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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
第8章 脱魔王派編
383/428

にく7

 確かにケルヒャーの弾はデンシルの頭部を撃ち抜いたはずだ。しかしケルヒャーの目の前でデンシルが立っている。


 おかしい。手ごたえは十分なはずだった。なのにどうしてデンシルは立っていられるのか。


「どういうトリックかしら」

「単純な身代りだ」


 デンシルはそう言うと自身の指をパチンと鳴らし、近くに魔法陣を展開させる。そしてその魔法陣が開くと中からデンシルと瓜二つの存在が現れた。


「分身魔法? でも密度操作の魔法師がそれほど精巧な分身を作るのは難しいはず」


 分身魔法は魔法に置いてポピュラーな魔法の一つであり、その使い手は少なくはない。だが一口に分身魔法といっても、その仕組みは千差万別であり使用する魔法も異なってくる。


 例えばセイヤがフローリストとの戦いで使った魔法は水で肉体を構築して分身を作り出す魔法だ。この魔法は高度な魔法であり、本物と見分けがつかないほどだった。さらに言えば実体があり、触れられれば分身魔法の巧妙さは増す。現にフローリストは最後までセイヤの分身に気づけなかったのだから。


 そしてデンシルの魔法もまたその時のセイヤと同等、もしくはそれ以上の精度で作られていた。


 だが密度を操作するデンシルの魔法ではそこまで巧妙な分身は作れるはずがない。だからケルヒャーもデンシルの魔法に気づけなかったのだ。


 どうしてデンシルが分身魔法を使えるのかケルヒャーには理解ができなかったが、だからといって戦いを中断して答え合わせをするような性格ではない。仕組みを知らないなら知らないなりに分身があるということで戦いに臨めばいいだけだ。


 ケルヒャーが再び魔装銃を構えてデンシルとデンシルの作り出した分身の頭を撃ち抜く。今度もやはり手ごたえがあったが、デンシルとデンシルの分身はその場で陽炎のように消えた。


「すでに本体ではなく分身だったわけね」

「その通りだ」


 再び陽炎の様に現れたデンシルが答える。それに対してケルヒャーは再び魔力弾を浴びせるが、今度もまたデンシルは陽炎のように姿を消す。


 だがここに来てようやくケルヒャーはデンシルの魔法の仕組みを理解した。


「今の分身に手ごたえはない。ということは只の蜃気楼と判断する方が正解って訳ね」

「さあ、ならこれはどうだ」


 デンシルの声が聞こえた刹那、地面に三つの魔法陣が現れて三体の分身が現れる。その分真に対してケルヒャーは魔力弾を放つが、今度はその三体に手ごたえを感じる。


 先ほどの分身とは打って変わり手ごたえを感じたケルヒャー。普通なら頭がおかしくなりそうな状況だが、歴戦の魔法師であるケルヒャーは冷静に状況を分析し、デンシルの攻撃の仕組みを考える。


(手ごたえがない方に関しては簡単な仕組みだけど、あの手応えのある分身は一体何なの?)


 この時点でケルヒャーは手応えのない分身はただの蜃気楼だと確信していた。蜃気楼は密度を操作するデンシルなら簡単に作り出せる偶像である。ならばそこに実体が伴っていなくても不思議ではない。


 一方の手応えのある分身は蜃気楼ではない。蜃気楼なら魔力弾で撃った際に手応えがあるはずがないから。


(となると、あっちは実体の伴った分身と考えた方がいいわね)


 ケルヒャーは左手に握っていたライフル型魔装銃を背中にしまうと、右手に持っていたライフル型魔装銃を両手で構えた。


「なぜ手数を減らす?」

「分身の構造を考えれば、実体を伴わない分身に影は出ない。ならばその分身は無視していいもの」

「いい着眼点だが、これならどうだ?」


 次の瞬間、今度も三人のデンシルが姿を現す。そしてそのデンシルたちにはしっかりと影がある。


「全部実体があるんでしょ」


 そう言ってケルヒャーは魔力弾を三発発射し、全ての分身の頭を撃ち抜く。だがケルヒャーの撃ち出した魔力弾はデンシルの分身を通り抜けてしまう。撃ち抜かれたデンシルは陽炎のように姿を消した。


