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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
第8章 脱魔王派編
386/428

にく10

 シルフォーノ隊を相手に善戦しているのは新人たちだけではなかった。脱魔王派の冒険者であるフローリストもまたシルフォーノ隊副長のプラーミア相手に引けを取らない活躍を見せている。


 プラーミアの人体発火で多くの脱魔王派の冒険者たちが重傷を負っていた戦線で、フローリストはセイヤに彼らの治療を任せて単身最前線に乗り込んでいた。


 最前線にいたのはプラーミア一人であったが、たった一人の魔法師を相手に脱魔王派の冒険者たちは歯が立たないのが現実である。しかしフローリストの登場によって戦況は大きく変わろうとしていた。


「発芽せよ、ブランチ」


 フローリストの詠唱でプラーミアの足元に展開されたのは黄緑色の魔方陣。これに対してプラーミアは後方に避けることで攻撃を回避できると踏んでいたが、フローリストの魔法は彼の予想を超えて攻撃ではなく拘束を目的としたものだった。


 あっという間にフローリストの大樹によって拘束されてしまうプラーミア。四肢を締め付ける枝には棘が生えており、拘束した対象から魔力を吸って花を咲かせる。


 しかしプラーミアを拘束する大樹には花が咲く気配どころか、蕾を作る気配もない。


「これは……」


 フローリストが何かを理解した直後、突然プラーミアを拘束していた大樹が燃え始める。内部から発生したその炎は瞬く間に大樹全体を飲み込み、拘束していたプラーミアの身を自由にさせてしまう。


「随分と面白い魔法だ。だが、単純な構造である以上、対処は容易である」

「まさか足止めにもならないとはね」

「最初から絞め殺すことに全力を注いでいれば結果も変わっていたに違いない。しかし魔力を吸収するというなら内部から燃やせばいいだけだ」


 プラーミアは大樹が自分の魔力を吸いつくそうとしていることにいち早く気づき、ならば吸われる魔力に炎を紛れ込ませれば大樹は簡単に燃えると考えた。


 そしてプラーミアの予想は的中し、フローリストの魔法はあっけなく姿を消すことになった。


「何重にも手の込んだ策は俺には向かない。俺を倒したければ単純に力で押し切ることをお勧めしよう」

「君は随分と敵に優しいんだね」

「別に優しくはない。直に敗北する相手に最後の慈悲を与えているだけだ」


 プラーミアの瞳には一切のおごりを感じさせない。つまりプラーミアは心の底から自身が敗北する姿を考えていないということになる。


 しかし彼の実力は本物であった。一瞬にしてフローリストの魔法の仕組みを理解し、正しい対処をして見せた実力は確かな自信に裏付けされていた。


 普通ならば相手の出方を見るところでも、プラーミアは自分の戦い方を貫き通す。彼にはそれがまかり通るほどの実力があるから。


「ならばこちらも腹を決めないといけないようだ」


 大樹による攻撃が効かなかった以上、プラーミアの言う通り回りくどい手は悪手になるに違いない。だというならば彼の助言に従って真正面から攻めるのも一興だろう。


 フローリストはそう考えて魔法を行使する。


「君の助言に素直に従うことにしたよ」



 次の瞬間、フローリストの右手に黄緑色の魔法陣が展開されると新たな木々が芽吹く。その木々はあっという間にフローリストの右腕を包み込み、フローリストの右腕は木々でできた鎧に守られているようだった。


 その魔法は先日の採用試験でフローリストがセイヤ相手に見せた魔法。


 悪魔の右腕とも形容される全てを貫く最強の矛ウッデス。プラーミアも初めて見る魔法に少なからず驚きを隠せない様子だ。


「実に面白い魔法だ」

「なら、体感してみるのもよかろう!」


 フローリストが選択した策は突進。圧倒的な貫通力を誇るウッデスでそのままフローリストの肉体を貫こうとする。


 この攻撃に対してプラーミアの方も無策という訳には行かない。


 悪魔の右手で突進してきたフローリストの攻撃を防ぐためにプラーミアもすぐに詠唱を始めて魔法を行使する。


「我、炎の加護を受ける者」


 たった一言の詠唱だが、プラーミアほどの実力者ともなれば十分である。詠唱の直後、彼の足元に展開された赤い魔方陣から炎が噴き出して壁を作る。その壁はプラーミアを守るための防壁だ。


