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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
9章 革命軍編
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革命軍編2

「ここから出せー!」


 エンジから発せられた大きな声が壁や天井に反響し、その施設内に響き渡る。けれどもエンジの主張に対して他の誰かからのアクションはない。


 ただエンジのことを冷ややかな目で見つめるのは彼と同じ革命軍に所属していた冒険者たち。


 エンジたちがいるのは端的に言えば牢獄である。無数に連なる牢獄は一部屋十人ほどを収容しており、彼らの腕には総じて魔封石の手錠がはめられている。しかもその魔封石は普通の魔封石ではなく、闇属性の魔法さえ抑え込むブロードの発明品だ。


 魔封石を使われては手も足も出ないと理解している面々は鉄格子の外に向かって叫び続けるエンジとは異なり、ただ黙って自分の運命に身をゆだねている。


 ちなみにエンジと同じ部屋に収容されているのは同じ支部に属しているハマスやエンジたちの支部長であるクルラだ。彼らは公式には行方不明者扱いになっている面々である。


 革命軍が魔王制度の瓦解を狙ってダクリア二区に襲撃をしたことはダクリア帝国からダクリア全土に発表があったため国民も周知している。そして魔王軍は革命軍の襲撃を返り討ちにしたと宣言し、革命軍側の犠牲者を発表した。また予想される生存者たちも同時に発表し、全国規模の指名手配犯として情報提供を求めている。


 この発表はすぐに国民たちの間に広がり、連日の話題となっている。また魔王軍は国民たちの支持が自分たちに向くように公開する情報には細心の注意を払っていた。


 その中の一つで行方不明者扱いになっている生存した脱魔王派の冒険者たちの扱いを魔王軍側は決めあぐねていたのだ。ここで魔王軍側が生き残った脱魔王派の冒険者たちの処遇を誤れば世論の目はたちまち厳しいものとなるだろう。


 そのため魔王軍側は消息不明という名目で生き残った脱魔王派の冒険者たちを秘密裏に拘束していたのだ。


 この扱いに対して革命軍側の幹部たちは自分たちが交渉材料になると考えていた。革命軍がダクリアに無策で全軍突撃を行っていたのは裏で動いている革命軍総司令官たちに対する警戒の目を緩くするためであり、時間稼ぎと陽動を兼ねていた。


 彼らはこれによって別働隊の作戦が上手くいったものと考えている。牢獄にいるため最新の情報を得ることは叶わないが、自分たちが生かされているということは別働隊の作戦が計画通りに進んでいると考えて間違いない。


 よって自分たちの身の安全は保障されていると誤認していた。


 逆にダクリア二区進軍の裏で展開されていた本当の計画を知らない冒険者たちは不安を覚えている。脱魔王派の冒険者になった時から覚悟を決めていた者たちも多いが、いざ死が近づいてくると本能には逆らえない。彼らの中で生きたいという願望が生まれてきているのは事実だ。


 しかし彼らが拘束されてから丸一日が経とうというのに誰一人として魔王軍側の人間は彼らの前に姿を現さない。


 一日三度の食事は提供されるが、その食事を運んでくるのは一部の牢獄の外で身動きが取れる脱魔王派の冒険者たちであり、彼らの話によると食事が置いてあるだけで自分たちはそれを運んでいるだけらしい。


 ちなみに外に出れる冒険者の首には魔封石でできた首輪がつけられており、少しでも変な真似を振れば首輪の裏に備え付けられた毒針が起動する仕組みになっているため下手な動きはできない。


 こうして魔王軍側との関わりの一切を絶たれている脱魔王派の冒険者たち。


「出せー!」


 その中で叫び続けるエンジ。その時一人の男がエンジのことを止める。


「もうやめろ」

「ボス?」


 ボスと呼ばれたのはエンジの所属する支部の長であるクルラ。クルラはエンジのことを睨みつけると静かに口を開く。


「もうみっともない真似を晒すのはやめろ。革命軍の人間ならどしっと構えるんだ」

「でもボス! このままじゃ!」


 革命軍の本当の作戦を知らされているクルラは自分たちがそう簡単には殺されないと理解しているため落ち着いていられるが、エンジたち末端の人間は不安で仕方がないのだ。


 といっても静かに自分の運命を受け入れようとしている者たちにとって無駄な足掻きを見せるエンジの姿は癇に障るのは間違いない。


 だからクルラは他の革命軍のことを考えてエンジを制止したのだ。


 しかしエンジからしてみれば半ば諦めている様子の仲間たちに納得がいかない。たとえみっともない姿を晒そうとも最後まで全力で抗うべきだと心の底から考えている。


「こんな時こそ皆で力を合わせて乗り越えるべきだ!」

「少し黙っていろ」

「どうして何もしようとしないんだよ! みんなの力を合わせれば乗り切れるに決まっている!」


 エンジの言葉を聞いた脱魔王派の冒険者たちは心の底からエンジに嫌悪感を覚えた。確かにエンジの主張には理解の余地を残しているが、この状況が彼らに希望を抱かせない。


 冒険者にとって不可欠な存在である魔法を封じられた今、彼らは無力な存在である。冒険者は魔法があるから冒険者と成り立っているのであり、魔法がなければ冒険者は只の人だ。


 本当は違うのだが、脱魔王派の冒険者たちはそう考えていた。


 一方のエンジは魔法が使えなくても気合でどうにかなると考えている。エンジの主張は魔法が使えなくても剣術が使えれば冒険者に変わりはないということだ。冒険者の本来の定義を考えるとエンジの主張が正しいのだろうが、脱魔王派の冒険者たちは魔法に頼りすぎた側面があるため、魔法が使えなくなった瞬間から牙を抜かれた猛獣状態だ。


 対してクルラたち幹部にしてみれば魔法を封じられようとも自分たちの価値を理解しているため、ここで無理に反抗するよりは黙って待つ方が得策だと思っている。


「エンジ、お前は仲間を信じていないのか」

「何を言っているんだ、ボス! 信じているから力を合わせて……」


 脱出しようと言ってるんだ、と言おうとしたエンジを睨みつけるクルラ。彼の眼力にエンジもつい言葉を止めてしまう。


「ならば外にいる仲間たちを信じろ。あいつらは今も必死に俺たちを救おうと尽力しているに決まっている。だったら俺たちは黙ってあいつらの合図を待とうじゃないか」

「ボス……」


 外で生き残った仲間たちが自分たちの救出に尽力しているかなんて知らない。ただこの場ではエンジを黙らせることができればクルラにとってはよかったのだ。


「相変わらず騒がしいね、君は」


 ようやくエンジが黙ったと思ったその時、鉄格子の向こう側から声がした。声の主を見たクルラはつい言葉を失う。


「お前は……」


 驚きが半分と納得が半分といった感じのクルラ。彼とは対照的に嬉しそうな表情を浮かべたのはエンジだ。


「デンシル! デンシルじゃないか!」


 鉄格子の外側に姿を現したのはエンジと同じく新人として革命軍に参加していたデンシルであった。

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