革命軍12
セイヤたちが工業都市で事件に巻き込まれているのと時を同じくして、革命軍は反魔王を掲げる冒険者組合に使者を送っていた。元々セイヤたちを工業都市に送り込んだのは工業都市と革命軍の同盟を成立させるためであり、冒険者組合とも同盟を結成したい革命軍はこちらにも人員を割いていた。
冒険者組合に派遣された革命軍の冒険者はフローリスト。先の戦いで右腕を失ったフローリストは魔法で木々を腕にすることで失った右腕の代用をしていた。
フローリストはダクリア三区にある冒険者組合の支部を訪れてそこの支部長と面会していた。
「それで今日はどういうご用件で?」
「まずは突然の訪問に応じていただき感謝申し上げます」
「そういうのはいい。こちらとしては渦中の革命軍と接触している事実が露見するのは避けたいんだ。ここは非礼等を考慮せずに迅速な話し合いを要求したい」
現在の革命軍は魔王軍からだけでなく、ダクリアの国民からも反感を買っている存在だ。そんな革命軍と冒険者組合の繋がりが知られてしまえば世間の批判は冒険者組合にも向いてしまうだろう。
本当ならば門前払いしなければならないのだが、この支部長は上からの命令で渋々フローリストの訪問に応じていた。
フローリストも冒険者組合側の主張を理解してか形式ばった挨拶を止める。
「では単刀直入に用件をお伝えしたいと思います」
「そうしてくれ」
「我々革命軍は冒険者組合に同盟を申し出たいと思います」
「それはまた大それた話だ」
失笑する支部長に対してフローリストは本気だった。
「先の戦いで革命軍は甚大な被害を受けました。そればかりか同胞は魔王たちに捕まり、公開処刑という生き恥をさらされようとしています。このようなことは看過できません」
「だから私たちにも加担しろと?」
「いえ。我々は同時進行で工業都市とも同盟締結に向けて尽力しています」
「工業都市だと? あのような無力な人間たちを仲間にして革命軍はどうするというのだ。まさか数だけの歩兵にするとでも?」
支部長の冗談じみた言葉に対してフローリストは真っ直ぐとした眼差しを返す。それが何を意味しているのか分からない支部長でもなかった。
「正気か。工業都市の自分たちを使い捨ての駒にするような集団に協力するとは思えない」
「彼らとて魔王に少なからず反感を持つ種族。ならば協力しない道理はないはずです」
「ふん。革命軍は何か勘違いしているようだ」
支部長が少しだけ苛立ちを見せる。
「革命軍のやっていることはただのテロ行為だ。魔王が気に食わないから反旗を翻してみたものの、歯が立たずに壊滅させられた。それで人手がなくなったから他勢力を都合よく解釈して新たな手駒にしようとする」
何も言い返さないフローリストに対して支部長は問う。
「そもそも革命軍はどうしてダクリア二区に進軍した?」
「それは魔王を滅ぼすためです」
「ならばダクリア帝国に攻め入ればよいはずだ。なのにどうしてダクリア二区に? 新しいマモンの統治が杜撰だからか?」
フローリストは真っ直ぐと支部長の眼を見つめる。
「呆れたな。フォーノ=マモンの統治が杜撰なのは意図的にだ。新しいルシファーの誕生によってダクリアは生まれ変わろうとするが、その機会を狙って動きを見せる勢力がある。ならばその勢力をおびき出すために敢えて都合の良い条件を作り出す。つまり革命軍は魔王たちの手のひらの上で踊らされていたというわけだ。その証拠にダクリア二区に攻め入った革命軍は壊滅状態に陥った。違うか?」
支部長は責めるようにフローリストを睨むが、フローリストは反論しない。いや、反論できなかったという方が適切かもしれない。
支部長の言っていることは的を得ているから。代わりにフローリストは革命軍が思い描く理想を語る。
「ですが革命軍が工業都市と冒険者組合と手を組み、捕まっている同胞たちを好き出せれば戦局を打破できます。そうすればあなた方が忌み嫌う魔王の統治は終焉を迎えるでしょう」
「工業都市が協力するという確証は?」
「同胞たちが尽力しています」
「それだけでは交渉にならん。それに仮に三者の同盟が成立したところで主導権は我々冒険者組合にあることを理解しているのか?」
元々の戦力差を考えても冒険者組合が頭一つ抜き出てる勢力図。さらに今の革命軍は戦力の大半を失っている状態だ。仮に同盟が成立したとしても主導権は冒険者組合が握るのが筋というものだろう。
しかしフローリストの口ぶりはまるで革命軍が主導権を握るというものであった。
「まずは自分たちに魅力がないということを自覚したらどうだ」
「お言葉ですが冒険者組合の実力では魔王制度を打倒するのは難しいです。ならばこの機に我々革命軍と協力した方が得策だと思います」
「どうやら面と向かって言わなければわからないようだ」
支部長がフローリストを睨みつける。
「冒険者組合として革命軍と協力することはない。これ以上この場に居座るというなら冒険者組合は革命軍に対して宣戦布告をする。それが嫌なら黙って帰れ」
この言葉を最後に両者の話し合いは幕を閉じ、フローリストは支部長の前から姿を消した。こうして革命軍は工業都市に続いて冒険者組合との交渉にも失敗したのだった。
フローリストが支部を後にするのを部屋の窓から確認した支部長は誰もいない壁に向かって話しかける。
「これでよろしかったですか?」
「うん、問題ないよ」
支部長以外に誰もいないはずの部屋だというのに返ってきた声は少女の物だった。
「ですが暗部は何を考えているのですか? まさか革命軍をどうにかしようとしてる訳ではないでしょう?」
「うーん、どう思う?」
「私ごときの考えを述べても?」
「いいんじゃない」
その言葉に支部長は少しだけ戸惑いを見せた。
「革命軍を相手にして思った率直な感想は取るに足らない相手だということでしょう。元々荒くれ者集団ともいえる彼らが革命軍として活動できていたのは魔王や我々が気にかけていなかったから。しかし彼らはそれを誤解し、あたかも自分たちが魔王や組合に匹敵する存在と思い込んでしまった。それが今回魔王に喧嘩を売って身の程を知ったはずだというのに、それだけでは飽き足らずに私たちに擦り寄ってきた。正直不快でした」
支部長の言葉に反応を示さない少女。代わりに壁の中から木が生えるように仮面をつけた金髪の少女が姿を現す。
「僕も同感だよ。あいつらはこの国に不要な存在だ」
少女の吐いた言葉はとても冷たく、そしてとても恐ろしいものであった。




