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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
9章 革命軍編
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革命軍17

 セイヤの肉体を魔剣クリムゾンブルーによって消滅させたジャックであったが、すぐにセイヤが生きていることに気が付く。魔剣であるクリムゾンブルーの能力は斬った相手の魂を回収して魂がある限り生前の能力を使用することである。


 そのため相手を切った直後は使用者であるジャックにも魂の回収が察知できるはずであったが、ジャックはセイヤの魂を察知できなかった。ここからわかることは一つ。セイヤがまだ生きているということである。


「出てこい、ミズチ」

「まさか気づかれていたとはな」


 セイヤの言葉が響くと同時に鉱山の地面に青色の魔法陣が展開されて傷一つないセイヤの姿が現れる。しかし直前にジャックによって破壊された剣までは無事とはいかず半壊していた。


「水の分身か」

「ああ。まあ一種の賭けに近かったが、こうして成功したって訳だ」


 ジャックの攻撃に対して打つ手がなかったセイヤは自身の鎧を強化することで、自分は防御に専念するとジャックに錯覚させた。そして魔剣クリムゾンブルーで斬られる寸前を狙って水属性の魔法で分身を作って身代わりの術を使ったというわけだ。


 もともと水属性に対して適性を持たないセイヤにとっては博打ともいえる一手であったが、結果的に咄嗟の判断が功を奏してセイヤは生きている。


 加えてセイヤは一つの核心を得た。


「最初はわからなかったが」

「ああん?」

「ジェイ。お前は自身の周囲に感知できないくらいの魔力を展開しているんだな」

「ほう、気づいたか」


 セイヤの言葉に笑みを浮かべたジャックは少しだけ嬉しそうである。


「途中までは全然わからなかったよ」

「ならどうしてわかった」

「剣だ」

「なにぃ?」


 どうやってセイヤが自分の力の正体を突き止めたのか気になったジャックは剣といわれて理解できていない様子だが、セイヤの方も半ば半信半疑である。


「最初の攻防では俺の剣とお前の剣の間には差はあれど致命的なものじゃなかった。だが最後の一手の時に俺の剣は呆気なく壊されてしまった。ここから推察されることはジェイの能力は自身に干渉するタイプの魔法ではなく、相手に干渉するタイプの魔法だ。そして常にジェイの身体能力が上昇していると感じなかったことから効果範囲はジェイを中心とした一定距離内だ」


 どうしてジャックの身体能力が上昇していたのか、その答えは考えてみれば単純なものである。


 二人の実力差が皆無に等しい人間がいたとする。その二人が戦っている最中に突然両者の間に実力差が生まれたとしたならば、普通は相手方の能力が何かしらの力によって上昇したと考えるのが通常だろう。


 しかしこの場合、相手方の能力が上昇した以外にも自身側の能力が下降させらた可能性も存在するのだ。自身の能力が下降させられたならば相対的に相手方の能力が上昇したように感じられる。


 仮にジャックの身体能力が上昇したならば闇属性の魔力を纏っていた魔剣クリムゾンブルーの能力は上昇することが不可能だ。そして魔剣クリムゾンブルーの能力が上昇していないのなら、最初の攻防で互いの武器に致命的な差がなかったことがわかっている両者の剣がぶつかり合って壊れることはない。


 つまりジャックの魔法はジャックに作用していたのではなく、セイヤとセイヤの剣に作用していたということだ。


 ただし、この場合における問題点として相手方に作用する魔法は常に相手方に感知されるということだ。相手から何かをされたならば人間は自分自身の変化に気づいてすぐに対処することができる。しかしセイヤは気づくことができなかった。


 ここで思い出されるのがジャックの殺気だ。ジャックの殺気は直前まで相手に気づかれることがなく、最後の一瞬で一気に姿を現す。それは例えるならば海面を静かに移動しながら陸の獲物に迫り、最後の一瞬で姿を露にして敵を喰らうシャチのようであろう。


 ジャックの殺気同様、ジャックの魔法さえも敵に気づかれることなく作用できるのだ。これこそがジャックの闘気であり、ジャックという冒険者の在り方であった。


「それにお前の闇属性は普通の闇属性とは違う。仮にジェイの魔法を形容するのなら消滅ではなく、衰退といった方が的を得ている。違うか?」

「まさかそこまで見破られるとはなぁ」


 相手に感知されることなく相手の能力値を大幅に下げるジャックの能力は衰退。自身の周囲三メルに闇属性の魔力を展開しているジャックは、その圏内に入った相手の能力を衰退させ、相手にそのことを気づかせないことで、自身の能力を上昇させているように錯覚させる。


 そして衰退圏内に入っている時間が長ければ長いほど能力値は減少していき、ジャックの能力が上昇し続けると錯覚させられるのだ。だから鍔迫り合いしているときのセイヤは時間の経過とともに苦戦を強いられることになった。


 そもそも闇属性に衰退という効果があるのかという疑問が残るが、一般的には闇属性の効果は消滅だ。これは曲げることのできない法則であり、まごうことなき事実だ。


 ただジャックの場合は少し特殊といった方がいいだろう。ジャックの適性は闇属性なのであるが、微妙に水属性の適正も含まれている。そのため闇属性を強化していく途中で水属性の適性も成長してしまったのだ。


 かつてダクリア二区の魔王として君臨した魔王ブロード=マモンは闇属性と火属性を合わせることで腐食という新しい属性を生み出したが、これは闇属性の消滅と火属性の活性化が合わさって誕生したものだ。


 これに対してジャックの場合は闇属性の消滅と水属性の沈静化が相まって衰退という新しい効果を生み出していた。けれどもこれは特殊な例であり、ジャックと同じく衰退の能力を持つ冒険者は少ないだろう。


 仮に衰退を使えたとしても、ジャックのように闘気で相手に気づかれずに行使できなければ効果は期待できない。つまりジャックの衰退はジャック固有の能力と断言してもよいだろう。


「俺の能力を見破った褒美として武器を出す時間はくれてやる」

「なんだと?」

「さっさと出せよ。てめぇが普通の剣使いじゃないことくらいわかってる。てめぇの動きはぎこちなさはないが、実力にもみ合っていない。大方使い慣れていない武器を無理やり使っているってことだ。だからあんだろ、てめぇの使い慣れた武器がよぉ」


 戦いの中で見せるセイヤの動きの単調さを指摘したジャックであったが、確かにセイヤは普通の剣を使い慣れてはいない。セイヤは双剣使いであり、大剣使いの魔法師。普通の剣は大剣の使い方を流用しているが、どうしても適していない点が出てきてしまう。


 そこを今度は双剣の技術を使って誤魔化していたセイヤであったが、ジャックには見抜かれていたようであった。


「仕方がないな。ならば俺も本気をもってジェイに立ち向かわせてもらおう」

「ふん、こいよ」


 半壊した剣を投げ捨てると、セイヤは使い慣れた愛剣である双剣ホリンズを両手に収めるのであった。

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