 目の前に防壁が現れたにもかかわらず、フローリストには動きを止める様子はない。そればかりかフローリストはさらに加速してウッデスを炎の壁に突き刺した。


 普通ならば炎によって木が炭化させられてしまうはずだが、フローリストの木は普通ではない。最強の矛を名乗るくらいの木なのだから、炎ごときで止められるはずがなかった。


「この右腕は炎の壁さえ乗り越える」

「面白い」


 炎の壁にぶつかったフローリストの右腕は宣言通り壁に阻まれる気配を見せず、そのままゆっくりとだが確実に壁の向こう側にいるプラーミアに迫ろうとしていた。


 自らの炎の壁をものともせず乗り越えてきた悪魔の右腕に興味が湧くプラーミア。しかし彼のことを驚かせるまでには行かない。


「確かにの右腕は面白い。しかし結局はその程度だ」


 変化は唐突に訪れた。


 それまで燃え盛るようにそびえ立っていた炎の壁が突然動きを止めたのだ。わかりやすく言えば炎自体が固まった溶岩のようその場に固定された。


 これによってフローリストの右腕は進行を強制的に止められる。まるで壁にのめり込む右手のような形になってしまったフローリストは進むことも引くこともできない、ある種の拘束された状況に陥った。


「先ほどと立場が逆転したな」

「君の言う通りだ。でも僕だって無策で突っ込んだわけではない」


 フローリストが右腕に魔力を込める。


「土着せよ。ウッデス!」


 次の瞬間、フローリストの右腕の鋭い槍のように尖っていた先端が広がる。その光景はまるで新たな地に根を張ろうとする大樹のように。


 しかもその木々はまっすぐプラーミアに向かって伸びたのだ。


「ほう。まだ策を残していたか」

「この根からは逃げられない」


 後方に飛んでウッデスの根を回避しようとしたプラーミアであったが、根はプラーミアに導かれるように彼の肉体を追い続ける。


 まるでプラーミアの肉体に絶対に根付くというウッデスの意志が感じられるくらいに伸びる根はいつの間にか三十メルにも及んでいた。


「魔力を求めて追い続ける根か」

「その通り。君が生きている限りウッデスは地獄の底まで追い続ける」

「悪魔のような右腕だな」


 フローリストの右腕はその姿から悪魔の右腕と形容されることが多いが、実際の能力も十分悪魔の右腕と形容するにふさわしいものだ。


「しかしいくら魔法が優れていても、術者が死んだらどうかな」

「なにが……」


 言いたい?とフローリストは最後まで言いきれなかった。言葉が続くよりも先に彼の口から出たのは断末魔のような苦悶の声。


 突然右腕に激痛が走ったと思えば、視界に入ってきたのは燃え盛るウッデスの姿。


 プラーミアがどうやってウッデスに発火させたのかはわからない。だが今はそれどころではない。フローリストはすぐにウッデスを解除して右手を燃える木から抜こうとした。


 しかしウッデスを解除したフローリストの視界に飛び込んできた光景はあまりにも予想外の結果だった。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 彼の目に飛び込んできたのは黒焦げになった自身の右肩。そしてそこから伸びるはずの右腕は既に灰となっていた。


 何が起きたのか理解できない焦りと、右腕がなくなったという精神的ストレスと、右肩から留まることなく襲い掛かる激痛が一斉にフローリストに襲い掛かった。


 様々なショックで吹き飛びそうな意識を辛うじて留められたのは革命軍としてのプライドだろう。だが極限にまですり減った彼の精神では再び戦いに参加することは不可能だった。


「すぐに魔法を解除したのは良かったが、少しばかり遅かったな」


 余裕の表情で歩み寄ってくるプラーミアに対してフローリストは何も言い返せない。


「苦しいだろう。すぐに楽にしてやる」

「……」


 「やめろ、やめてくれ」と叫びたいが上手く言葉を使えないフローリストは懇願するような表情でプラーミアを見た。けれどもプラーミアは無慈悲に言い放った。


「言っただろう。最後の慈悲は終わっている」


 その言葉を最後にプラーミアはフローリストの心臓部分に人体発火の魔法を行使した。だが次の瞬間、その魔法は何者かによって消滅させられた。

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