表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
第8章 脱魔王派編
379/428

にく3

「我、風の加護を受ける者! 穿て!」


 詠唱とともに繰り出された一撃。といっても、ただ風属性の魔力を纏っただけの拳が敵に向かって打ち出されただけである。しかし打ち出された拳の直線上にいた冒険者たちは鮮血を飛ばして倒れ込む。その姿はまるで身体中を見えない刃で切り裂かれたような格好だ。


「我、光の加護を受ける者。すべてを焼き尽くせ」


 詠唱とともに振り下ろされた一太刀が魔法師に襲い掛かる多くの冒険者たちを吹き飛ばし、激しく地面に打ち付ける。たまらず冒険者たちは風属性と光属性の魔法を使った魔法師たち二人に対して一斉に魔法を行使する。


 しかし彼らの攻撃が二人の魔法師に届くことはない。


「我、光の加護受ける者。『光壁(シャイニングウォール)』」


 たった一言の詠唱だけで展開された魔方陣が二人の魔法師を守るように光りの壁を生みだして冒険者たちの攻撃を通さない。


「なんなんだ、この魔法は!」

「光の魔力なんて聞いたことがない!」


 初めて見る光属性の魔法に戸惑いを隠せない冒険者たちは目の前に立ちはだかる統一的な鎧を身にまとった二人組、いや、ちょうど三人組になった魔法師たちに蹂躙される。


「お二人さん、もっと効率よく対処してくれないかしら!」


 二人の魔法師たちの背後から現れた三人目の魔法師が両手に握る二丁のライフル型の魔装銃を冒険者に向けて構えると流れるように引き金を引いていく。


 二丁のライフル型魔装銃から撃ち出された魔力弾は雨のように冒険者たちに襲い掛かり、彼らの侵攻を食い止める。


「何を言っているんだケルヒャー。私たちはしっかりと戦っているだろう」

「そうだ! こうやって敵を引き付けて一気にぶち倒そうとしたんだ」


 お叱りを受けたケルヒャーに対して自分たちは考えての行動だと主張する二人の魔法師。


「あのね、ライト。しっかり戦ってたら二人では行動しないの。それにテンパも一気に倒すんじゃなくて敵を牽制しながら対処してくれないとこっちがヒヤヒヤするのよ」


 ライトとテンパはどこか不満そうな表情を浮かべる。


「それに私たちがこうやって話しているうちに副長は一人で残りを引き受けてるんだから、あんたたちも早く持ち場に戻りなさい」

「仕方ない」

「へいへい」

「ほら、わかったらさっさと動く!」


 ケルヒャーに注意をされたライトとテンパはすぐに自分の持ち場に戻ると、攻め入る脱魔王派の冒険者たちを相手にした。


 彼らを注意するために持ち場を離れたケルヒャーもすぐに戻り、引き続き向かってくる脱魔王派の冒険者たちに銃弾の嵐を浴びせる。


 そんな三人とは少し離れたところにいる副長と呼ばれる男は自らに向かってくる脱魔王派の冒険者たちを一瞥すると魔法を行使した。


「我、炎の加護を受ける者。災いを全て塵芥と化せ」


 副長が詠唱を終えると魔方陣が展開されたのは彼の周りではなく脱魔王派の冒険者たちの周り。正確には脱魔王派の冒険者たちの体内。


 そして次の瞬間、体内に展開された魔方陣から溢れ出すように炎の燃え上がると、彼らの肉体を内部から焼き尽くす。


 突然体内から発火したことに対する驚きと、続いて襲ってくる激痛に冒険者たちは悲鳴の声を上げた。


 不思議と体内を燃やされているのに熱さは感じない。というよりは体内から燃やされている激痛が熱さを感じさせないくらい激しいものであったと表現する方が正しいのだろう。


 体内を燃やされた冒険者たちの肉体はすぐに炭化して筋肉がボロボロと崩れ去る。そして露わになる骨が彼らに視認されると今度は精神的な痛みが襲い掛かり、彼らの意識はブラックアウトした。


