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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
第8章 脱魔王派編
387/428

にく11

 重症者の治療を一段落させたセイヤは先に向かったフローリストを追いかけて最前線まで来ていた。そこでセイヤの目に飛び込んできたのは先ほどよりもさらに酷い怪我を負った脱魔王派の冒険者たちの姿。


 彼らに共通しているのは人体の一部を内部から焼かれているということ。これは紛れもない人体発火の魔法だが、セイヤも目にするのは初めての魔法だ。


 人体発火の魔法自体はレイリア王国でも珍しいというほどのものではない。しかしその魔法の性質上、倫理的な観念から学生魔法師が使用することは禁止されている。学生魔法師の中にも人体発火を使える魔法師はいることはいるが、彼らはまず表舞台で使用はしない。


 特にレイリア魔法大会のような大勢の人が集まる大会での使用は忌避されるほど人々から疎まれている魔法である。しかし魔法自体の強さは確かなため、習得する魔法師が一定数いるのが現状である。


 この魔法が使われている以上、魔王軍側も本気で脱魔王派の冒険者たちの相手をしているということだ。セイヤは初めて見る魔法に警戒しながら最前線を進むと叫び声を耳にする。


 その声の主はフローリスト。セイヤはすぐに声のした場所へ行くと、そこにいたのは右腕失い座り込むフローリストの姿。彼の前には鎧を着た魔法師が立っており、フローリストに向かって再び人体発火の魔法を行使しようとしていた。


 セイヤが闇属性を行使してフローリストの前に立つ男が行使した魔法を消滅させるのと、セイヤがその男の正体に気づいたのはほぼ同時だった。


「あいつは……」


 男の纏う鎧を見てセイヤはすぐに男がレイリアの魔法師であることを理解する。そして彼の身に着ける鎧に見覚えがあったセイヤが、プラーミアがシルフォーノ隊の魔法師だと理解するのにさほど時間を要すこともなかった。


 フローリストに行使された人体発火を消滅させたセイヤに対し、プラーミアもすぐに第三者の干渉を受けたことを察した。


「貴様は……」


 周囲を見渡したプラーミアはすぐにセイヤの姿を認識し、同時に驚いた表情を浮かべる。一方のセイヤは右腕を失ったフローリストに水属性の魔法を行使して痛みを鎮静化させる。この時点ですでにフローリストの意識は飛んでいた。


「まさか貴様のような存在にここで会えるとは思わなかった」

「それはこちらのセリフだ。なぜ聖教会の魔法師がここにいる」


 聖教会の魔法師の使命はダクリアを守ることではない。彼らの使命はレイリアの治安維持に当たることである。彼らの動きに疑問に思うのはレイリアの魔法師としては当然のことだが、セイヤはその背景に察しがついていた。


 ただ魔王フォーノ=マモンと十三使徒序列二位のシルフォーノ=セカンドが同一人物ということは公開されていない情報なのでセイヤは知らない振りをしたのだ。


 セイヤの問いに対してプラーミアも質問で返す。


「なら逆に問うが、特級魔法師である貴様がどうして革命軍の味方をしている? いや、この場合は革命軍に紛れ込んでいると言った方が正しいか?」


 聖教会の魔法師がレイリアの治安維持に当たる魔法師ならば、特級魔法師はレイリアのために動く魔法師である。


 この考えに当てはめればセイヤの行動も理解しがたい部分があるが、プラーミアはすぐに訂正をする。


「いや、貴様は闇属性を使えたな。その素性までは認知していないが、貴様がダクリアと少なからず関係を持っていても不思議ではない」


 セイヤの闇属性については先のレイリア魔法大会で衆目に晒されている。その戦いを見ていて、かつ闇属性のことを知っていればセイヤがダクリアと関係を持っていることは容易に想像ができた。


「聖教会最強部隊とも呼ばれるシルフォーノ隊に知ってもらえるとは光栄だな」

「ほう。俺らがシルフォーノ様に仕えている魔法師だと知っていたか」


 もしダクリア二区の魔王がシルフォーノと知らなければセイヤもプラーミアたちがシルフォーノ隊とまでは断言できなかった。聖教会の部隊が着用する統一的な鎧から彼らが聖教会の人間ということはわかっても、その所属までは把握できない。


 だがセイヤはダクリア二区の魔王がシルフォーノだと知っている。ならば目の前の男がシルフォーノ隊と断定するのは簡単だ。


「俺の名前はプラーミア。シルフォーノ隊の副長を務めさせてもらってる」

「なるほど。道理で革命軍が手も足も出ないという訳だ」

「まるで自分は違うと言っているようだが?」

「実力だけで言えば、ここにいる連中と俺は一味違う」


 相手が自分の素性を知っている以上、下手に実力を隠す必要はない。それに周囲には幸いなことに意識を失っている革命軍しかいないため、ミズチを演じる必要もない。


「確かに特級魔法師が相手となれば俺も気を引き締める必要があるだろう」

「聖教会最強部隊の副長ともなれば、その実力は十三使徒に匹敵すると聞く」

「さすがは特級魔法師。俺らの事情まで知っているか」

「多少はな。だが一つだけわからないことがある」


 セイヤの疑問は単純なものである。


「聖教会に所属するお前らがなぜ魔王フォーノ=マモンの味方をする?」

「単純なことだ。正義のため」

「正義? それは七賢人たちに対する背信行為だとしてもか?」


 現在の聖教会を仕切るのは七賢人であり、プラーミアたちの所属する聖教会の最高意思決定機関だ。セイヤも一度だけ対面したことがあるが、彼らはダクリアに対してあまり良い印象を持っていなかった。


 そんな彼らがダクリアの魔王たちに味方するとは考えにくい。


 つまり彼らの正義は七賢人たちのためではなく、隊長であるシルフォーノ=セカンドのためのものということだろう。


「俺らが仕えるのは七賢人たちではない」


 プラーミアの答えを聞いたセイヤは意外感を示した。普通ならばプラーミアの主張は意味不明に聞こえるだろうが、事情を知るセイヤにはプラーミアの真意が理解できた。


「まさかお前らはレイリア王国のために動いていると?」


 何も知らない人間が耳にすればセイヤの質問は見当外れに思えただろう。一般的にはレイリア王国のために動くということは、聖教会の七賢人たちのために動くのと同意だから。


 だが事情を理解した者が耳にすればセイヤの質問は百八十度ひっくり返った問いになる。


「その通りだ。俺らは真のレイリア王国を仕切る存在、レイリア王家のためにこの肉体をささげると誓った」

「そういうことか」


 どうやらプラーミアはモルガーナたちの存在を知っているらしい。しかしそこまで知っていて、セイヤのことは知らないようだ。


 情報の伝達にミスがあったのか、それとも敢えて教えられていないのかはわからないが、これ以上の議論は無駄だということは明らかだった。


 結局のところ、今のセイヤは革命軍に所属する冒険者であり、プラーミアは魔王軍側についた魔法師。両者が刃を交えるのは避けられなかった。

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