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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
9章 革命軍編
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革命軍11

 身代金の準備ができた工業都市の人々は犯人たちの人数に合わせて用意した金銭を三つのカバンに入れていた。金額が相当なものになったため用意されたカバンも身の丈の半分ほどあり、重量も相当のものだということがわかる。


 そのためカバンの下部には四つの車輪がついており、スーツケースのような形をしている。スーツケースといっても現代で使われる軽量感を感じられるものではなく、重厚な作りに対応してカバン自体の重量もかなりある。また手持ちの部分はカバン自体の重さに耐えられるように金属に加えて石材も使われており、見ただけで相当な重量だとわかる。


 工業都市の人間たちは店外にそれら三つのカバンを運び込むと交渉役の一人が声を張り上げる。


「金は持ってきた。だから人質を解放しろ!」


 店外には野次馬を含め多く人が集まっているが、彼らの前には武器を構える人たちがいて野次馬たちがそれ以上店に近づかないように制していた。


 店内にいた男たちの独りが窓を開けて問いかける。


「そのかばんの中身が金だという証拠は?」

「ここで一つ開ける。どれを開けるかはお前たちが指定しろ」


 小細工をしていないからどれを開けても問題ないと言いたげな工業都市の人間をみて強盗たちは中身が本物の金なのだと確信する。


「いや、開ける必要はない」

「じゃあ早く人質を解放しろ!」

「いいだろう。ただし変な真似をすればすぐに魔法を使う。いいな?」


 強盗の男の言葉に交渉役の男が息をのむ。非魔法師にとって魔法師は脅威以外の何物でもなく、狩りに牙を向けられれば抗うことができない。


 だから魔法師である強盗たちも工業都市の人間を狙った。


「わかった。ただ条件がある」

「なんだ?」

「身代金の引き渡しと人質の解放を同時にやりたい」

「なぜだ?」


 交渉役の男の提案に強盗の男が疑いの目を向ける。何かを企んでいなければそのような要求はしないから。


「人質の数に対して用意できた金額は十分だ。だがカバンが三つである以上、一人と一つといった交換は不可能。ならば同時に交換した方が得策だろう」

「だがお前らが変な行動をしないという保証はどこにある」


 強盗の男は工業都市の人間が何もしないと確信できているわけではない。ましてや店外には武器を持った人たちが警戒しており、人質を全員解放すれば襲い掛かってくるかもしれない。


 けれども仮にそうなった場合でも強盗の男たちに軍配が上がるのは明白であるが。


 工業都市の人間からしてみればここで不要な心理戦をするつもりはない。だから少しでも人質が安全に開放できるように情報する。


「わかった。ならば人質の三人を残して残りと身代金の同時交換でどうだ。これなら人質を取っているお前たちが優位にあることは裏付けられている」

「それで?」

「交換が完了次第、ここに道を作ってお前たちを町の外まで誘導する。そして町の外に出たところで残りの三人の人質を解放しろ。これで問題はないはずだ」


 強盗の男は少し考えるとすぐに答えを出す。


「いいだろう。今から人質全員を連れて外に出る」


 男はそう言うと人質たちを連れて店外に出る。強盗の男に続くように人質が連れ出され、人質の背後に残りの二人の強盗が続く。


 変な行動をすれば背中から魔法を撃ちこまれると言われなくともわかる人質たちは素直に強盗たちに従う。そして男たちは店外に出ると町長と他二人を選び、残りを自分たちの前に出した。


 彼らはこれから解放される人質であり、その中には魔法師であるセイヤとジャックの姿もあった。最初から彼らが行動を起こせば事は簡単に解決したのだろうが、工業都市の問題は工業都市で解決すべきだと考えるセイヤは敢えて手を出さない。


「今からこのカバンを中間地点に置く。それでいいか?」

「待った」

「なんだ?」

「まずは二つだ」

「どういう意味だ?」


 直前になって条件の変更を命令する強盗の男は何かを感じ取ったのか、三つのカバンの同時に交換を拒む。


「まずは二つをこっちにもってこい。人質は半分解放する。そして最後の一つで当初の三人を除く残りの解放だ。これ以外受け付けない」

「わかった……」


 交渉役の男は一瞬だけ厳しい表情を浮かべたが、すぐに要求を受け入れると周りにいた町の人に指示して二つのカバンを運ばせる。そして両者の中心地点にカバンを置くと町の人間はカバンから離れる。


