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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
第8章 脱魔王派編
382/428

にk6

 エンジがテンペと戦っているのと時を同じくして、他の戦況でも変化が訪れていた。


「なにこれ!?」


 驚きの声を上げたのはシルフォーノ隊に所属するケルヒャーだ。ケルヒャーもまた十三使徒に近い実力を持つ魔法師としてレイリアでは認識されている実力者。


 ケルヒャーの武器はライフル型の二丁の魔装銃で、その最大の特徴は通常の魔装銃に比べて射程距離がないのと威力が強いことである。しかしその反面、持ち運びには通常の魔装銃に比べて向いておらず、連射する際の魔力効率も劣る。


 だがケルヒャーはその類まれなセンスでライフル型魔装銃の欠点をカバーすることができた。


 そんなケルヒャーが驚きの声を上げた理由は自身が発射した魔力弾が空中で何かに弾かれたからである。魔法によって弾かれたというなら理解できるが、ケルヒャーの魔力弾を防いだのは魔法というよりは空気の塊だった。


 一体どうやって空気の塊を作ったのか。実戦経験が豊富なケルヒャーはすぐに空気の塊が魔法によって空気の密度を高められたものだと理解する。


「出てきなさい。密度操作の魔法師」

「一目で俺の能力を見破るとは、あんたは一体何者だ」


 そう言ってケルヒャーの前に姿を現したのはセイヤやエンジたちと同じくついこの間革命軍に加入したばかりの新入りデンシル。


 デンシルは革命軍たちの前に立つとケルヒャーに向かって指の重を構える。


「それはなんの真似かな?」

「あんたにロックオンした合図さ」

「愛を叫ばれるのは嬉しいけど、私の趣味よりは若いかな」


 指で拳銃を模して構えるデンシルの姿は子供のごっこ遊びの様である。だからケルヒャーもデンシルに対して警戒心を解いてしまった。


「それでこちらの質問には答えてくれないのか?」

「ん、ああ、私が何者かって。何者だと思う?」

「性格の悪いマモンが連れ込んだ異端分子ってところか」

「そんなところだね!」


 ケルヒャーがデンシルに向かって一発の魔力弾を発射する。だがその魔力弾がデンシルに到達することはなかった。


 発射されたケルヒャーの魔力弾が着弾したのはデンシルのはるか手前の地面。着弾した場所は弾の威力によって地面が抉れている。


「これは私の認識能力が邪魔されている? いや、乱れているのは三半規管か」


 一歩だけ前に出たケルヒャーがすぐにあり得ない方向に弾が撃ち出された理由を理解する。


「驚いた。まさか一発でそこまで理解されるとは」

「あいにく私たちが積んできた経験はそこらの魔法師とは違うんでね」

「なるほど。道理で脱魔王派の冒険者たちが駆逐されているわけだ」

「まるで他の戦況を知っているみたいな口ぶりね」

「少なからずは予想がつく。あんたみたいな化け物が他にもいなきゃここまで激しくはならない」


 自身の能力を一瞬にして見破られたデンシルは、その御返しと言わんばかりにケルヒャーたちの実力を分析する。だがいくら他の魔法師を分析したところでデンシルとケルヒャーの戦いには関係ないので、半ばやけくそといえるかもしれない。


「まあ、化け物ならこっちにもいる。そういう意味ではあんたは当たりを引いたみたいだ」

「まさかその化け物が自分だって言いたいの?」

「まさか。俺はあの化け物に比べたら可愛いもんだ。一度対峙すればわかるが、あれは相手にしたくない部類なんだよ」


 それ以上、語る気はないとデンシルは指の銃を構えて撃ち出す。


「だからその手口は通用しないって」


 ケルヒャーは自身の頭上に向けて魔力弾を発砲し、頭上に現れた何かを破壊する。それを見たデンシルがわずかに表情をゆがめたことをケルヒャーは見逃さない。


「大方、敵の三半規管を乱して空気爆弾で仕留めるのが十八番みたいだけど、そんな小賢しい手じゃ私は倒せない。いえ、私だけでなく他の仲間も無理でしょうね」

「随分と言ってくれるじゃないか」

「これでもオブラートに包んでるんだけどね」

「ふん。なら問おう。いつから俺が一人で戦っていると錯覚していた」


 次の瞬間だった。ケルヒャーの周囲に散らばっていた瓦礫の中から一斉に脱魔王派の冒険者たちが飛び出し、ケルヒャーに向かって魔法を行使する。その中にはハマスや支部長であるクルラの姿も見受けられる。


 デンシルが配属された班は元々セイヤたちが所属する支部が中心となったものだ。だからダクリア二区に到着するよりも前から策を練っていた。


 ケルヒャーの使うライフル型魔装銃は普通の魔装銃に比べて連射速度が遅い。それはレイリアでもダクリアでも共通の認識であり、ライフル型魔装銃を相手にするときは連射の隙を突くことが鉄則とされている。


 ましてやケルヒャーの三半規管は乱れたままだ。どんな手で敵の位置を補足しようとも、乱れた三半規管はそう簡単には元に戻らない。そこに大勢の攻撃が重なったならば、いくら実力があっても対処するのは難しいはずだ。


 だがケルヒャーの表情は余裕だった。


 一斉に多くの人間が襲い掛かってきているというのに、焦りの色はない。それどころかつまらなそうに地面に向かって二つの魔装銃を構えると魔法を行使する。


「我、火の加護を受けるもの、敵を貫き倒せ」


 ライフル型魔装銃から撃ち出されたのは赤い魔力のレーザー。そのレーザーは地面にぶつかると着弾するのではなく、反射して分裂する。そして分裂したレーザーはケルヒャーの頭上でもう一方の魔装銃から撃ち出されたレーザーとぶつかり、反射し、さらに分裂する。


 そこからは芸術とも呼べる光景だった。


 分裂したレーザーはさらに他のレーザーとぶつかり合い反射して分裂していく。その数は一秒で八倍の量へと増え続けていた。


 一瞬にしてケルヒャーの周囲に現れた無数の赤いレーザーは無作為にケルヒャーに襲い掛かろうとした冒険者たちに着弾する。


 中には着弾せずに空中に抜けていくレーザーもあったが、今度はそのレーザー同士がぶつかり合って反射し、再び地上に降り注ぐ。


 誰かを狙ったわけではない。ただ周囲にあるものを無作為に撃ち抜いていくその魔法はとても綺麗だった。


「まさか……」


 あっという間に仲間が倒されたデンシルはケルヒャーを睨むことしかできなかった。ずっと前から練っていた作戦がこんなでたらめな魔法で防がれたという驚きよりも、あの魔法をこの状況で使うケルヒャーの胆力に言葉が出なかったのだ。


 今の魔法は下手をすれば自分さえも傷つけるかもしれない魔法である。その魔法は研ぎ澄まされた集中力の下で初めて成功するというのに、ケルヒャーは三半規管が乱れている状態で魔法を行使した。


 自爆するのが怖くないのかと叫びたくなる衝動を必死に抑えるデンシル。


 対してケルヒャーは右手に握るライフル型魔装銃をデンシルに向けて構えると最後の言葉を告げた。


「終わりよ」


 引き金が引かれ、ケルヒャーの魔力弾がデンシルの頭部を撃ち抜いた。

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