックには大きな変化が生じている。
「ミズチ……てめぇ、外の人間か……」
「まさか光属性を知っているとはな」
「ならどうして闇を使える……」
ジャックの疑問はもっともだろう。光属性を使ったということはセイヤはレイリアの人間ということになるが、そうなると闇属性を使える理由がわからない。
仮にジャックと同じく魔剣クリムゾンブルームのような武器を使っているならば理解できるかもしれないが、セイヤにはそのような素振りはない。それに仮に後天的な能力ならばジャックの夜に近い闇を掻き消すことはできない。
となればセイヤの光は闇属性同様に先天的なものである。
そのようなことが可能なのか、という疑問が湧き上がるのも時間の問題だろうが、ジャックはそれ以上にセイヤの正体に怒りを覚えていた。ジャックは魔王のことを嫌っているが、それ以上に嫌いなのが外の人間だ。
外の人間に対抗するためならば魔王とだって協力することを辞さない。それらくらいジャックはレイリアの人間に敵対視を抱いていたが、その行動原理は基本的には愛国心によるものである。
「てめぇは一体何が目的だ」
「随分と質問が多いな」
「答えないというなら構わねぇ。てめぇの首を斬り落とすまでだ」
明らかに苛立ちを覚えているジャックは質問の答えを待たずにセイヤに斬りかかった。これに対してセイヤは『纏光』を行使しているためこれまで以上の速度でジャックに接近する。
ただしジャックの周囲に展開されている衰退の効果は強力であり、セイヤの肉体に作用している上昇の効力を衰退させる。とはいうものの元々上昇していたものに衰退が作用したところでマイナスになるわけではない。
平常時に比べればセイヤの身体能力はプラスを推移していた。
「悪いな、ジェイ。もうお前の衰退は効かない」
「ちっ、くそがぁ」
先ほどまでとは打って変わりジャックの衰退圏内でも思い通りに動けるセイヤは光属性の魔力を纏わせたホリンズでジャックに襲い掛かる。
これに対してジャックも夜にも近い闇属性を使ってセイヤの攻撃を押さえつける。
両者の戦いは一周回って剣術戦になっていた。互いに相手の隙を突いて魔法の行使を試みるが、光と闇では相性が悪すぎた。一方が魔法を行使してももう一方の魔法が相殺して魔法が意味をなさない。
魔法が牽制の役目さえも担わなくなった物理戦は白熱していく。
セイヤがホリンズで突きを試みればジャックが魔剣クリムゾンブルームで攻撃を防ぎ、ジャックが魔剣クリムゾンブルームを振り下ろせばセイヤのホリンズが軌道上に現れて弾く。
両者の戦いは高純度の魔力を携える物理戦になっていたが、互いに有効な一打を与えられない状況で再び膠着状態に入ろうとしている。
しかし時間の経過とともにセイヤの光属性の魔力の純度が上がっていき、次第にジャックの手数が減っているのも事実であった。
ジャックの衰退の効果範囲に入っているものの、セイヤの上昇は時間を追うごとに強化されており、セイヤの動きも次第にジャックの視認速度を超えようとしていた。
これに対してジャックは衰退に出力を限界まで上げるが、衰退範囲の中心に自分がいる以上、過度な衰退は自身に影響を及ぼしかねない。上昇が青天井なセイヤの光属性に対してジャックの衰退は既に限界を迎えようとしている。
そもそも普通の魔法師が相手ならばジャックの衰退は脅威になる。けれども衰退のタネが発覚し、その上で衰退に対抗する光属性の魔力を変幻自在に操ることのできるセイヤに前では有効打にはならない。
セイヤの『纏光』は主に光属性の魔法であるが、その出力の調整には闇属性を一役買っている。青天井に上昇する光属性をアクセルとするなら、光属性を相殺する闇属性はブレーキの役割を担う。
つまりセイヤが『纏光』を使えるのは光属性だけでなく闇属性も使えるからであり、そのような存在は世界中を探していてもセイヤくらいだろう。言い方を変えるならばジャックは運が悪かったとしか言えない。
たまたま最初に当たった敵が衰退の天敵ともいえる存在だったのだ。
加速していくセイヤの動きを次第に目で追えなくなったジャックは気配だけでセイヤの動きに対処して見せるが、それで防げるほどセイヤの攻撃は甘くはない。
対処しきれなかったセイヤの攻撃によってジャックの肉体には小さな傷が刻まれていく。これに対してジャックは決定打のみを防ぐことにシフトしたためダメージが蓄積していく。
(ちょっとジャック、死にそうじゃん)
(るせぇ……)
(もう仕方ないな。もう一つ新しい魂を受かっていいよ)
そういって仮面の少女が二つ目の魂の使用を許可する。その魂は生前治癒術に長けた火属性の冒険者の物であり、封印の解除と同時にジャックの肉体が活性化によって回復していく。
ジャックの変化に気が付いたセイヤは少しだけ驚いたそぶりを見せるが、すぐに攻撃に集中する。なぜジャックが火属性の魔法を使えるのか疑問に思ったものの、傷を治すならばそれ以上にダメージを与えればいいとセイヤは結論付ける。
そしていよいよセイヤの速度が神の領域にかかろうとした時だった。
「次で終わらせる」
セイヤは最後に呟くと視界から色を消す。
神速の世界において色は不要だ。モノクロの世界にすることで処理する情報量を削減し、体への負荷を必要最低限にする。それは視覚だけではなく味覚や嗅覚といった戦いにおいて不要な感覚器官も同じである。
久しぶりに足を踏み入れた神速領域であるがセイヤに戸惑いはない。そして神速の世界に至ったセイヤの視界ではジャックは停止しているようであった。
今度こそ勝負が決まった。
セイヤが確信したその時、それは姿を現す。




