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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
第8章 脱魔王派編
384/428

にく8

「「「うぉぉぉぉぉ!」」」


 怒号とともに向かってくる多くの冒険者を一瞥すると、ライトはゆっくりと構えた剣を横一線に閃かす。すると直後、ライトの閃かせた剣から生みだされた斬撃が彼に向かってきた冒険者たちを斬りつける。


 中には魔法で攻撃を防ごうとした者もいたが、ライトの斬撃は魔法さえも切り裂き、その先にいた術者にも襲い掛かる。


 なぜただの斬撃が魔法をも切り裂けるのか。その疑問の答えを知る者は冒険者たちの中にはいなかった。ライトの国であるレイリアならば容易に見抜かれるその攻撃もダクリアでは立派な必殺技へと昇華する。


 ライトの斬撃には光属性の魔力が付与されている。そして光属性の付属効果は上昇。ライトは自らの斬撃の切れ味を上昇させることで魔法の壁さえも切り裂いたのだ。


 光属性の魔法を知らないダクリアの冒険者にしてみればライトの攻撃は只の斬撃にしか見えないだろう。仮にライトの斬撃を防ごうとするならば闇属性を使って斬撃に付与された光属性の魔力を相殺させるのが最適な手段である。


 だがここにいる冒険者たちはダクリアの基準でBランク相当。レイリアで十三使徒にも勝る実力を持つと言われるライトの斬撃を防ぐにはダクリア基準でAランク相当の冒険者が必要になってくる。そうしなければライトの魔力の質に敵う相手がいないというのが現状だ。


「つまらん」


 性懲りもなく自身に挑んでくる冒険者たちを一瞥するとライトは再び斬撃を生みだそうと、剣をゆっくりと構える。


 しかしその瞬間だった。


 自分に向かって攻めてくる群衆の中に一際大きな殺気を感じたライト。その殺気は突然現れ、そして忽然と消える。


 刹那の時間であったが確かに存在した明確な殺気。このような群衆の中では他の殺気に掻き消されそうなものだが、確かにその殺気は一瞬だけ存在した。それも他の殺気とは明らかに重ねてきた修羅場の数が異なる異常な殺気。


 なぜこれほどの殺気が一瞬しか観測できなかったのかライトはわからない。ただライトのとった行動はあまりにも単純だった。


「我、光の加護を受けるもの。『シャイニングウォール《シャイニングウォール》』」


 それまで攻撃、というより相手の一方的な殲滅に徹していたライトは気づけば防御用の魔法を行使していた。それも一つではなく三つも。


 十三使徒に匹敵する実力を持つといわれるライトが本能的に防御魔法を行使したことにも驚きだが、それ以上に同じ防御魔法を三つも展開したことにはさらに驚かされる。


 だが結果としてライトの選択は正しかった。


 数瞬の時を置き、ライトの行使した三つの防御魔法のうち二つが破壊されたのだ。一つ目の防御魔法はその攻撃の威力を殺し、二つ目の防御魔法はその攻撃をほとんどかき消す。最後の壁にはひびが入った。


 ライトの防御魔法の二枚を破壊し、三枚目にも傷をつけた殺気の主の実力はそれまでの冒険者たちとは根本から異なっていた。


 無意識に行使してしまった魔法のおかげで九死に一生を得たライトは僅かな安堵を覚えたが、すぐにその安堵は驚愕に変わる。なぜなら攻撃を受けた方向に目を向けると、そこには信じられない光景が広がっていたから。


「どういうことだ……」


 ライトの視界に飛び込んできたのは身体の一部を切り裂かれて苦悶の声を上げながら倒れ込む冒険者たち。その傷口は先ほどライトがつけたものと酷似しているが、彼らの傷は全て背中側にあった。ライトに向かっていた冒険者たちの背中にライトが傷をつけることは難しい。


 それこそブーメランを使えば可能かもしれないが、ライトの持っている剣はブーメランにはならない。つまり彼らはライトではなく、背後にいた何者かによって攻撃を受けたことになる。


 ここまで冷静に分析したライトであるが、攻撃の主は既にライトの目の前に立っている。苦痛の声を上げながら地面に倒れ込む群衆のはるか先に見える剣を握った白髪の少年。その瞳はどこまでも深く、そして冷たい。


 まるで死神のような容貌の少年の名前はジャック。反魔王派で構成された冒険者組合の中でもさらに闇が深い暗部に所属する冒険者である。その実力はAランク冒険者を示す金のタグを与えられてはいるものの、実際には白金等級に近いと言われているダクリアでもかなりの実力者である。


 ライトとジャックの間には五十メル以上の距離があるにも関わらず、自身に向けられた明確な殺気を感じ取ったライトは無意識に身構える。


 そして視界からジャックが消えたと認識すると同時に右手に握っていた剣を構えて防御態勢を取った。それからライトが自身の剣の重さを感じたのは数秒後の出来事だ。


 突然、自身の腕に大きな負荷がかかったと感じた時にはジャックの姿はライトの眼前に迫っていた。


「くっ……負けん!」


 ジャックの攻撃に押されそうになったライトは力ずくで押し返すと、ジャックから距離をとる。だが相手には予備動作を感じさせない動きがあるとわかった今ではその距離はないに等しいだろう。


 ライトの表情がわずかにほころび、その身体はわずかに震えている。久しぶりの強敵といえる相手にライトは武者震いしていたのだ。


 対してジャックはライトを睨みながら問う。


「てめぇ、外の人間だな」


 ダクリアに置いて外の人間とは他の区から来た人間のことを指すのが基本であるが、この場合は基本には当たらないだろう。もしこの基本に当てはめるなら、この発言はダクリア二区を守護するライトが他の区から来たジャックに問うのが正しい。


 つまりジャックが問うた外とはダクリアの他の区という意ではなく、ダクリアの外から来た人間であるという意だ。


 これに対してライトは隠そうとはしない。


「だったらなんだ?」

「なぜ外に人間が魔王の味方をしている」


 ジャックの質問は当然のものだろう。外の人間、つまりレイリアの人間がダクリアに入っただけでなく、そこでダクリアの利益になるような行為を働いている。しかも今回はダクリアに置ける内戦のようなものであり、これにレイリアの人間が参加するというのは内政干渉に当たるのは間違いない。


 しかしジャックの問いは内政干渉というよりは、どうして外の人間が魔王なんかの味方をするという意味の方が強いようであったが。


「なぜ味方をするか」


 確かに問われてみればおかしな話だ。聖教会の人間が魔王の味方をするだけでなく、魔王のために命を懸けて戦っている光景はあまりに珍妙な話である。


 突き詰めればライトたちが戦うのは上司のためという単純な理屈になるが、そこに至るまでがあまりにも複雑すぎる。


 結局ライトにはジャックを満足させられるような答えを用意できなかった。


「答えは簡単。それが魔王様の命令だから」

「ちっ」


 満足のいく答えを得られなかったジャックが舌打ちをする。それに対して今度はライトが尋ねた。


「逆に問うが、貴様はどうして仲間ごと斬った? 同じ志を持つ仲間だろう?」

「くだらない。邪魔だから斬ったにすぎない」


 事実は違う。ジャックは反魔王派の一員であり、脱魔王派の冒険者たちは同志でも何でもない。だから彼らを斬ることに対して何も抵抗は湧かなかった。


 この時、互いに疑問に思うことがあった。けれども双方に入り組んだ事情があるため本当のことは話せない。となれば、残るは剣で語るしかなかった。

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