 その非道な魔法を使ったのはケルヒャー、ライト、テンパの三人から副長と呼ばれるプラーミア。彼の恐ろしい点は全ての冒険者たちを燃やすのではなく、半分だけを燃やして残った冒険者にその者たちを運ばせることだ。


 前線に出た冒険者たちにどのような悲劇が起きたのかを後方に伝えるためにあえて全員は燃やさない。目の前で仲間が燃やされた惨劇を見た冒険者たちには既に戦意がなく、ただ逃げ惑うように仲間を連れて撤退する。


 しかしプラーミアの意とは反するように次々と後方から前線に送られてくる脱魔王派の冒険者たち。半ば自棄になっている彼らをプラーミアは再び燃やし、撤退させる。


 すでに戦況が膠着状態に入って三日が経とうとしているが、プラーミアたちはずっとこうして背後にそびえ立つ魔王の館を守護するように戦っていた。プラーミアたちが前進して一気に後方まで叩けば戦いはすぐに終わるのだろうが、彼らの上司であり、隊長であるシルフォーノはそれを命じない。


 魔王の館を守護する四人は詠唱から見てもレイリアの魔法師であることは容易に想像がつく。そして統一的な鎧を身にまとっていることからレイリアの組織に属する部隊と考えるのが自然だろう。さらに言えば彼らの隊長がシルフォーノであるということを考えれば、彼らの正体は自ずと見えてくる。


 レイリアの魔法師で統一的な鎧を身につけ、十三使徒の一人であるシルフォーノを隊長とする魔法師たちといえばシルフォーノの部隊の人間だ。


 聖教会十三使徒の一人バジル=エイトの部隊がバジル隊と形容されるなら、彼らはシルフォーノ隊と形容されるだろう。つまりプラーミアたちは聖教会に所属する魔法師であるのだ。


 本来、十三使徒と呼ばれる魔法師たちは序列一位であるアーサーの下に十二人の選ばれし魔法師たち、十二使徒が仕える形とされてきた。しかし何時しか人々は序列一位のアーサーと選ばれし十二使徒から十三使徒と誤認するようになった。


 だがこの誤認で生活に困るという訳でもないので誰も十三使徒の本当の形を気にしようとはしない。聖教会もわざわざ訂正しようとはしなかった。だからいつしかシルフォーノ隊の真の力も認識されなくなっていた。


 先述した通り、十三使徒の本来の形は序列一位のアーサーと十二人の使徒であるシルフォーノたちである。つまりアーサーの部下、アーサー隊はシルフォーノや序列五位のレアル、序列八位のバジルといった俗に十三使徒と呼ばれる魔法師なのだ。


 何が言いたいのかというと、プラーミアたちシルフォーノ達は実質的な聖教会の最強部隊に当たるということである。十三使徒の形を考えた時にアーサーは部隊を持たない。ならば十三使徒にならなかった最も優れた魔法師たちが配属されるのが聖教会十三使徒序列二位であるシルフォーノの下ということである。


 事実、プラーミアたちは聖教会で最強部隊と呼ばれている。さらに言えばプラーミア隊の主力四人は十三使徒の会の序列に匹敵する実力を有していると言われているのだ。序列十二位のワイズや序列十三位のナナたちよりも強いと言われている存在。


 そんな彼らがシルフォーノの命令の下、魔王の館を守護しているのだから脱魔王派の冒険者たちが返り討ちにされるのも仕方のないことだ。彼らに対抗するには脱魔王派の冒険者たちもAランク冒険者を向かわせなければならないだろう。


 しかし前線に送られる冒険者の中にAランク冒険者は一人もいなかった。もっと言えば、脱魔王派のAランク冒険者はそもそもダクリア二区に来ていなかった。


 そんなことも露知らず、プラーミアたちは攻め入る冒険者たちを駆逐する。そして戦いが始まって五日が経ったところで魔王軍側から革命軍側に三日の休戦の申し出がなされる。


 それはシルフォーノたちが革命軍の終結を待つための時間であり、彼女は一気に革命軍を壊滅させるための策であった。これに対して送り出す兵が無残な姿で返ってくる革命軍も軍勢が揃う時間として魔王側の申し出を受ける。


 しかしシルフォーノはまだ知らない。革命軍の本当の狙いを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