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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
9章 革命軍編
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革命軍15

 夜も深くなった鉱山の一角で向かい合うのはセイヤとジャックの二人。互いに革命軍に潜入中という点では同じであるが、その所属は異なっている。


「どうしたんだ、ジェイ。こんな夜に外に出て」


 セイヤは何気ない口調でジャックの方へと歩みを進めるが、その動きには一切の隙はなく、いつでも抜刀できる態勢であった。一方のジャックは近づいてくるセイヤをただ睨みつけるだけで動く様子は見られない。


 しかしその視線には明確な殺意が込められている。


「てめぇこそどうしてこんなところにいる」

「俺は夜風に当たりに来ただけだ」

「くだらねぇ」


 明らかな嘘を口にしたセイヤをさらに睨みつけるジャックは静かに魔剣クリムゾンブルーを抜くとセイヤの動きを注視する。剣にしては異形な姿を見せる魔剣クリムゾンブルーにセイヤの注意は引き付けられるが、ジャックに対して有効な隙にはならない。


 両者の感覚が十メルを割ろうかというところでセイヤが歩みを止めた。


「ジェイ。なぜ剣を抜く。それにその剣は一体……」


 見たことのない形をした魔剣クリムゾンブルーに興味を示すセイヤであったが、その質問は答えを期待したものではない。その証拠にセイヤはジャックの言葉を待たずに腰に帯刀していた剣を抜くと右手で強く握りしめる。


 ここでの会話は不必要だった。


 剣を片手に睨み合う両者は一切の隙を見せず、二人の間には張り詰めた空気が流れる。そして先に動いたのは魔剣クリムゾンブルーを持つジャックであった。


 魔剣クリムゾンブルーを振りぬいたジャックから撃ち出された斬撃が轟音とともにセイヤに襲い掛かる。その斬撃は闇属性の魔力を纏っており、一般的な冒険者が相手なら防ぐことは不可能に近いだろう。


 とても単純な攻撃であるが、その斬撃は一種の境地に達しており、触れるものすべてを斬り刻もうとする鋭い斬撃だ。しかしセイヤは自身の前に闇属性の壁を展開してジャックの斬撃を難なく防ぐ。


 その姿を見たジャックがつぶやく。


「てめぇ、何者だ」


 冒険者組合暗部の中で情報収集に長けている仮面の少女でさえも尻尾をつかめなかった謎の冒険者。素性がわからない上にその実力はジャックでさえも警戒せざるを得ないもの。


 闇属性を使うことからダクリアの人間だということは推察できても、それ以上のことはわからない。まさにセイヤは気味の悪い冒険者であった。


「いきなり攻撃してから素性を聞くとは野暮だな、ジェイ。それともそれがお前らの流儀なのか」

「ちっ。たった一撃とめたぐらいで随分と粋がるじゃねぇか」

「一撃であっても止めたことには変わりない」

「気に食わねえ」


 セイヤのことを睨みつけるジャックは再び魔剣クリムゾンブルーを構えると、自身の闇属性の魔力を纏わせる。とても澄んだ色をした紫色の魔力は一目見ただけでどれほど強力な魔力かを理解させる。


 これが幼少期より暗殺という裏社会に身を置き、あまたの死線を潜り抜けてきたジャックの実力である。けれどもこれはまだジャックという冒険者の一端にしかすぎず、恐るべきはジャックの戦い方であった。


 斬撃による攻撃が意味をなさないと理解したジャックは魔剣クリムゾンブルーを片手にセイヤに肉薄して魔剣クリムゾンブルーを振り上げる。これに対してセイヤは持っていた剣を両手で握るとジャックの攻撃を受け止めた。


 甲高い金属音が響く中でジャックは空いていた左手に紫色の魔法陣を展開すると魔力で模した短剣を作り出し、その短剣をセイヤの首元に向かって投擲する。


 自身に飛来する魔力の短剣に対してセイヤは闇属性の魔力を自身の首元に纏わせることで攻撃を防ごうとした。首元でぶつかり合うセイヤの闇とジャックの闇は一瞬だけ拮抗したように思えたが、すぐにセイヤの闇属性の魔力がジャックの魔力を消滅させる。


 だが、その時にはすでにジャックは次の行動に移っていた。一瞬であるが、セイヤの注意は自身の首元に受けられた。そしてその隙を狙ったかのようにジャックは右足でセイヤの左足を刈るように蹴り上げる。


 首元から一番離れた場所を襲われたセイヤは対処することができず、そのままバランスを崩して後ろに倒れこんでしまう。すかさずジャックは後方にバランスを崩したセイヤの心臓部分に向かって魔剣クリムゾンブルーを突き出す。


 どんな実力者であっても生じた隙を突かれては対処は難しい。


 まさにこの一手が決定打になろうとした時であった後方に倒れこもうとするセイヤは左手に闇属性の魔力を纏わせるとそのまま魔剣クリムゾンブルーを殴り飛ばす。


「なにぃ?」


 予想外の行動に面食らったジャックはわずかに隙を作ってしまう。セイヤはジャックの隙を突いて距離をとるが、その左手には血が滲んでいる。


 まさか相手が素手で剣を殴ってくると思わなかったジャックは面食らったようになってしまったが、ジャックが驚くのも仕方のない事だろう。


 セイヤの戦い方は言ってしまえば邪道の戦い方である。普通に考えれば武器を使ってくる相手ならば同じく武器で応戦するのが基本であり、相手が飛び道具を使ってくるなら、こちらも飛び道具に対応する道具を使う。


 しかし今のセイヤはあまりにも原始的な戦い方をした。原始的ゆえにジャックも虚を突かれた形になってしまい、セイヤに距離を取らせてしまった。


 ただ一般的な冒険者が見ればジャックの戦い方も十分邪道といえるだろう。鍔迫り合いの中で飛び道具を使ったり、足技をかけたりと多彩な攻撃で相手を翻弄する。これはジャックが幼少期より暗殺に従事してきたから身に着けてきた技であり、普通の冒険者生活を送ってきたならばまず身につかない技術である。


 ジャックはこれまでも強敵相手には多彩な方法で相手の虚を突きながら仕事を完遂してきたが、今回はセイヤの方がジャックを上回っただけである。


 ジャックが幼少期より暗殺に従事してきたならば、セイヤは落ちこぼれとして長い月日を戦い方の創出に費やしてきた。魔法が劣る自分がどうすれば魔法師に対して渡り合えるのかを追求してきたセイヤの思考は並みの魔法とは比べ物にならないだろう。


 そして昔ならば力不足で体現できなかった技も覚醒することによって実現することができた。さらに言えば一般的な魔法師よりも濃密な経験を積んできたセイヤの頭はまさに奇策の宝箱といってもいい。


 セイヤとジャックに共通することは生き残ることに常に全力だったということ。だから彼らの動きに安いプライドは存在せず、生き残るためにたとえ醜くとも最適な方法を選択する。


「少しは張り合いがあるじゃねぇか」

「ジェイこそ手癖の悪い戦い方をするな」

「てめぇにだけは言われたくねぇな」


 睨み合う両者は既に相手がどの組織の人間かなんて関係なかった。この場で生き残るためには相手を倒すしかない。そのことだけがわかっていれば十分だ。


 そして二人の戦いの第二幕が開けようとしたその瞬間、ジャックの纏う空気が一変する。

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