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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
9章 革命軍編
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革命軍編3

 エンジたちの前に姿を現したのは革命軍につい最近入ったばかりの新入りデンシル。彼は採用試験でジャックに惜敗ものの、その実力を買われて革命軍への入隊を許された逸材の一人である。


 デンシルの腕にはエンジたちがはめられているような魔封石の手錠はなく、首輪をつけられているという訳でもない。彼は正真正銘の自由な身にあることが分かる。


「デンシル、無事だったか! 助けに来てくれたんだな! 早くこの牢屋を壊して手錠もどうにかしてくれ!」


 仲間の救助に喜びを見せるエンジであるが、支部長であるクルラの表情はエンジとは対照的に冴えないものだった。デンシルのことを知る他の面々はなぜ彼が自由な身にあるのかを理解できていないため困惑の表情を浮かべているが、エンジはデンシルのことを仲間だと信じて疑わない。


 助けを求められたデンシルはエンジに対して微笑み返すと口を開く。


「エンジ。君はどうも察しが悪いようだ」

「どういう意味だよ、デンシル? まさかお前もどこかに魔封石を仕込まれたか?」

「いいや。私に身体に魔封石はついていない」

「なら早く魔法でこの檻を壊してくれ! 魔法が使えなくても逃げるくらいならできるはずだ!」


 魔法が使えなくても足掻きを見せるべきだと考えるエンジは牢獄の破壊を頼むが、デンシルに動き出す気配はない。


 それ以前に彼の口調がエンジたちの知るデンシルとはかけ離れていることにエンジは気づくべきであった。


「スパイが紛れているとは思っていた。だが、まさかお前がスパイだったとはな」

「話が早くて助かります。支部長」

「スパイだと!?」


 支部長クルラの口から飛び出した言葉に驚きを隠せないのはエンジ。だが他の面々はスパイという言葉を聞いてすぐにデンシルが自由に動ける理由を理解した。


「そうです。私は最初からスパイとして革命軍に潜入していたのですよ」

「だましたのか、デンシル!」

「それは人聞きが悪いですね。私以外にもスパイはいたはずです」

「どういう意味だ! まさかミズチやジェイもスパイだって言いたいのか! そんな証拠どこにある?」

「相変わらず君のポジティブさには驚かされます。それとも逆に思慮の欠如というべきでしょうか」

「なんだと!」


 自分の言葉に怒りを見せるエンジを他所に、デンシルは俯いたままの支部長であるクルラのことを見る。


「支部長、あなた方の作戦には驚かされましたよ」

「どういう意味だ」

「無鉄砲に突っ込めという策にです。現場の人間としては理解しがたい部分が多かったですが、上からの命令とあれば末端の私たちは動くしかない。仕方なく作戦に従事していましたが、まさか裏であのような事が行われていたとは」


 デンシルの言葉に支部長クルラは表情を厳しくした。その変化を見た本当の作戦を知らされていなかった者たちは不安を生じさせる。


「何が言いたい」

「とぼけなくても結構です。あなた方の真の目的は既に魔王軍に知れ渡っています」

「デンシル! 一体なんなんだよ、真の目的って」


 素直に聞いてきたエンジに対してデンシルは支部長クルラを睨みながら答える。


「今回、革命軍が行ったダクリア二区への全軍進軍は陽動でしかありませんでした。彼らの本当の狙いは魔王軍の目と戦力をダクリア二区に集めることで、秘密裏に動いていた革命軍総司令官率いる別同部隊のダクリア七区襲撃を容易にすることでした」


 その言葉を聞いた脱魔王派の冒険者たちは言葉を失う。


「今回の作戦で事前にマークしていたAランク冒険者たちが確認できなかったことに違和感を覚えていました。あれほどの人数がいればすべてを確認できないのは当然ですが、Aランク冒険者を一人も確認できないのはあまりにも変です。ですが彼らがダクリア二区にいなかったと考えれば納得がいきます」


