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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
9章 革命軍編
402/428

革命5

今日も一日頑張るぞい

 名目上はダクリア二区に帰属しているが、実態は反魔法師を掲げている工業都市。つい最近までは治安維持のために少数の魔法師が常駐していたが、魔王ブロード=マモンの死をきっかけに魔法師に対して排他的になっている。


 それまで常駐していた魔法師たちが魔王ブロード=マモンと癒着していたことを発端に工業都市内で燻っていた魔法師に対する反感が爆発した形である。


 生まれつき不平等な形で人間に付与される魔法。たとえ魔法師になりたいと望んでも才能がなければ魔法師にはなれない。しかし魔法を諦めきれなかった者たちは冒険者になることで自らの願望を納得させるように叶える。


 そのため非魔法師の冒険者が抱くコンプレックスは解消することが難しく、コンプレックスを拗らせた冒険者たちが集まるのが工業都市のような魔法師に排他的な地区であった。いや、魔法師に対してコンプレックスを抱く冒険者が集まったからこそ排他的な都市ができたという方が正しいだろう。


「意外にばれないものだな」

「気に食わねぇがな」


 工業都市にある飲食店にいたのはセイヤとジャックの二人。ともに帰属する組織は違うが、今は二人とも同じ革命軍に所属している。といっても革命軍はすでに風前の灯火といわれており、組織として成り立っているのがやっとだが。


 彼らが工業都市にいる理由は主に二つ。


 一つは鉱山で待つ革命軍の冒険者たちに物資を送ること。鉱山といっても食物は何もなく、医薬品だって不足している。そこで先の戦いで無傷だった二人は革命軍副司令官の命を受けて工業都市に物資の調達に訪れていた。


 しかし彼らが調達を命じられたのは物資だけではない。同時に現状で国内に流布された革命軍の情報と魔王軍側が発表した内容の把握を命じられている。


 魔法師に対して反感を持つ工業都市なら正確な情報以上に厳しい現状が理解できる。それに魔王軍に対しても良い印象を持っていない工業都市ならば追っても容易には侵入できないため、一度街に紛れ込んでしまえば問題はなかった。


 ちなみに他の面々から見るとセイヤたち二人は他の地域から訪れた新米冒険者といった感じだ。


 すでに食料をはじめとした物資の調達を済ませている二人は情報収集がてら昼食をとっている。二人は束の間の休息を楽しみながら周囲に目を配らせている。だがそう簡単に有益な情報を得られるわけもなく、セイヤは雑談がてらジャックに尋ねる。


「ジェイ。お前はこれからどうなると思う?」

「これから?」

「ああ。組織はどうなるかって話だ」


 革命軍とは明言せず、敢えて組織と濁したのは一応周囲を警戒してのものだが、別にセイヤたちの会話に聞き耳を立てている者もいないので不要な配慮だった。


「潰されるだろうな」

「完全に?」

「一人残さず見殺しだ」


 確信めいて発言するジャックの心中には自分に課された依頼が反映されていた。今回のジャックの潜入目的は機会を見て革命軍を壊滅させることである。そして革命軍がジャックの手によって潰されることはすでに確定した未来である。


 だからジャックは断言する。


「ならジェイはどうして組織に残ってるんだ。別に逃げたって殺されはしないだろ」

「気まぐれだ」


 ジャックにしてみればすぐにでも革命軍を壊滅させて噂の墓荒らしの捜索に乗り出したかったが、暗部上層部から指令がないために動けない。


 そのためジャックはこうして壊滅寸前の革命軍を支える骨組みの一つのような真似をせざるを得ないのが現状だ。


「ミズチ、てめぇこそどうして逃げ出さない?」

「俺か。そうだな、もうちょっと行く末を見てみたいからかな」


 セイヤは自らに牙をむく存在である革命軍に少なからず興味を抱いていた。彼らがどうして脱魔王を掲げているのか。なぜ魔王をそんなにも敵対視するのか。革命軍とはいったい何なのかをその目で確かめたいと思っていた。


 しかしそれは容易なことではない。革命軍として行動するということは常に身を危険にさらし続けているのと同じ状態でだ。壊滅寸前の革命軍に在籍するということは周囲が地雷だらけの場所に立っていることと同義である。


 一歩でも誤ればすぐに命を失うような厳しい場所に立っている。現にセイヤたちと同じタイミングで革命軍に参加したエンジやデンシルは先の戦いで戦死したとされている。


 彼らが進むのはいばらの道だ。逃げ出したところで誰も文句は言わないだろうが、彼らは彼らなりの使命で革命軍に参加している。


 だからこそジャックはこの時点で意思決定をする。この先例え何があろうとも、目の前にいるミズチも革命軍たちと一緒に始末することを。


 彼の仕事は革命軍の壊滅であって、生き残りを出してはいけない。それに生き残りを出すことはジャックの美学に反する行為だ。心の奥底で湧き上がる殺気だが、セイヤに感じる取ることはできない。


 人に極限まで感知されない殺気こそがジャックの本質的な力だから。


 そんな時だった。二人の耳にようやくお目当ての言葉が飛び込んでくる。


「それにしても驚いたなー。まさか革命軍が壊滅させられるとは」

「相手はあの魔王軍だ。それに二区は新しいマモンが出てきて以前よりも頑強になったという。これは当然の結果だろう」


 セイヤたちの背後に座った男たちが世間話とばかりに革命軍の話を始める。セイヤたちはすぐに会話をやめて背後の男たちの会話に耳を傾ける。


「だが革命軍も善戦はしただろ。あの光景みたか?」

「ありゃひどいな。魔王軍のメンツが立たないってもんだ」

「だが逆に言えば革命軍の凶悪性を示すには十分って見方もできる」

「まさか魔王軍がわざと被害を大きくしたと?」


 男たちは思い思いに自らの推測を口にするが、セイヤたちにとってみれば貴重な情報である。


「さあ。けども今回の魔王軍は本気で革命軍を潰すつもりみたいだな」

「あの話か」

「公開処刑なんて今どき馬鹿げている」

「けどよ、それが一番効果的なんだろ?」


 生き残った革命軍をおびき出す餌としては。というニュアンスを含んだ一人の言葉に他の男たちは息をのむ。


 確かに公開処刑は古い手法だが、今回に限っては最善な選択である。処刑日を公開することで生き残った革命軍たちを再び二区におびき出すことも可能だが、同時に革命軍が現れなかった場合には革命軍は完全に崩壊したと印象付けることができる。


 ここから革命軍を巻き返すには公開処刑を阻止して仲間を奪還することが求められるが、両者の残存戦力差を考えると現実的ではない。開戦前の時点で分が悪かった革命軍はすでに多くの戦力を失っている。


 対して魔王軍は魔王たちをはじめとした十分な戦力が待機している。ここから革命軍が息を吹き返すにはそれこそ彗星ごとく強力な助っ人が加入しないと難しいだろう。


 つまり革命軍はすでに積んでいた。進めど地獄、止まれど地獄。残された選択肢は敗北を受け入れることのみ。


 こうしてセイヤたちは物資の調達と公開処刑の事実を手に鉱山へ戻るのであった。

ぞいって……笑

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