革命軍6
鉱山の中にひっそりと佇む小屋は元々鉱山で働く労働者たちの拠点となっている。魔法を使えない非魔法師たちによって形成される工業都市の近くにあるこの鉱山は、工業都市の人々にとっても重要な資源である。
そのため設備自体は高水準であり、小屋といいながらも多くの人を収容できる施設が隣接している。負傷者を多く抱える革命軍にとって好都合なその施設はすぐに使用されており、今も医療班たちが負傷者の救護に当たっている最中だ。
そして革命軍副司令官をはじめとした動ける者たちは小屋の一室を使って今後の方針について議論していた。もちろんそこには工業都市から情報や物資を持ち帰ってきたセイヤとジャックの姿もある。
「まさかこのタイミングで公開処刑を発表するとは……」
「連中からしてみれば革命軍を名実ともに潰すにもってこいのタイミングだからな」
「くそ、なめやがって」
捕まっている革命軍の公開処刑について知った革命軍の面々の表情は厳しい。
「だが逆に言えば同志はまだ生きている」
「まさか助けに行くとでも!?」
「なら見捨てるというのか?」
「現実を見ろ! 今の俺たちじゃどうにもならない!」
「そうだ。圧倒的に戦力が足りてない!」
「なら同志が殺されるのを指をくわえてみてろというのか!」
各々の意見がぶつかり合う中で革命軍副司令官は黙り込んでいる。また新米革命軍のセイヤとジャックも口を挟もうとはしない。
議論しあう彼らは皆が仲間を助けたいと思っているが、現実的でないと主張する一派と、それでも動くべきだと主張する一派に分かれていた。
議論が白熱する中で副司令官がついに口を開く。
「全員落ち着け」
「副司令……」
「副司令官はどう考えているんですか?」
皆の注目が副司令官に集まると、副司令官は椅子から立ち上がって窓の外に広がる鉱山を見つめながら口を開く。
「仲間を助けたいと思っているのは総意に違いない。しかし私の使命は革命軍を存続させることであり、無鉄砲に突っ込むことを許可はできない」
「なら同志たちを見捨てるというのですか?」
「何もそうは言っていない。ただ現実的に考えれば今の戦力では物足りないと言っているんだ」
含みを持たせる言い方に一同が困惑した表情を浮かべる。しかし副司令官の心は決まっているようで、彼は振り向くとセイヤたちに問うた。
「ミズチ君、ジェイ君。君たちは革命軍に加入して日が浅いが、実戦での経験は類まれなものと聞いている。そこで君たちに問いたい。どうすればいいと思う?」
それは一種の試練のようなものだろう。ここで打開策を見いだせるか否かでセイヤたちの素質が問われているのだ。
「俺たちに答えを決めろと?」
「そこまでは求めていない。ただ君たちは工業都市に行って直に触れてきたはずだ」
「何を?」
「彼らの根底にある感情だ」
副司令官が何を言っているのか理解できなかったセイヤだが、ジャックの方は感づいているようだ。
「気に食わねえな」
「ジェイ君は気づいたのかな?」
「ああ。無理だな」
ジャックは副司令官が言わんとすることを理解したうえで彼の考えを否定した。それはあまりにも無謀であり、楽観的過ぎるから。
しかし当の副司令官は自信があるようだ。
「副司令、いったい何を考えているんですか?」
「簡単な話だ。人が足りないなら補充すればいい。運がいいことにちょうどそこに魔王たちが嫌いな連中がいるだろう」
そういって副司令官が窓の外を指さす。窓の外に広がるのは鉱山の岩肌だが、その先には工業都市が広がっている。
つまり副司令官は工業都市の人間を戦力として動員しようと考えているのだ。確かに工業都市の人間は魔法師に対して排他的だが、何も魔法師が嫌いというわけではない。彼らは生まれつき魔法の才能を持たないがゆえに魔法師のいない世界を望んでいるが、魔法師を撲滅しようとは思っていない。
彼らが求めるのは魔法師と非魔法師が棲み分けられた世界。極論をいえば魔法師が不要な干渉をしてこない非魔法師たちだけの街があれば十分であり、世界から魔法師を廃絶しようとは思っていない。
けれども副司令官は工業都市の人間は魔法師を世界から廃絶したいと勘違いしていた。もっと言えば工業都市の人間は魔王たちを廃絶したいと考えていると思っている。魔法師という観点で言えば魔王軍も革命軍も大差ないのだが、副司令官はそうとは思っていないようだ。
「それにこの機を奴らが逃すはずはない」
「奴らですか?」
「ああ。革命軍が魔王軍に対して真っ向から牙をむいている状況を冒険者組合が座視しているはずがない。奴らも新しい大魔王の誕生で動きを見せるはずだ。ならこれを機に革命軍と冒険者組合の同盟を結び付ければ魔王軍など敵ではない」
「そんなことが可能なのですか……」
可能か不可能かで言えば不可能だろう。
冒険者組合は反魔王を掲げているが、魔王制度自体の必要性を認めている。反魔王派が掲げる理想は魔王から干渉されない冒険者生活であって、魔王がいない冒険者制度ではない。
しかしここでもまた副司令官は自分たちに有利になるように無意識のうちに冒険者組合の理想を解釈していた。冷静に考えれば不可能な事であっても、絶望に直面した時に人間は自分の考える理想に縋りたくなるものだ。
今の副司令官がまさにそうだった。そして同じく絶望に直面している革命軍の面々を目の前に現れた理想的な状況を無意識のうちに求め始める。
革命軍だけでなく、工業都市の人間に冒険者組合の冒険者たち。この面々が一つになれば魔王軍に拘束されている仲間を救出して一気に魔王制度を瓦解させることだって夢じゃない。
暗い表情を浮かべていた面々に光がよみがえる。
「確かにこの三勢力が集まれば魔王軍だって苦戦するだろう」
「馬鹿野郎。苦戦どころか一気に魔王制度を崩せるにきまってる」
「ああ。こんなドリームチーム見たことがないぜ」
「ダクリアの歴史が変わるぞ」
今ではたった百人程度の集団になってしまった革命軍であるが、まだ起死回生のチャンスは残っている。ならばそのチャンスを確実にするために動かなければならないだろう。
薄れていた使命感が革命軍の心の中で色濃くなっていく。
「方針が決まれば行動あるのみだ。まずは負傷者の手当てをしつつ、手が空いている者は同盟に向けて動き出せ。革命軍は歴史が変わる瞬間に立ち会う存在になるんだ」
副司令官の言葉に力強く頷く革命軍たち。しかし事態がどう転ぼうと彼らの理想とする状況など生まれるはずがなかった。
ストックとネタがつきました。




