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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
第8章 脱魔王派編
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メンテ終わるまでの暇つぶし

 セイヤたちがダクリア二区に到着したときには既に戦況は落ち着いていた。魔王軍側から三日間の休戦協定が出されたことで革命軍は怪我人の治療と退避に尽力し、仮設で建てられた医療テントは援軍たちの待機所になっている。


「まさかここまで激しいとは」


 街の惨状を目にしたデンシルが言葉を漏らす。


「前に来た時とは雲泥の差だ」

「ミズチは二区に来たことがあるのか」

「野暮用でな」


 セイヤが以前ダクリア二区を訪れたのは前魔王ブロード=マモンからモカ=フェニックスを救出するためだ。観光という訳じゃなかったが、セイヤも少なからず二区の街並みに感心した一人である。


 しかし目の前に広がるのは街と呼ぶには少し物寂しい瓦礫の山たち。火の手こそ上がってはいないが、消火が中途半端な場所からはまだ煙が立ち込めており、焦げ臭さが鼻をくすぐる。


「二区は魔王がいなくなってから少なからず荒廃していたらしいが、戦場になってしまえば面影すらない」

「それが戦いだ」


 デンシルの言葉にかぶせるように発言したのは同じチームのジャック。彼もまた目の前に広がる惨状には思うところがあるのだろう。


 ちなみにもう一人のチームメイトであるエンジは到着するなり周囲のがれき撤去に精を出していた。特に命令されているわけではないのに参加するエンジの積極性には見習うべきところが少なからずある。それ以上にポカをやらかすことが多いが。


「これからどうなると思う?」

「明朝から仕掛けるだろうな」

「その根拠は」


 質問したデンシルがセイヤに問う。


「魔王軍側が提示した三日間の休戦は一種の最終警告だ。もしここで引けば見逃すというな」

「だが革命軍は引かずに攻めると?」

「ここまで犠牲を出して逃げ出すようなら革命なんてできないからな」


 セイヤは一つの嘘をついた。魔王軍側が提示した三日間の休戦はあくまで脱魔王派の冒険者たちを一斉に掃討するための策であり、大魔王ルシファーであるセイヤもその方針は聞いている。


 しかし大方の脱魔王派の冒険者たちは三日間の休戦を最終警告と解釈していたため、セイヤも彼らに合わせた。


「革命軍は三日間の猶予を守らず、三日目の朝に攻め入るだろう」

「ジェイの言う通りだ。狙うなら三日目の朝が一番警戒が緩い」

「残念だな。うちが動くのは四日目の朝だ」


 セイヤたちの間に割って入ってきたのは彼らの上司であるハマス。どうやらハマスは奥で行われている支部長たちの会議を途中で抜けてきたようだ。


「どういう言意味でしょうか、ハマスさん?」

「言葉の通りだ。革命軍は相手からの猶予である三日間をフルに使うらしい」

「でもそれじゃあ相手も準備が済むのでは?」

「そう主張する者もいたが、上は他に思惑があるみたいだぜ」


 その思惑が何かまで聞かされていないハマスが語れるのはここまでだった。


「ま、少なからずもう一日は休めるからおまえらも休んでおきな。俺は他の連中にも伝えてくるから」


 そう言ってハマスは他の仲間のところに足を運ぶ。どうやらハマスは一日は猶予があるということを先に伝えに来たらしい。


「どうやら予想ははずれたみたいだな」

「ちっ、理解できねぇ」

「一体上は何を考えているんだ」


 自分たちが知らされていない何かがあると知ったセイヤたちはモヤモヤする思いを抱えながら正式な命令を持った。






 その日の夜、セイヤは待機用に用意された仮設のテントを抜け出すとダクリア二区の街に繰り出す。だが繰り出すといっても街で遊ぶのではなく、近くにあった一番高い建物に登り周囲を見渡そうとした。


 一番高い建物の屋上に登ると、他の人の姿があった。おそらく魔王軍が攻めてこないかを監視している脱魔王派の冒険者であろう。何か言われるかと思ったセイヤだが、その監視の冒険者は特にセイヤに話しかけることなく業務を続けている。


 周囲を見渡せばセイヤ以外にも姿があった。どうやら他の脱魔王派の冒険者たちもここからダクリア二区の街並みを一目見ようと訪れているらしい。


 夜風に当たりながら見渡すダクリア二区はセイヤの知る姿とはかけ離れている。そこからどれだけ激しい戦闘が繰り広げられていたのか容易に想像がつく。


「ミズチも来ていたのか」

「デンシル?」


 ダクリア二区の街を見渡していると、背後からデンシルに話しかけられたセイヤ。


「ミズチも街を見に来たのか?」

「まあ、そんなところだ」

「あの街がここまで変わるとはな」

「デンシルも二区に来たことがあるのか?」


 まるでかつての街並みを知っているかのような口ぶりにセイヤはつい尋ねてしまう。


「俺の故郷だ」

「そうか」

「といっても、もう随分と前に出たけどな」

「どうしてだ?」


 冒険者という職業柄、一か所に定住しない者も少なくない。割のいい仕事を求めて他の区に移る者はよくいる。


「俺の両親は魔王ブロード=マモンに殺されたんだ」

「ブロードに?」

「そうだ。ブロードは人類が発展するためといい無作為に国民を抽出して人体実験をしていた。本来なら批判されるべき諸行だが、あの下衆は国外には決して情報を漏らさせなかった。それに帝国の魔王たちもブロードのことを知りながら止めようとはしなかった」


 デンシルの表情に憎しみが浮き上がる。


「だから俺はブロードを許せない。そんな魔王がいる世界を俺は許せない」

「すまない」

「気にするな」


 セイヤの謝罪をデンシルは悲愴な過去を問うてしまったことに対する謝罪として受け取った。だがセイヤは大魔王ルシファーとして魔王の管理が行き届いていなかったことに対する謝罪の意を込めていた。


 セイヤが大魔王ルシファーの座に就いたのはつい先日。そしてデンシルの話は少なくとも数年前だ。セイヤが責任を感じることは違うかもしれないが、それでもセイヤは謝罪の意を表明したかった。


「それにもうブロードはいない」

「誰かが倒したらしいな」

「ああ。どこぞの誰かが殺してくれたらしい。あいつの最期を見れなかったのは悔しいが、でもあいつが死んでくれたというなら、俺は喜んであいつを手に掛けた誰かに頭を下げて感謝を述べる」


 デンシルは虚空を見つめるように続ける。


「俺はブロードを許さない。だからブロードの遺志を継ぐと言われる新しい魔王を倒すつもりでここまで来た。でもいざ荒れた故郷を目にするとやはり辛いものがあるな」

「仕方ない。何があったとしても故郷は人間にとって思い出だから」

「ミズチは優しいんだな」

「別に当然だろ」


 セイヤにだって故郷があるし、その故郷でつらい思いをした経験がある。けれども故郷には辛い思いでのほかに楽しかった思い出や幸せだった思い出があるのも事実だ。もしセイヤが燃え盛る故郷を目の当たりにしたならデンシルと同じく悲しくなるに違いない。


 そこにいるのは様々な思いを抱く冒険者たちなのだろう。

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