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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
9章 革命軍編
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革命軍14

 夜も深くなった鉱山にある建物の一室でセイヤは目を覚ました。深夜ということもあって部屋の中には多くの人が寝息を立てており、物音一つしないほど静寂に包まれている。


 ダクリア二区との戦いで負傷した者たちを除き、無傷だった冒険者たちは複数人で一部屋を使いながら生活していた。共同生活になれている革命軍の冒険者にとってみれば部屋に何人いようとも熟睡することができるのだが、革命軍に入って日の浅いセイヤは寝付けない夜もあった。


 けれどもこの時ばかりは違っていた。セイヤは突然の胸騒ぎを感じ取って目を覚ます。それはまるでこれから災厄が訪れるのではないかという余地にも似た不安であったが、セイヤはこのまま寝付くことができなかった。


 何かが近づいてくる。そんな胸騒ぎに襲われたセイヤは体を起こすと周囲を見渡す。するといつもはそこにあるはずの人影が一つだけなかった。


 その人影はセイヤと同じタイミングで革命軍に参加した年齢はセイヤと同じくらいの冒険者だが、その実力はかなりのものと思われる存在であるジャック。革命軍に参加してからずっと一緒だったジャックの姿がないことに気づいたセイヤは立ち上がるともう一度周囲を見渡す。


 しかし何回見渡してもジャックの姿はない。それどころかいつもジャックが帯刀している剣の一本も一緒に姿を消している。普段ジャックが使っている普通の剣は残されているが、抜刀しているところを一度も見たことがないものの大切そうに扱われているもう一方の剣はない。


 そのことからジャックが自ら姿を消していることを理解したセイヤ。


 妙な胸騒ぎが高まるセイヤは周囲の冒険者たちを起こさないように慎重に動きながら立てかけてあった普通の剣を一本手に取ると部屋の外に出る。


 深夜ということで誰もいない廊下を通り抜けるとセイヤは建物の外へ出たが、この時すでにセイヤは最悪の事態を予見していた。


 思えばジャックに不自然な点が多々ある。まだ若いというのに革命軍の中でも優れた実力を持っているジャックだが、彼を語るうえで避けられないのは彼の纏う殺気だ。


 その殺気は同年代の冒険者ではまず身に着けることができないほど深くて冷たい殺気だというのに、ジャックはその殺気を自在に操る。しかしジャックの殺気の最大の特徴はそれほど濃密な殺気を感じさせないほどの動きができる点である。


 殺気は相手を威圧することに優れた技であるが、同時に相手に警戒心を抱かせてしまう。だがジャックの殺気は直前まで相手に悟られることがない、まるで暗殺者にも似た殺気である。


 その殺気を十代の少年が身に着けているのは異常なことだ。それこそ生まれつきの才能か、幼少期から暗殺を専門に請け負ってこなければまず身に着けることが不可能な技量である。加えてそんな殺気を持っているにもかかわらず、名前が全く知られていないこと。


 このことからセイヤはジャックがどこかの組織のスパイではないのかと疑いを持っていた。そしてセイヤがそれを確信したのが先のダクリア二区での戦いだ。


 あの戦いでジャックは無傷で戻ってきた。これ自体はジャックの実力を考えれば不思議なことではない。相手がレイリアの最強部隊とも呼ばれるシルフォーノ隊であったとしてもジャックの実力なら無傷で戻ってくることは十分ありうる。


 だがここで問題になるのはジャックが戻ってきた戦線の生存者がジャック一人だということである。先の戦いにおいて革命軍が失った戦力を考えれば戦線一つが全滅したということは理解できなくもないが、仮に敵側の戦力が秀でていたとしたならばジャック一人が無傷で帰ってこれるわけがない。


 数で圧倒していた革命軍を全滅させられるほどの魔法師が相手ならば、いくらジャックといえども傷の一つや二つを負っても不思議ではない。けれどもジャックは傷一つ負わなかった。


 ならば相手の実力がそれほどでもなかったということになるが、そうなれば今度はジャック以外の生存者がいないことがおかしい。いくら相手が強力だと言っても、ジャックが無傷で帰ってこれるなら他にも生存者がいたって不思議ではない。


 つまりここから導き出される答えは一つである。革命軍の中でも特に犠牲者の多かった戦域で革命軍の冒険者たちを葬り去った張本人はシルフォーノ隊の魔法師ではなく、無傷で戻ってきたジャックであるということ。


 これならば一連の奇妙な点に説明がいく。またジャックの戦域にいたシルフォーノ隊の魔法師はジャックの手によって葬られたと考えた方が妥当である。


 つまりジャックは先の戦いで多くの革命軍を手にかけたにもかかわらず、今なお革命軍に従軍しているということだ。その意図はセイヤには測りかねるが、少なくとも彼が武器を手に姿を消した現状は楽観視できることではない。


 別にセイヤにとって革命軍の冒険者たちがどうなろうととも知ったことではないが、ジャックという危険分子を野放しにするわけにはいかない。仮にジャックが第三勢力の冒険者ならば、いずれ魔王たちに牙をむくかもしれない。


 そうなる前にジャックがどこの人間なのかを突き止めるのは必須事項だろう。


 セイヤはそんなことを考えながら建物の周辺を捜索すると、小高い丘の向こうから声がするのを聞く。その声はジャックの声であると察したセイヤは腰に帯刀した剣を左手で押さえながら小高い丘の向こうへと歩みを進めていく。


 そしてちょうどジャックの姿を視界にとらえようとした瞬間、誰かと話していたジャックがセイヤの方を振り向いた。正確にはジャックが振り向いたのは革命軍のいる建物の方であったが、気配を消していなかったセイヤがジャックの視界に入る。


 ジャックはセイヤのことを視界にとらえると魔剣クリムゾンブルーに手をかけた。その姿を見たセイヤは殺気を隠しながらジャックの方へと近づいていくのだった。

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