「まさか全部が蜃気楼!? でも影が……」

「影で判断する冒険者など無数にいた。それに対策をしないわけがないだろう?」

「本当にいい性格してるわね」


 ケルヒャーの表情が厳しくなる。


「認めるわ。一番手ごわい敵だと」


 これまで戦ってきた脱魔王派の冒険者たちとは一味違うと理解したケルヒャーはデンシルのことを強力な敵だと再認識する。


 そして本気を出さなければいけない相手だとも認識した。


 ケルヒャーの表情には微塵の余裕もない。裏を返せばそれまでケルヒャーにあった油断がないということである。聖教会最強部隊の一翼であるケルヒャーが本気をもってデンシルを相手にしようとしたのだ。


 一方のデンシルもケルヒャーの纏う雰囲気が変わったことに気づく。その殺気が本物の実力者だと理解したデンシルも本気で相手をしなければならないと理解した。


「来なさい。どんな手を使ってこようと、私は全てを撃ち抜く」

「ならばこちらも本気を出させてもらいましょう」


 次の瞬間、ケルヒャーは信じられない光景を目の当たりにした。


「嘘でしょ……」


 大気が揺らめき、ケルヒャーの前に現れたのは先ほどまでのデンシルの姿。しかしその数は十や二十ではない。少なくとも五十人のデンシルが一斉に現れたのだ。


 だがデンシルの魔法は止まらない。次々とケルヒャーの周りを囲むように現れるデンシルの分身。その数は優に百を超え、さらに増えていく。


 気づけばケルヒャーの周りには数えきれないほどのデンシルの姿が現れ、彼女はいつの間にかデンシルの姿に囲まれてしまった。


 常人が見たならば狂気の沙汰だと叫び出したに違いない。事実ケルヒャーも自身の周りに現れた信じられない光景に言葉を失っているのだから。


 戦いに置ける恐怖とはまた別の恐怖がケルヒャーに襲い掛かる。


 しかも増え続けるデンシルの分身には例外なく影が見えており、全てに実体が伴っているように感じられる。頭の中ではほとんどが蜃気楼だと訴え続けるが、視覚から入ってくる情報は全てが本物だと訴えかけている。


 この中で本物のデンシルをむ付けるのは不可能に近い。それ以前に全ての分身の実体の有無を確認するのさえ難しいだろう。


 それでも十三使徒の一人シルフォーノに仕えるケルヒャーの誇りが彼女の身体を突き動かす。


「そっちがその気なら私だって乗ってあげるわ! 気が済むまで相手してやろうじゃないの!」


 叫び声とともにケルヒャーのとった行動はデンシルの虚をつくものだった。


 なんと彼女は両手で構えたライフル型魔装銃から途切れることなく魔力のレーザーを周囲に向かって撃ち出したのだ。その姿はまるで高圧洗浄機を振り回すようである。


 高圧洗浄機を振り回すように分身たちを消し去っていくケルヒャーであるが、そのような事をすれば魔力の消費は激しい。ケルヒャーのやっていることは魔力の蛇口を全開にして周囲のデンシルたちを吹き飛ばしているのと変わらないのだから。


 対してデンシルの方も消された分身を補填するように新たな分身を作り出す。


 そこからはケルヒャーとデンシルの我慢比べだった。どっちが先に魔力を枯渇させるかのチキンレースだ。莫大な魔力のぶつかり合いが始まったのである。

ふと思ったのですが、この作品の強みって何でしょう。次章で生かすために是非読者目線の意見をお聞かせください。よろしくお願いいたします。

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