「これでいいだろ」

「問題ない。おい、取ってこい」

「わかった」

「はいよ」


 強盗の男が他の二人に命令してカバンを取りに行かせる。その際に人質の半分を伴ってカバンまで歩き出す強盗たちは、カバンを前にすると連れてきた人質のことを解放した。ちなみにこの中にセイヤの姿ないが、ジャックの姿はある。


 解放された人質たちはすぐにカバンから離れて町の人に保護される。それと同時に二人の強盗たちがそれぞれカバンの取っ手に手をかけて握りしめる。


 その瞬間だった。


「いまだ!」

「「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」


 交渉役の男の声を合図に人混みの中から刺又を構えた男たちが一斉に二人の強盗に向かって走り出す。これは工業都市の人間の明確な反乱行為であり、強盗の男たちはとっさに魔法で応戦しようとした。


 しかし彼らの魔法は不発に終わった。


「なに!?」

「なんでだ!?」


 詠唱をしても展開されない魔法陣に驚愕の表情を浮かべる男たちであったが、彼らの右手には工業都市の人間が用意した身代金のカバンがしっかりと握られている。そしてその取っ手は金属と石材で作られていた。


 仮にカバン自体の重量に耐えられるだけの取っ手を作るなら金属だけで事足りる。しかし彼らはわざわざ金属のとってに石材を合わせてカバンを作成している。


 それはなぜか。答えは非魔法師ならばすぐに気づくだろうし、魔法師の大半が知っていることだ。元来それは魔法師が魔法師を抑え込むのに使われるものであるが、非魔法師が魔法師に対して決定的な一打にもなりうる奇跡の力と形容されることもある。


 それを使えば魔法師であっても非魔法師と同じ土俵に立たなければならない。魔法師の天敵とも呼べる魔封石がカバンの取っ手には使用されていた。そして工業都市の人間が手に握る刺又の先端部分にも魔封石が使用されており、強盗たちを取り押さえる。


「くそっ!」

「ちくしょうがぁ!」


 強盗たちはとっさにカバンの取っ手が魔封石だと理解し、すぐに手を放して応戦すれば容易に対処できたに違いない。しかし彼らは目の前の大金に目がくらんだだけでなく、そもそも魔法師として経験が乏しいからなぜ魔法が発動しなかったのかさえ理解していなかった。


 工業都市の人間によって身柄を取り押さえられる二人の強盗であったが、まだ強盗の一人は捕まえられていない。さらに言えば最後の一人はまだ魔封石での無力化さえ済んでおらず、彼の背後にはまだ半分の人質がいた。


「こざかしい真似を!」


 男が声を荒げながら詠唱を始めたのと同時に人質の中の一人が手に持っていた手錠を男の向けて突き出したのはほぼ同時だった。その手錠が魔封石でできていることは語るまでもないが、なぜそのようなものが人質の手にあるのかは説明が必要だろう。


 工業都市では常に魔法師の来襲を警戒して各店舗に対魔法師用の道具を用意しているのだ。そしてこの店ではたまたま魔封石の手錠が用意されており、人質たちは隙を見て魔封石の手錠を隠し持っていた。それをこのタイミングで使用しようと試みるが、最後の一人は他の強盗たちとは少しだけ違っていたようだ。


「あまい!」


 強盗の男が突き出された手錠を寸前のところで回避し、手錠を持つ人質に向かって魔法を行使しようとした。手錠を持つ人質も自分の一手が回避されたと悟った刹那であった。


 突然強盗の男が展開していた魔法陣が跡形もなく消える。それはまるで強盗の男の魔法が何者かによって消滅させられたかのような光景であったが、何が起きたのかを説明する時間が惜しかった。


 町長が叫ぶ。


「手錠が掠ったんだ。早く取り押さえろ!」


 確かに魔封石が魔法師に少しでも触れれば魔法師の魔法は一瞬にして消える。しかし強盗の男は魔封石の手錠を確実に避けたはずで、手錠を持つ人質も避けられたと確信していた。だからよりいっそう事態の飲み込みに時間がかかった。


 ただ町長の言葉に反応した他の人質たちが強盗に向かって飛び掛かって身柄を取り押さえ、その腕に魔封石の手錠をはめる。


 こうして工業都市の人間は魔法師たちの強盗を無力化することに成功した。その事実に集まった人々は歓喜の声を上げるが、その中にセイヤやジャックの姿はない。彼らはどさくさに紛れて姿を消したのであった。

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