番外編Ⅱ 第3話 聖教会から(下)
次の日、早朝からポール、ケインの二人はフレスタンへと向かい、ワルツ、モーラス、エリエラはセナビア魔法学園があるオルナの街へと向かった。
そしてバジルとグリスは教会に行き、情報を集めることにした。
新しい情報など期待せずに行った二人だったが、昼過ぎになると、犯人が目を覚ましたと言う連絡が入る。
バジルたちは急いでハリスと護衛数名で、犯人が入院しているというオルナの街にある病院へと向うことにした。
丸一日をかけてオルナの街にある病院に着いたバジルたちだったが、犯人への面会を二人だけにしてほしいと病院側に言われてしまう。
なので、バジルとハリスが面会することになった。二人が病室に入ると、四十歳前後に見える犯人のボスらしき男が、ベッドによりかかりながら座っていた。
「あんたら教会の人間か?」
「そうだとも」
「そんなところだ」
「俺にはあんたらに話すことは何もない。帰れ」
男は自分の目の前にいる男たちが、教会のトップと十三使徒だろうとは知らず、攻撃的な態度をとる。ハリスはそんな男に対してやれやれと言いたげな感じで言う。
「といっても君は捕まるじゃないか」
「ああそうだ。俺は教会の上のやつにしかしゃべらない」
「なんでだ?」
バジルが聞くと男はあっさりと答えた。
「お前ら下っ端に言っても、わからねーよ」
「君は上の人になら話すのかい?」
「あぁ、そうだ」
男はそういうと二人から視線を外す。それは下っ端には用がないという態度の表れであり、もう帰れと言っているのだ。
そんな男に対してハリスが面白そうに言う。
「それなら安心していい。私はウィンディスタンの教会のトップの一人、ハリス=ツベルクリンだ」
「私は聖教会所属十三使徒の一人、バジル=エイトだ」
「なっ……教会のトップと十三使徒だと!?」
男は二人の正体を知り、驚愕の表情を浮かべた。
男が立場の上の者を呼べと言ったのは、単純に時間稼ぎのためで、立場の上の者が来たところで本当のことを話すつもりはなかった。
だから男は右手に隠したあるものを起動させる。だがそんな唖然としている男に構わずバジルが言う。
「それと貴様が隠している魔法陣は無効化済みだ。無駄な抵抗はやめろ」
「なに? く、くそっ」
男は自分の隠している魔法陣が消えていたことに驚く。
微力ながら魔法が使える男は二人に怪我を負わせようとしたのだが、相手はこの国のトップに所属する魔法師たちだ。無理に決まっている。
「さて、話してもらおうかな。君の知っていることを」
「話せって言って話すとでも思っているのか?」
「往生際が悪いね。考えてみな、私は教会のトップだ。教会のトップの質問に答えれば罪が軽くなるかもよ?」
往生際の悪い男にハリスが誘惑をしてみるが、男も馬鹿ではない。
「そんな嘘に引っかかるとでも思っているのか?」
「ふむ、そうか。では手段を変えさせてもらおう。君が釈放された後、教会のトップに盾ついたと言ったら君は苦しくなるよね?」
手段を誘惑から脅しに変えるハリス。男はハリスから発せられる異様なオーラについ口が滑ってしまう。
「だったらほかのところに行くまでだ!」
「ほかのところって?」
「フレスタンだ。あそこのなら、あんたの権限は及ばないはずだ」
「なるほどね。でも君は忘れているよ」
「私は十三使徒のひとりだぞ」
例え他の地に行ったとしても、この国全土を管理している聖教会に所属する十三使徒では、簡単に権限が及ぶため意味がない。
「くそっ、教会のトップと十三使徒が脅してもいいのかよ」
「それは悪いことだね」
「だが問題解決のためには仕方ない」
二人はあっさり認めたうえで、直後にもっと恐ろしいことを言う。
「拷問っていう手段もあるしね」
「ええ。後始末は聖教会がしてくれますし」
「わ、わかった。言う、言うからやめてくれ」
男はハリスから発せられる異様なオーラと、十三使徒であるバジルの鋭い視線に観念した。
「やっと話す気になってくれたか」
「ああ、言う。言うから許してくれ」
怯えながら拷問だけはやめてくれと訴える男に対して、バジルが言う。
「いいから早く言え。と言っても雇い主はフレスタンにいるんだろ?」
「なんでそれを?」
「お前がさっき言っていたフレスタンに行くって言葉だ。大方雇い主を脅して金を貰おうとしたのだろ?」
バジルは先ほどの男の発言で、なぜフレスタンなどかを気にしていた。だが理由はすぐに見つかった。それはバジルの推理と合致している。
「あんたの言う通り、雇い主はフレスタンの魔法師だ。名前までは知らないが、フレスタンにいると聞いていた」
「目的は聞いているかね?」
「詳しくは聞いてないが、魔法師の大量生産って言っていたことは覚えている」
「大量生産?」
「ああ、やり方はわからないが本当だ。信じてくれ。俺らは少女を集めろと言われただけだよ」
この時、バジルの頭の中ですべてのピースが揃った。そしてバジルの中で怒りがみるみると湧き上がる。それは犯人たちの外道な犯行目的に対してだ。
「そうか、わかった」
「なにか分かったのかい?」
「はい。私はこれからフレスタンに向かいます」
「そうか、私はしばらくここにいるとしよう」
「わかりました。ではまた」
「気を付けるのだぞ」
「はい」
そう言い残して、バジルは病室から出て行く。病室の外にはグリスが待機しており、バジルの怒りに満ちた顔を見て、すぐに緊急事態だと察する。
「隊長……」
「グリス、ワルツたちに連絡しろ。合流してフレスタンに向かうぞ」
「了解」
バジルが犯人の目的を理解したと察したグリスだが、その内容は決して聞かない。
それは決して自分から聞いてはならないことで、バジルが自分から話すのを待つことが最善だと知っているから。
グリスはすぐにセナビア魔法学園に向かっているワルツに連絡を取る。
連絡の際に使うのは念話石という特別な石。この鉱石は魔力を流し込むと、特定の相手と念話ができるといった代物だ。
グリスは手に持つ念話石に魔力を流し込みワルツと連絡を取り始める。
ツ―――ンンンン
そんな音と共にワルツとの念話が始まる。
(ワルツか?)
(どうしたグリス?)
(いますぐオルナの街にある病院に来てくれ。俺と隊長がそこで待っている)
(なに!? オルナの街に来ているのか?)
二人がオルナの街に来ていることに驚くワルツだが、グリスに余裕はない。
(ああ、できるだけ早く頼む。隊長が犯人の目的がわかったらしく、とても怒っているから)
(それは本当か!?)
(ああ、本当だ)
(わかった。すぐに向かう)
そこで念話が終わり、その三十分後、病院前にはバジルと四人の小隊長たちが集まっていた。
バジルは四人の小隊長たちに告げる。
「犯人の目的がわかった。私たちはこのままフレスタンに向かう」
「「「「了解」」」」
バジルを先頭にフレスタンに向かう五人の人影。レイリア王国史上最大の誘拐事件も、いよいよ大詰めに向かっていた。




