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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
番外編 事件は現場以外でも起きている
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番外編Ⅱ 第2話 聖教会から(中)

 中央王国首都ラインッツにある聖教会の前には人が集まっていた。


 その中心にいるのは全身を白い鎧で包み込んだ銀髪の男、聖教会十三使徒の一人バジル=エイトだ。彼の顔はどこか厳しく、周りの面々を緊張させている。


 そしてバジルのことを囲む六人の人影。


 茶色い短髪をした強気そうな男の名前はグリス=グレイリア。上級魔法師一族グレイリア家出身の炎属性魔法を使う魔法師であり、バジル隊所属の小隊長の一人だ。


 黒い髪をした体つきの良い男の名前はポール=マルニア。上級魔法師一族マルニア家出身の土属性魔法を使う魔法師であり、バジル隊所属の小隊長の一人。


 ポールと同じく黒い髪をしているが、俊敏そうな体つきをしている男はワルツ=スギルト。上級魔法師一族スギルト家出身の霧属性魔法を使う魔法師であり、同じくバジル隊所属の小隊長の一人だ。


 青い髪をしたちょっと強気そうな男の名前はモーラス=ブリガー。中級魔法師一族ブリガ―家出身の光属性魔法を使う魔法師であり、同じくバジル隊所属の小隊長の一人である。


 オレンジ色の髪をした優しそうな男の名前はケイン=スラル。中級魔法一族スラル家出身の風属性魔法を使う魔法師であり、彼も同じくバジル隊所属の小隊長。


 そして最後は唯一の女性であり、赤みがかった髪をしている女性、エリエラ=ボージュラル。中級魔法一族出身の火属性魔法を使う魔法師であり、バジル隊で唯一の女性小隊長である。


 以上、六人がバジルのもとに集まっていた。そして彼らこそが、バジルといっしょにウィンディスタンに向かう仲間であり、彼の信頼のおける部下である。


 「今回、我が小隊、バジル隊はウィンディスタンに向かい、人攫いの事件の解決に当たる。戦闘になった時は期待しているぞ」

 「「「「「「ハッ!」」」」」」


 バジル率いる七人は馬に乗ると、すぐに移動を開始した。


 彼らの乗っている馬は、普通の馬とは違い、魔力を流し込んでスピードを上げることができる『魔装馬』という。


 彼らは魔装馬に魔力を流し込んで、猛スピードで駆け出し、ウィンディスタンへと向かうのだった。






 目的地までの道のりにある小さな村や街に宿泊して三日後、長旅を終えたバジルたちは、人攫いが捕まったという街、ウィンディスタン地方中部にあるクロクレの街に到着した。


 バジルはウィンディスタン地方中部のクロクレの街に到着すると、小隊長たちに周辺の警備を命令した。


 といっても、バジルの命令は建前であり、内心は警備しながら自由にしろと言う意味だ。もちろんバジルの部下であるグリスたちは命令の意味を分かっているため、素直に応じて、各々自由時間を過ごし始める。


 そして小隊長たちが姿を消すと、バジルはある建物へと向かった。


 そこはクロクレの街にあるウィンディスタン地方全土を管理する機関、ウィンディスタン教会だ。バジルが教会に到着すると、すぐにある一室へと通される。


 小さな応接室に通されたバジルが部屋に入ると、すでに一人の老人が待っていた。


 紺色のローブを着た白い髪の老人、彼はこのウィンディスタン教会のトップの一人だ。そして同時に、バジルと旧交のあるハリス=ツベルクリンという男性である。


 各地の教会も聖教会と同じように、トップは複数人によって構成されている。


 聖教会から派遣された者と、その地からの代表者が集まり運営されている教会は聖教会との連絡も円滑に取れるため、かなり情報の行き来も早い。


 そしてハリスはかつて聖教会に所属していた魔法師であり、現在はこの教会のトップを務めていた。


 「よくぞお出でになりました。バジル様」

 「そんな堅苦しい態度はやめてください。ハリスさん」

 「ホッホッホォ。それもそうだな」

 「はい、あなたが私に教育係なってくれたおかげで、私はここまでになったのです」

 「それは言いすぎじゃよ、バジル」


 バジルの言う通り、ハリスは二年前までバジルの教育係を務めていた。


 バジルが十三使徒になったのは、彼がまだ十八歳の時。その時のバジルはまだ魔法学園に所属する子供であった。


 だから七賢人たちは教育係として、当時聖教会で若い魔法師たちの教官をしていたハリスを教育係として据えたのだ。


 当時のバジルは七賢人から聞かされたレイリア王国の外のことで頭がいっぱいになり、周りのことが見えてなかった。


 そんな時、バジルのことを支えながらアドバイスや相談に乗ってくれたのがハリスであり、おかげでバジルは立派な十三使徒となることができたのだ。


 ハリスはバジルの教育係になると同時に、レイリア王国の外についても七賢人から教えられていたので、バジルの良き相談相手になることができた。


 そんなことで三年が経ち、バジルが立派な十三使徒となったので、ハリスはバジルの教育係を外れて、ウィンディスタン教会へと来ていたのだ。


 命令上、ウィンディスタンで外に関する情報の監視と統制を言い渡されていたハリス。しかし事実は十三使徒と親しいハリスが聖教会内での力を付けるのを恐れた七賢人が左遷したのである。


