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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
9章 革命軍編
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革命軍16

 セイヤの前で魔剣クリムゾンブルーを構えるジャックであるが、彼の纏う空気が先ほどまでとは異なっている。そのことに気づいたセイヤは先ほどよりも警戒心を強めると同時に両手で握る剣を今一度握りしめる。


 警戒心を強めたセイヤであったが、意外にもジャックの動きに大きな変化はなかった。魔剣クリムゾンブルーを片手にセイヤに迫るジャックの動き自体はセイヤの実力なら余裕で対処できる程度の力である。だからセイヤはほんの少しだけ気を緩めてしまった。


 しかし一瞬の気の緩みが命取りになる。セイヤとジャックの間が三メートルくらいになったタイミングでジャックの動きが加速したのだ。予想していなかったジャックの動きにセイヤは肝を冷やすが、とっさに剣を振り上げてジャックの攻撃を真っ正面から受け止める。


 辛うじてジャックの攻撃を回避したセイヤは剣をぶつけあった衝撃で後方へ吹き飛ばされるが、すぐに空中で大勢を整えて着地する。けれどもジャックの攻撃は留まらず、着地直後のセイヤの首を狙って斬りかかった。


 そして再び自身に接近してくるタイミングでジャックの動きが加速する。今度の攻撃は加速を込みで予測していたセイヤは両手で剣を構えて魔剣クリムゾンブルーを受け止めた。重心を下に落としていたセイヤは魔剣クリムゾンブルーを受け止めることに成功し、両者の剣が鍔迫り合いを始める。


 二人の剣は拮抗するように見えたが、時間がたつにつれてセイヤの方が押され気味になっていく。セイヤの持つ剣が普通の剣に対し、ジャックの持つ剣は魔剣クリムゾンブルーである。剣そのもののレベル差というものを考えればセイヤが押され気味になるのも理解できるが、それならば最初の段階で勝負がつくはずだ。


 だがセイヤの剣は魔剣クリムゾンブルーを受け止めることに成功し、そのうえで拮抗することもできた。ならばセイヤが押され始めているのは剣自体の性能ではない。それ以外の付随的な要素によるものと考えた方がよい。


 一例として身体能力の格差など。


 拮抗状態にあった二人の間で実力差が生まれるとしたら、それはどちらか一方の身体能力が上昇していると考えた方が理屈に合うだろう。


 ただそれはとても理解に苦しむ仮定でしかないが。


 仮にジャックの身体能力が時間の経過とともに上昇しているというならば、それはジャックが拮抗する状態の中で自らの身体能力を魔法によって上昇させていることになる。それも上昇の効果を持つ光属性の魔法によってだ。


 ジャックが光属性の魔法を使って自身の能力を上げているというなら一連の動きにも説明がつく。しかしその前提であるジャックが光属性の魔法を使うという仮定に関しては理解することはできない。


 このダクリアにおいて光属性の魔法は魔法体系に組み込まれていない異端の魔法である。中にはレイリアの魔法師と結託して光属性の魔法を後天的に植え付けられた冒険者もいたが、それは脱魔王派である革命軍の冒険者たちであった。


 ジャックも彼らと同じくレイリアの魔法師と手を組んでいるというならば理解できるが、それならばどうして革命軍の冒険者たちに牙を向けるのかが理解できない。また仮にジャックが光属性の魔法を使っているならば、その兆候を感じられるはずだ。


 ましてやセイヤは光属性の魔法を基本とする魔法師であり、光属性の魔法に関しては過敏といってよい。そんなセイヤでも感知できなかったならば、ジャックはセイヤを凌駕する光属性の魔法師となるだろう。


 ジャックが使ったのが光属性の魔法でないとするならば、次点で考えられるものは活性化の火属性だろう。しかし火属性の活性化は能力を上昇させるものではなく、あくまで能力を活性化させるもの。


 根本的な能力値が変わらない火属性では、セイヤの予想を超える動きを体現するのは不可能だ。ならばジャックが使った魔法は一体何なのか、と考えるセイヤであるが、その間にもジャックの攻撃は止まない。


「これは防げるかー?」


 徐々にジャックの腕力に押されるセイヤに向かってジャックは追い打ちをかけるように魔法を行使する。魔法といってもレベル自体は低いが、ジャックの魔法はセイヤの視認を凌駕するほどの速さで行使される。


 魔剣クリムゾンブルーが纏う魔力から撃ち出される無数の紫色の魔力で形作られた針が一斉にセイヤに向かって襲い掛かる。


 平時ならば殺傷能力が皆無といえる魔力の針であるが、至近距離から無数に撃ち出されれば楽観視はできないだろう。セイヤはすぐに自身を包み込むように闇属性の魔力を展開する。


 それは自身の肉体を光属性の魔力で纏わせる『纏光』に似ているが、身体能力を上昇させる『纏光』と異なり、その魔法はあくまでも魔力の鎧に変わりない。闇属性の消滅が発動しないただの魔力の鎧であるが、セイヤの身を守るのには十分であった。


 魔剣クリムゾンブルーから撃ち出された無数の魔力の針はセイヤの纏う闇属性の魔力の鎧に弾かれる。代わりに先ほどよりも腕力が上昇したジャックがセイヤの剣を押し込み、セイヤの両足が地面にめり込み始めた。


 魔剣クリムゾンブルーによって押される自らの剣が眼前に迫るセイヤの表情には焦りの色が見えるが、対抗策を見出せないセイヤは下手に動くことができない。このタイミングで悪手を打てば間違いなくセイヤはジャックに負けるだろう。


 けれども何もせずこのまま耐えたとしてもセイヤの敗北は時間の問題だ。時間が経てば経つほど比例するようにジャックの身体能力が上がっていき、セイヤの敗北が近づいてくる。


 対応策を考えようにも止むことなく繰り出されるジャックの追撃にセイヤの思考の半分は持っていかれるこの状況でセイヤの脳裏には光属性の存在がちらつき始める。この状況で光属性の魔力を使えばセイヤは容易に窮地を脱することが可能だが、それは同時にジャックに対して自身の所属を明かすことになる。


 それでは潜入の意味がないだろう。それにジャックの使う魔法が光属性ならば背後にはレイリアの魔法師が存在することになり、セイヤの情報が筒抜けになる。それでは今後の行動に支障をきたすことになるので不用意に魔法を使うことができない。


 手数を封じられたセイヤは無駄な思考を終わらせると目の前の敵であるジャックに集中する。


「はぁぁぁぁぁ!!!」


 自身に纏わせた闇属性の魔力の出力を上げていくセイヤの様はジャックから見れば鎧を分厚くさせるようにしか見えなかっただろう。だからジャックは途端に興味を失ったようにセイヤのことを見下すとつぶやく。


「つまんねぇな」


 その言葉を最後にジャックの魔剣クリムゾンブルーがセイヤの剣を破壊し、セイヤの肉体を首元から上下にかけて破断する。肉体を半分に斬られたセイヤの意識は一瞬にして消え、肉体は魔剣クリムゾンブルーの闇属性の魔力によって消滅させられた。


 こうしてジャックは一人目の革命軍を葬ったのであった。

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