光と闇の邂逅1
二次作って面白そうですよね。
セイヤがパーティーから追放されて仲間を見返すのとか楽しそう。やってみようかな
それはまだ物語が始まる前の話。この世界には聖教会が統治するレイリア王国と大魔王ルシファーが統治するダクリア大帝国の二つの国が存在していた。けれども両国に国交はなく、レイリア王国ではダクリアの存在さえ公表されていない。
レイリアの人間でダクリアを知る者はごく一部と特権を持った人間たち。彼らは国の中枢に関わるために国外のことも知らなければならなかった。
そしてダクリアの存在を知る魔法師の中に一人の少年がいた。少年の名前はレアル=クリストファー。レイリア王国ウィンディスタン地方にある魔法の名門セナビア魔法学園に在籍していた優秀な魔法師であり、先のレイリア魔法大会で優秀な成績を収めた存在だ。
全国から選ばれぬかれた学生魔法師たちが集まる祭典レイリア魔法大会。その中で比類なき力を見せつけたレアルは世間から世代最強と呼称されている。
この活躍に対して国の統治機関である聖教会もすぐに動きだした。レアルを聖教会十三使徒の一人としてスカウトしたのだ。聖教会の申し出に対して快諾したレアルはその日からセナビア魔法学園を後にし、レアル=サーティーンとして聖教会十三使徒の一人になった。
学生魔法師が在学中から十三使徒に選ばれることは異例の事態のため国民はレアルに注目する。その注目に応えるかのようにレアルは輝かしい功績を治め、十三使徒になってから二か月で序列を十三位から十一位にまで持ち上げた。
こうしてレイリア魔法大会から二か月がたったこの日、レアルは正式に序列十一位であるレアル=イレブンを襲名した。
「君の功績を称えよう」
「ありがとうございます」
「そしてミコカブレラ。君の支えにも敬意を表そう」
「この身に余りあるお言葉ありがたく受け取らせていただきます。アルフレード卿」
聖教会の実質的トップである七賢人のなかで最年長のアルフレードがレアルとレアルの教育係であるミコカブレラに労いの言葉をかける。
アルフレードの言葉を受け取ったレアルたちは膝立ちで七賢人たちに頭を下げている状態だ。そんな彼らに今度はコンラッドが話し始める。
「お前らの実力は十分だ。だからそろそろ暗黒領の仕事を任せたい」
「暗黒領ですか?」
コンラッドに聞き返したのはレアルの教育係であるミコカブレラ。口には出さないまでも、その表情はまだ早いと訴えかけている。
レアルが十三使徒になったのは二か月前であり、ダクリアや闇属性について知らされたのもその時である。同時にミコカブレラがレアルの教育係に任命された時でもある。
十三使徒になったレアルを最初から世話しているミコカブレラにとってみればレアルを暗黒領に出すのは反対だった。彼の実力は確かに学生魔法師の中では最強かもしれないが、レイリア王国の中で見ればまだまだ発展途上である。
それにこの間まで学生魔法師だったレアルに暗黒領の仕事を任せるには荷が重すぎるだろう。しかしコンラッドは構わずに話を続けた。
「どうも最近になって東の方で魔獣の動きが活発になっている。しかもその動きは不自然なほど統制が取れているらしいのだ」
十分な知能を持つ魔獣なら群れで統制のとれた行動をとることは珍しくない。だがコンラッドの口ぶりからするにそういう意味ではないのだろう。
ミコカブレラが問い返す。
「不自然にというのは具体的には?」
「複数種類の魔獣たちが群れを成している」
「共生という可能性は?」
「ないな」
生物学的に考えて異なる種類の生物たちが共に行動することは珍しくはないだろう。だがコンラッドは確信めいた答えを持っているようだった。
「なにか有力な証拠を握っているのですね?」
「そうだ。そしてそこから推察されるのは魔獣を操る者がいるということだ」
「魔獣を操る者ですか。まるで《魔笛》のようですね」
冗談交じりでミコカブレラが口にしたのは特級魔法師の一人で《魔笛》の異名を持つモルスカ。彼女は特級魔法師の中でも最年長であり、協会では議長のような役割を果たしている。