 バジルはそのことを知るとハリスに謝罪したが、ハリスは笑いながら気にしてないと答え、今は田舎暮らしを楽しんでいた。


 「バジル、人攫いの件じゃな?」

 「そうです」


 ハリスはバジルの顔を見てすぐに用件を察する。


 彼のところにも犯人は捕まったという知らせが届いていたが、まだ事件は終わっていないとハリスも思っていた。


 しかし教会のトップを務めるハリスがそう簡単に動くこともできず、どうしようかと悩んでいたところにバジルが来たのである。だから協力しないわけがない。


 「オルナの街にあるセナビア魔法学園の生徒が拉致されことは、知っているな?」

 「ええ、確か四名だったと記憶しています」

 「そうだ、その捕まった生徒を助けようと、同じくセナビア魔法学園の生徒が数人が街を警備してところ、不審人物を見つけて後を付けたそうだ」

 「なるほど」

 「そして拠点を見つけると人質を救出して、その後は犯人を確保したということらしい」

 「それは心強いですね」


 バジルはハリスの説明を聞き、素直に心の底から感心していた。


 いくら魔法師だからと言っても、魔法学園の生徒はまだ子供だ。そのことはかつて魔法学園の生徒でありながら、十三使徒の一人となったバジルがよく知っている。


 「それで犯人は?」

 「意識はないが無事だ。目を覚ましたら話を聞く予定だ」

 「そうですか、人質は全員いたのですか?」

 「全員じゃない。詳しい数は知らんが、おそらく全体の一部だろう」

 「そうですか」


 人質の数を聞き、バジルは確信する。やはりまだ事件は終わっていないという事を。


 「犯人が目を覚ましたら情報を聞いて連絡する」

 「いえ、私はここに滞在しようかと」 

 「十三使徒が? そんなに大事なのか?」


 ハリスの言う通り、十三使徒が聖教会から出て各地に留まるということは大きな問題の時しかない。なので、ハリスはまさかと驚くしかなかった。


 「まあ一応」

 「聞かせてくれるかのぅ」

 「まだ予想の段階ですが……」

 「構わん」


 バジルはそういわれると、ハリスに自分の推理を聞かせる。


 「私はこの件に上級魔法師一族が一枚噛んでいると思っています」

 「それは……また……」


 バジルの推理を聞いたハリスは驚きを隠せない。まさか上級魔法師一族が絡んでいるなど、考えてもおらず、すぐには信じられなかった。


 しかしバジルの推理は辻褄が合いすぎていた。


 「たしかにそれなら説明がつく。だが本当にそんなことが?」

 「でも他に考えられる可能性が」

 「わかった。私もその方向も視野に入れておく」

 「ありがとうございます。一応この事は他言無用で」

 「わかっている」


 バジルは話し合いを終えると、ハリスと別れて教会を後にした。そして今晩泊まる宿へと戻る。


 宿にはすでに小隊長たちが待っており、バジルが戻るとすぐに夕食となった。


 バジルはその席で今後の方針について話す。


 「今後の方針だが、私は犯人たちが目を覚ますまでここに留まる。グリスは私とともに行動だ」

 「わかりました」


 グリスはバジルの命令にうなずく。


 「そしてポールとケインはフレスタンの教会に行って、そこで暗黒領の魔獣の変化について聞いてくれ。その後、三日はフレスタンに留まり、何事もなかった場合はこの街に戻ってこい」

 「フレスタンですか? 了解しました」

 「了解」


 なぜフレスタンなのかという疑問がよぎったが、バジルには考えがあるのだろうと思い頷く。


 「ワルツとモーラスとエリエラはオルナに向かい、犯人を捕まえたというセナビア魔法学園の生徒に話を聞いてくれ」

 「「「了解」」」


 バジルは命令を言い終えると、周りを見ながら言う。


 「この事件はまだ終わってない。人質を全員解放するまでは終わらない」

 「「「「「「ハッ」」」」」」


 宿には力強い返事が響くのであった。


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