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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
【番外編】光と闇の邂逅
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光と闇の回航4

 広大な赤土が広がる暗黒領とは打って変わり、レアルたちがいるのは密林とも呼べるような土地だった。湿度や気温は高くない。むしろ肌寒いくらいであるが、太陽の光さえ満足に届かない木々が生い茂るその森は少しだけ薄気味悪かった。


 しかし逆に言えば身を隠すには最適な場所に間違いない。広大な赤土が広がる一帯では身を隠すことができなくとも、この森ならば身を隠すような場所は数多く存在する。それに周囲には魔物の気配が潜んでおり、操っている者を見つけるのは容易ではない。


 さらに隠れている魔物が命を奪おうと休む暇なく襲い掛かってくるのだから尚更動きにくい。


「くそ、これじゃあきりがない」

「でも魔獣の量が増えているってことは黒幕に近づいているってことじゃない?」


 次々と襲い掛かってくる魔獣たちに苛立ちを覚えるレアルであるが、ミコカブレラに言わせれば魔獣の動きが活発になってきていることは術者が焦っていることの裏返しである。


 事実レアルたちは魔獣を操る術者に近づいていた。


 そして魔獣を操る術者は一歩一歩着実に迫ってきているレアルたちを見て焦りを覚えていた。だからその術者はここである秘策を使ってしまう。本当ならば奥の手として残しておくべき秘策なのだが、焦りと不安から男はそれを解き放ってしまった。


「こいつは……」

「これは随分と驚いたね」


 二人は眼前に姿を現した一頭の魔獣を見て声を漏らす。そこにあった感情は恐怖というよりも驚きの方が大きい。


「まさかこんなところで孔雀に遭遇するとはな」

「レアル、気を付けた方がいい。こいつは今までの魔獣とは違う」

「わかっているさ、ミコ。こいつが敵の主力とみて間違いない」


 レアルたちの前に現れたのは孔雀に似た魔獣。尻尾や羽はとても鮮やかに彩られており、それを広げれば見る者を魅了する。


 けれども普通の孔雀と違うのは体の大きさだ。推定で三メルから四メルはあるであろう大きな身体を持つ孔雀の魔獣は紫色の羽を広げてレアルたちに威嚇行為をする。


クエエエエエエエ!!!


 孔雀の方向が森中に響き渡り草木を揺らす。しかし正面に立つレアルは一歩も引いてはいなかった。


 最初に動いたのは孔雀の魔獣ではなくレアルの方だ。先手必勝とばかりにレアルは騎乗していた馬を走らせると握ていた剣で孔雀の魔獣に切りかかる。しかし孔雀の魔獣は再び咆哮を轟かせてレアルを威嚇する。


 本当ならば孔雀の魔獣の咆哮程度ではレアルは怯むはずがない。しかし次の瞬間、レアルの動きがぴたりと止まった。厳密にはレアルの騎乗していた馬が歩みを止めたのだ。


「ちっ」


 馬が足を止めたことに舌打ちをしたレアルだが、こればかりは馬を責めることは酷というものだろう。魔法師の戦いに向けて調教されている馬たちだが、相手にしているのはこれまでとは明らかに異なる魔獣。加えてレアルの騎乗する馬はレアルと同じく新人であり経験も未熟だ。


 魔獣の圧に押されて動きを止めてしまうのも無理はない。むしろ逃げずに立ち止まったことをほめるべきだ。


「レアル、どうするんだい?」

「決まっている。俺一人で戦う」


 ミコカブレラの心配をよそにレアルは馬から降りると再び孔雀の魔獣に切りかかる。魔獣はレアルの剣を右羽で受け止めると至近距離でレアルに咆哮を轟かせた。


 実をいうと孔雀の魔獣の咆哮には魔力が込められており、その咆哮を受けたものは影響を受けるはずだった。けれどもレアルには無意識にあふれ出す魔力が築いた鎧があるため効果を発揮しなかったのだ。


 だからレアルにとってみれば孔雀の魔獣はただ騒いでいるだけである。


 レアルの魔力の鎧に咆哮が効かないことを理解した魔獣は翼をはためかせてレアルから距離を取ろうとする。同時に風圧の中に風属性の魔法を『風刃』に似た魔法を織り交ぜるが、やはりこれもレアルの無意識に展開する魔力の鎧を破ることはできない。


 ただレアルから距離をとることに成功した魔獣は翼を広げると魔力を錬成する。その光景は見るものを魅了するほど美しいが、広げた羽に魔力が集約していく様はとても危険だった。


 そして次の瞬間、孔雀の魔獣が広げた羽から多量の魔力が一気にレアルに向かって噴射される。


 威力はこれまでの攻撃とは比にならないほど強力な集約した魔力。レアルもこの攻撃に対しては対策を講じないわけにはいかなかった。


「我、光の加護を受けるもの。『光壁』」


 瞬間的に詠唱したのは光属性の魔法の中で基本中の基本である防御魔法。魔法自体は学生魔法師が使うような簡易の魔法だが、レアルの魔力は常人のそれをはるかに超えている。


 完璧な詠唱ではないにもかかわらずレアルの展開した『光壁』いとも容易く孔雀の魔獣の攻撃を封じ込めた。これには孔雀の魔獣を操っていた術者も驚きが隠せず、つい集中が乱れた。


「そこか」


 一瞬ではあったが魔獣とは異なる気配を察知したレアルはすぐにその気配の持ち主が魔獣を操る黒幕だと確信する。同時にこの程度のことで集中力が乱れるのが本当に特級魔法師なのかと疑問を抱く。


 だがその正体はその目で確かめればいいことであった。術者が逃げる素振りを見せるようならすぐに追いかけようとしたが、意外にも術者が動く気配はない。むしろ先ほどまでよりも孔雀の魔獣が狂暴になったような気がする。


 術者は逃げるのではなくレアルたちを倒すために孔雀の魔獣に意識を集中させる。これまでは多数の魔獣に意識を分散していたが、今は孔雀の魔獣一体だけに意識を集中させる。


 つまり術者の全力が孔雀の魔獣を介してレアルに襲い掛かろうとした。


クエエエエエエエエエ!!!!


 これまでで一番の咆哮が森中に木霊する。孔雀の魔獣の瞳は赤く充血し、鮮やかな羽たちは血の色に染まっていく。それに応じて魔獣の纏う空気もより一層狂暴なものへと変わる。


 しかしその轟音にも似た咆哮が魔獣の最後の言葉だった。


「ふん、俺の相手ではない」


 レアルが少し力を入れて振るった剣から黄色い魔力を帯びた斬撃が生み出されると、狂暴化した魔獣の首を斬りおとす。確かに魔獣の力は強大であり、魔法師にとっても恐れるべき存在だ。


 けれどもそれは一般的な魔法師においての話であり、十三使徒であるレアルにとってみれば雑魚でしかなかった。


 魔獣の首を落としたレアルが十メルほど先の木陰に隠れるその人物に警告する。


「隠れていないで出てこい。これは命令だ」


 出てこなければお前に向かって斬撃を飛ばす。そういった意味が含まれた言葉に恐怖した術者は抵抗することなくレアルの前に姿を現す。


 そしてレアルは初めて術者をその目に捉えた。

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