 デンシルの疑問は他の冒険者たちも抱いていたものだ。いくら革命軍が各地域に点在しているからといっても、革命軍内の実力者の名前は自然と覚える者だ。しかし彼らはその実力者たちに戦場で会うことがなく、そのことを疑問に思っていたものは少なくない。


 この説明で表情を厳しくしたのは支部長たち。


「なぜなら彼らは二区ではなく七区にいたのだから、戦場で会わないのも当然のこと。つまり私たちは総司令官たちが動きやすいように注目を集めて時間を稼ぐだけの言わば捨て駒でしかなかったということです。さすがに敵地に潜入していた私にとってもあなた方の命を軽視したこの作戦には怒りを覚えずにはいられませんよ、クルラ支部長」


 デンシルに対して何も言い返せないクルラ。他の部屋に拘束されている冒険者たちも自分たちの所属する支部の長に怒りや疑念の視線を送る。


「ボス! デンシルの話は本当なのか!」

「リーダー……」

「俺たちは捨て駒だったのか?」

「どういうことだよ、リーダー」


 口々に支部長たちに対して非難の声が上がるのをデンシルは黙って見ていた。中には支部長に直接手を上げる冒険者たちもいたが、彼らの気持ちを考えれば当然のことだろう。今まで信じて着いてきた者が自分たちを捨て駒のように斬り捨てようとしたのだから。


 だが支部長たちにとっても今回の作戦は苦渋の決断だった。上からの命令とは言え、これまで死線を潜り抜けてきた仲間たちを捨て駒のように扱うのは心苦しい。それにその捨て駒の中に彼ら自身も含まれていたのだから二重の意味で苦しい立場にあったに違いない。


 支部長たちは黙って部下たちのやり場のない怒りを受け止めることしかできなかった。


「デンシル。恥を承知で尋ねたい」

「なんですか、クルラ支部長」

「革命軍の作戦は成功したのか?」


 辛い立場にある支部長たちにとって唯一の心の支えとなるのが別同部隊の作戦の成功。彼らは悲願のために今回の作戦に従事しており、多くの犠牲を払ったのだから成果がなければ割に合わない。


 だがデンシルの口から語られたのは残酷な現実だった。


「ダクリア七区に襲撃予定だった総司令官をはじめとする革命軍の一団は全員が死亡しました。またこの一件で魔王軍側は何も犠牲を払っていません。端的に申すならば革命軍の作戦は失敗しました」

「なん……だと……」


 信じられないという表情を浮かべるのはクルラだけではない。他の支部長たちも作戦の成功を心の支えとしてやってきたのだから、受けるダメージは大きいはずだ。


 更にデンシルは彼らに追い打ちをかける。


「また支部長をはじめとした革命軍の幹部の方たちには魔王軍側の更なる基盤の礎となってもらいます」

「どういう意味だ……」

「そのままの意味です。あなた方の首を世間に晒すことで脱魔王派という存在そのものを破滅させるのです」


 デンシルは淡々と話を続ける。


「分かりやすく言うならば、革命軍幹部の公開処刑を執り行うということですよ」

「公開処刑だと……」

「ええ。あなた方の死にざまを見せしめに魔王軍は更なる基盤の安定化を築くとともに、ダクリア二区を火の海に変えた首謀者たちを断罪することで国民への示しと致します」


 それは革命軍にとって最悪の屈辱であった。人生最後の役目がこれまで敵対していた魔王軍の基盤をより安定させる材料となるのだから。


「ああ、それと仲間の助けは期待しない方がいいと思いますよ。逃げ延びた脱魔王派の冒険者は存在しますが、彼らの中には冒険者組合のスパイも紛れ込んでいるみたいなので近い内に蹂躙されるはずです。よって名実ともに脱魔王を掲げる革命軍は崩壊したと考えて問題ないでしょう」


 あまりにも残酷な結末が革命軍に訪れたのであった。

良い子は寝る時間です。おやすみなさい。

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