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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
9章 革命軍編
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革命軍4

おはようございます。早起きですね。

 ダクリア二区から少し離れたところに鉱山があった。山と言ってもキレル山脈のように壮大な山でもなければ名前も付いていないような鉱山。しかし近くにある工業都市の人々にとっては大切な収入源の一つに違いなかった。


 そんな鉱山を満身創痍になりながらも進むのは革命軍の生き残りたち。先日のダクリア二区で発生した大規模な戦いで壊滅状態になった陥った革命軍であったが、生き残った革命軍の冒険者たちは命からがら鉱山まで逃げ延びていた。


 魔王軍側の発表によって革命軍が壊滅状態になっていることは国中に知れ渡っている。同時に魔王軍側が公開したダクリア二区の悲惨な状況は国民の胸を痛めつけるとともに革命軍たちに対する反感を生みだした。


 それまで革命軍は魔王に反感を抱く冒険者たちという認識が大半でよく言えば無関心、悪く言えば放任している節が国民たちにはあった。しかし今回の一件で国民たちの印象は大きく変わり、革命軍は国に仇為す国賊という印象を強く認識した。


 これによって革命軍たちは全ての街からの出入りを拒否されることになり、戦いで満身創痍だった革命軍たちは行き場を無くすことになった。そして安息の地を求めて人の行き来が少ないこの鉱山に逃げてきたのだ。


「いいか! もう少しだ! あとちょっとの辛抱だ!」


 戦闘で声を張り上げるのは革命軍のナンバー2である副司令官の男。先日のダクリア二区襲撃のおける実質的な指揮官であり、撤退作戦を陣頭で指揮する冒険者である。


 冒険者としての実力は物足りないものの、その人脈やカリスマ性で革命軍副司令官の地位まで上り詰めたというのが革命軍の中での印象である。


 主に作戦立案を担当していた彼は戦場には出ていないため他の冒険者に比べても疲労は少ない。彼は先ほどから革命軍の仲間たちを鼓舞するように歩いているが、後に続く革命軍たちの表情はとても暗い。


 先の戦いで痛感した魔王軍側の圧倒的な戦力と慈悲など一切感じさせない徹底的な掃討作戦。脱魔王を胸に誓っていた彼らの意志はとっくの昔に折れており、今の彼らを動かしているのは生への執着のみだった。まだ死にたくないという思いだけで足を動かす彼らにとって副司令官の言葉は雑音でしかない。


 そもそも先の戦いで最前線から戻ってきた冒険者の中で無事と言える者は片手で数えられるほどしかいなかった。多くの者が深手を負っており、軽傷者は仲間を支えながら進んでいる。重篤な者たちは革命軍の列の中にはいない。


 既にほとんどの街から拒絶された革命軍を看てくれるような医療施設はなく、救護班の手でも助からない者はせめてもの慈悲として仲間が手に掛けた。その現実が革命軍たちの自我を破壊することもあり、中には自ら命を絶つ者まで現れたが、誰もその手を止めることはしなかった。


 もう彼ら革命軍はダクリアの人間として受け入れられることはないに等しく、閉ざされた未来に絶望して命を絶つ者を止める道理がなかったのだ。


 まさに絶望の中でただ安息を求めて歩く革命軍は終わったといってもよいだろう。


「大丈夫か、ジェイ?」

「問題ない」


 そんな革命軍の中で前線から無傷で戻ってきた数少ない冒険者の中にセイヤとジャックの姿があった。二人とも負傷した仲間に肩を貸しながら歩いているが、その表情は他の冒険者に比べて暗くはない。


 彼らは歩みを進める革命軍の中で後方を歩いているが、無傷で返ってきた彼らは有事の際に後方から攻めてくるかもしれない追手の対処を任されている。


 ここまで絶望に満ちた革命軍を魔王たちが潰しに来るとはとても思えなかったが、それでも念には念を入れてということだ。セイヤたちは後方を気にしながら歩みを進める。


 ちなみにセイヤが肩を貸しているのは同じ支部のフローリスト。シルフォーノ隊のプラーミアによって片腕を焼き落とされたフローリストは苦痛の表情をゆがめながらもセイヤに支えられながらなんとか歩けている状態だった。


 一方のジャックが支えているのは同じシルフォーノ隊のプラーミアによって片足を焼かれた冒険差だ。腕を焼かれたフローリストに比べて足を焼かれた冒険者の方が歩くのに苦労するので支えるジャックの方にも負担がかかる。


 だかたセイヤはジャックのことを気に掛けるが、ジャックは涼しい顔でその冒険者を支えている。慣れない山道を人を支えながら歩くのはとても重労働だが、セイヤたちは特に苦労した様子を見せずに行っていた。


 その光景を先頭から見ていた副司令官の男は興味深げな視線を送る。


 今回の戦いで負傷しなかった二人の新米冒険者たちを副司令官は高く評価していた。特にジャックに関しては死地とも呼ばれる場所から唯一の生還を果たしている。


 死地というのは先の戦いで革命軍の損傷が群を抜いて高かった場所だ。ジャックを除いて革命軍側の生存者はゼロであり、多くの同胞たちが魔王軍の手によって奪われた。


 実を言うと革命軍側に甚大な被害を及ぼしたのは紛れもないジャックである。魔王軍側の魔法師を倒したジャックはその手で周囲にいた革命軍の面々たちを次々と手に掛けていった。人の死を常に快楽として受け入れるジャックにとって戦場はまさに楽園であり、誰も彼を止めることができなかった。


 そして撤退の合図が鳴っても仲間を葬り去ったジャックは何気ない顔で革命軍たちとともに撤退をした。事情を知らない者たちからしてみればジャックが唯一の生存者と勘違いするのも仕方のないことだろう。ましてやジャックが残りの革命軍の面々を手にいかけたとは微塵も思えない。


 こうして革命軍の被害の一割ほどがジャックの手によって生まれたのだが、真実を知る者はいない。しかしそういうことなら革命軍の被害の八割を生みだした魔王軍の親玉がセイヤということになるが、もちろん誰もセイヤが大魔王ルシファーだとは思っていない。


 命からがら生き延びた革命軍の後方を守るのが大魔王だったなんて想像もできないだろう。なお残りの一割は自決したものである。


 こうして生き残ったわずかな革命軍は鉱山に建てられていた山小屋にたどり着くのであった。

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