彼女はその特異な音色で魔獣たちを操ることができ、特に魔獣たちが国内に現れた時に駆り出される人材だ。魔獣を操る者として国内の被害を抑えるために魔獣を誘導することができる彼女の稀有な能力はこの国にとっても重要なものである。
しかし逆に言えば、重要な能力が敵に回った時は恐ろしい事態を招くということである。コンラッドたちはそのことを危惧していたのだ。
「まさか特級魔法師が関わっていると!?」
思わず声を上げてしまったレアルは信じられないという表情を浮かべながら七賢人たちを見た。この国の仕組みを詳しく知らないレアルは特級魔法師と十三使徒の違いをあまり理解していないために驚いてしまうが、レアルを除く他の面々はその可能性を常に危惧していた。
レイリア王国内でも並外れた実力を持つ魔法師は出生や経歴に関わらず聖教会から特別な特権を得ることができる。それが十三使徒であり、特級魔法師だ。
この二つに違いがあるとすれば所属する組織だ。十三使徒は七賢人たちが仕切る聖教会に所属し、特級魔法師は独自機関である特級魔法師協会に所属する。聖教会の暴走を抑えるための抑止力として独立機関である特級魔法師協会が設立されていると一般的には考えられているが、その実情は異なっている。
七賢人たちは自分たちが意のままに操れる存在を十三使徒に指名し、残りの手が付けられない存在たちを特級魔法師という特権を与える形で忌避している。その証拠として聖教会は特級魔法師の各自に聖教会に所属する従者を付けて監視させ、仕事上以外の関りは皆無だ。
聖教会側の意図を理解している協会も聖教会とは一定の距離を保ち、これまで不要な接触は控えている。だから七賢人たちは特級魔法師たちのことを良くは思っていない。
「レアル=イレブン。お前には言っておくが、特級魔法師をあまり信用しない方がいい。奴らは裏で何をやっているかわからない荒くれ者たちだ」
「で、ですが特級魔法師は十三使徒と同等の力を持つレイリアの魔法師では?」
レアルにしてみれば十三使徒も特級魔法師も国のために働く優秀な魔法師という認識がある。この認識自体は間違ってはおらず、現に聖教会が公開している情報とも一致している。
だが実情はそう甘くないという訳だ。
「元来、特級魔法師は聖教会の意向に従わない強力な魔法師たちを押さえつけるための特別措置でしかない。確かに我らの依頼をこなしているが、いつこちらに牙を剥くかわからない存在なのじゃ」
「それに単衣に特級魔法師といっても、彼ら個々人の思想や立場は異なる。一人くらい反逆者がいたところで不思議ではない」
アルフレードとコンラッドの言葉に動揺を隠せないレアル。しかし七賢人たちからしてみれば、この場で特級魔法師に関する議論をする気はないのでミコカブレラに視線を送る。
七賢人たちの視線に気づいたミコカブレラは納得したように尋ねた。
「それで私たちの任務は正体不明の魔獣を操る者を補足し、場合によっては始末することでよろしいでしょうか?」
「構わない。捕縛など生ぬるいことは言わないが、その方法を知ることができればなおよい」
クソ狸め、とミコカブレラは心の中で吐き捨てるが、もちろん表情には出さない。
「承知しました。ですがこちらもリスクがあるため、有力な証拠の出どころだけでも教えていただけませんでしょうか?」
「断る」
ミコカブレラの要請を断ったコンラッドだが、すぐにアルフレードが手で制す。
「レアル=イレブンも初めての国外任務じゃ。不安に思うことはあるに違いない。今回は特別に情報源を明かしても問題なかろう?」
「アルフレード卿……」
しばし考えるそぶりを見せたコンラッドだが、他の七賢人たちもアルフレードの考えに賛同しているようなのでコンラッドは仕方なく教える。
「情報の出自はダクリアに潜入中の十三使徒序列二位シルフォーノ=セカンドだ」
「なるほど。確かにその情報は有力に間違いない」
この時ミコカブレラは少なからず驚いた。聖教会の序列二位がダクリアに潜入しているという事実に。けれどもミコカブレラは驚きを表に出すことはしない。
「では明朝、序列十一位のレアル=イレブンは暗黒領に出立します」
「任せた」
こうしてレアルの初めての国外任務が幕を開ける。




