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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
第8章 脱魔王派編
376/428

スパイ

 クルラによる集会が開かれたその日の夜。拠点にいる脱魔王派の冒険者たちは明朝の出立に向けて慌ただしく準備に追われていた。


 それは新人のセイヤたちも例外ではなく、必要な物資を積みこんだりと雑用の様に使われていた。けれども新人ということを考えれば彼らの扱いも自然なことだ。


「ほら新入り! さっさと運べ!」

「ちっ、うっせぇ。今やってんだろ」

「なんか言ったかぁ?」

「今やってるっていてんだよ」


 先輩から注意されたジャックが殺気のこもった目で睨み返すと、その先輩はそれ以上何も言わなくなった。ただ黙ってジャックを睨むだけだが、それ以上は干渉してこない。おそらく態度の悪い後輩として距離を置かれるのも時間の問題だろう。


「エンジ! そっちも持ってけ!」

「はい!」


 ジャックと対照的にエンジは元気の良い返事とともに次々と荷物を運んでいる。こちらは先輩から好かれるに違いない。


 こんな感じで荷造りが進んでいる革命軍の拠点。


 時を同じくして二人の人影がダクリア帝国の路地裏にあった。


「そっか、ダクリア二区に総攻撃を仕掛けるんだ」

「はい。それに伴い私たちも明朝にはダクリア二区に向かいます」

「大変そうだね」


 声から判別するに、男と女だ。


 路地裏で対面するわけでもなく、姿を見せることもしない二人はまるでスパイから情報を伝えられるようであった。いや、実際にスパイから情報を聞いていた。


「それで君はどうすればいいと思う?」

「私の意見を述べても?」

「いいよ。私は現場の声を大切にする主義だから」

「正直に申し上げるなら、ダクリア二区に援軍を送るべきでしょう」

「どうして?」

「新たな魔王であるフォーノ様の実力は存じませんが、脱魔王派の冒険者たちが集まるとなれば苦戦を強いられるかもしれません」


 報告を受ける女性が興味深く返す。


「潜入前はそこまで警戒してなかったよね?」

「はい」

「潜入して変わったと?」

「そうです。脱魔王派の冒険者たちのレベルは魔王様ならば問題なく対処できると思います。しかし全勢力が集合するとなると、数の暴力に耐え兼ねるかと」


 いくら強者がいても無数の弱者が集まれば敗れることはある。彼らが呼称する革命軍の革命とはまさにその様子を現したものだ。


「そうだね。もし本当に全勢力が集まるならフォーノも厳しいと思う」

「もしや偽りだと?」

「わからない。でも全勢力が二区に集まるって聞いたら他の魔王たちも呼ばれるのは確実だよね。そうなった時に狙うとしたらどっちになると思う?」

「それは……」


 言葉に詰まる男。もしそのような状況になれば魔王不在の場所を狙った方が得策だろう。


「ですが、それでは今支部で荷造りをしている彼らは囮だと? 私の残してきた分身も休む間もなく働いております」

「うーん、いまいち脱魔王派の動きが読めないよね。仮にその話が本当ならこっちも援軍を出さなきゃいけないけど、もしその情報が嘘ならそっちの対策をしなきゃいけない」


 考えるそぶりを見せて困ったという表情を浮かべる女性。その表情には逼迫した様子はない。


「どうしようか」

「現在ダクリア二区にはどれほどの戦力が?」

「こっちもそれなりに援軍を出してるよ。すぐに終わらない程度に」


 その言葉に安堵を覚える男。女性の口調からするに戦況はコントロールできているということなのだろう。


「ただ敵は一人とは限らない」

「まさか他勢力が介入してくると?」

「そういう話もあるのは事実。むしろそっちの方が警戒すべきかな」


 この時、男の脳内に浮かんだのは冒険者組合。彼らもまた魔王を疎く思っている一派ではある。


「あの、大魔王ルシファー様はどうお考えでいるのでしょうか?」

「あー、今何してるんだろ。今度聞いてみなきゃ」

「それはどういう……?」


 まるでバカンスにいっていつ帰ってくるかわからないみたいなフランクさに戸惑う男だが、女性の方はまったく気にしていない。


「まあ言っちゃうとね、全勢力が集まる話が嘘にせよ本当にせよ、魔王軍が負けることはあり得ない。それだけの準備と用意がこっちにはあるからね。だから君は気にせず潜入を続けてよ」

「はい」


 女性の言葉に安堵する男性。彼女がそこまで言うというなら間違いないという確信が男にはあった。ただ彼には気がかりが一つある。


「それと別件なのですが……」

「あー、あの新人の件?」

「はい。私以外にも三人の冒険者が入ったのですが、彼らは一体どこの勢力の人間なのか気になりまして」


 この時すでに男は他の三人もどこかの勢力から潜入しているのではないかと考えていた。


「特にジェイと名乗る剣士は危険な存在です」

「ジェイね……」


 聞いたことのない名前に困った表情をする女性。


「実はそっちの方は調査が進まないんだよね。闇属性を使う剣士だけじゃ調べようがないし、どこかの組織に所属してるなら尚更尻尾は掴ませてくれないと思う」

「はい……」

「でも調査は継続する。他の二人も合わせて。だから君は引き続き潜入を続けて、生きてもどることを命令するよ」

「承知しました。サールナリン様」


 雲に隠れていた突きが姿を現し、路地裏の陰に月光を差し込む。露わになったのはダクリア四区の魔王にして白金等級の冒険者としても知られるサーリンこと、サールナリン=レヴィアタン。


 その男の雇い主は魔王サールナリン=レヴィアタンであった。



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