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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
第8章 脱魔王派編
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 とある日の夜、セイヤは自室に備え付けられたベッドに横たわっていた。頭の後ろで手を組みながら暗闇の天井ずじっと見つめる。


 ベッドの下からは元気ないびき声が聞こえ、声の主であるエンジが熟睡していることがうかがえる。


 セイヤがいるのは脱魔王派の冒険者たちが仮住まいしている借家の一室。チームごとに部屋割りがされているため、セイヤの部屋には同じくチームであるエンジ、デンシル、ジャックの三人がいた。


 部屋には備え付けの二段ベッドが二つ置かれており、一部屋で四人が生活できるようになっている。


 すでに消灯してから時間が経っているため、ルームメイトであるデンシルやジャックも眠りについているのだろうと考えたセイヤは彼らを起こさないように思慮にふける。


(勢いで潜入したわけだが、目下課題は山積みだ……)


 セイヤが脱魔王派に潜入した目的は今後脱魔王派に接触してくると予想されるレイリアの特級魔法師《天使》ミカエラに対処するためである。けれどもミカエラが接触してくるのはあくまで予想であり、確定情報ではない。


 その点を承知しても今回の潜入はセイヤにとって損にはならない。


 なぜならこの革命軍にはダクリアだけが関わっているわけではないから。以前セイヤは脱魔王派の連中とひと悶着あった際に、革命軍の中にレイリアの人間がいることを知った。それは脱魔王派の冒険者たちにセイヤが拉致られて支部長と呼ばれる人間にあった時だ。


 その支部長は精神支配系の魔法を使っていたが、その精神支配は光属性に分類されるレイリアの魔法である。そのほかにもダクリアの人間に無理やり光属性を使わせようとした事例も見た。


 光属性に分類される精神支配の魔法で有名な魔法師といえばレイリアで特級魔法師の地位についているある魔法師。おそらくこのことは聖教会も特級魔法師協会も把握していないことだろう。


 もし特級魔法師協会でそのことを察知していたら今回の潜入の目的が根本から変わる。特級魔法師協会は協会という体裁をとっているものの、実際は聖教会が支配しきれない荒くれ者たちを集めただけの機関だ。その目的も手段も各人によって異なる。


 いざという時はレイリアを守ることさえ確信しきれない魔法師だって存在する。彼らが真に求める者は己の地位や名声のみで、それ以外のことはどうでもいい。


 そういう魔法師が裏でダクリアに手を出していたことに関して驚くべきではない。むしろ今回の一件で他の特級魔法師もダクリアと繋がっている可能性を考えた方がいいだろう。


 現にライガーは魔王サタンであるギラネルと繋がっていた。この世界はもうレイリアとダクリアという二つの世界で区別することさえもままならない状況まできているのだ。


 おそらく件の特級魔法師が脱魔王派に目を付けた理由は一番脆かったからだろう。魔王制度を筆頭に盤石な基盤を持つ魔王派、魔王派まではいかなくとも冒険者組合という独自の機関を持つ反魔王派。これらに対して安定した基盤を持たない脱魔王派は外から手を付けるにはこれ以上はない好条件な一派である。


 特に光属性というダクリアでは珍しい魔法を手土産にすれば受け入れられる可能性は高い。もしかすると件の特級魔法師は脱魔王派を台頭させることでダクリアを乗っ取ろうとしていたのかもしれない。そしてダクリアを乗っ取った暁にはその軍事力を駆使してレイリアとダクリアの全面戦争を仕掛けた可能性だってある。


 そう考えると、ここで脱魔王派の実態を掴んでおくことは得にはなっても損にはならないだろう。


「寝ないのか?」


 セイヤがそんなことを考えていると、隣からセイヤに話しかける声が聞こえた。セイヤたちとは違うベッドで寝るのはデンシルとジャック。そして二段目に寝ているのはジャックだ。


「起こしちゃったか?」

「いや、俺は元々夜に寝ない」

「そうなのか?」


 夜に寝ないということは昼に寝ているのだろうか。だがジャックが昼に寝ている姿を見ていないセイヤは疑問に思う。


「夜は俺みたいな人間が過ごすに適しているからな」

「まるで闇の人間だな」

「闇属性を使う俺には夜の方がお似合いってことだ」

「そうかもな」


 ジャックの言葉に心の中で納得するセイヤ。セイヤも闇属性を使う魔法師だから昼よりも夜の方が目立ちにくいという実感があった。


 だがセイヤのその言葉は完全に失言であった。


「やはりお前も闇属性を使うのか」

「どういう意味だ?」

「今の質問の答えだ。この感覚は闇属性を使う人間にしかわからない」


 しまった。セイヤは心の中で自分の愚行を後悔するが、今更後悔したところで遅かった。


「別に使うことができるってだけで使えるって訳じゃない」

「お前が闇属性を使えるのは詠唱を消している時点でわかっている。俺が言いたいのはそれ以外だ」


 ジャックはセイヤが闇属性を使いこなしていると確信している様子だ。できることならセイヤは闇属性について隠していたかったが、ここまで来ては隠し通せない。


 セイヤは覚悟を決めて話す。


「ご明察だ、ジェイ。俺は闇属性も使える」

「ならあの時の消滅もお前のか」


 あの時というのが採用試験での最後の出来事を指していることなど考えなくともわかる。暴発寸前だったデンシルの魔力を消滅させた正体不明の闇属性。


「そうだ。あの時は咄嗟だったから力を使ってしまった」

「まるで闇の力は悪みたいな言い方だな」

「俺にとってはな」


 ジャックに対して闇属性を隠しきれないと考えたセイヤは隠すのではなく、誤魔化す方針にした。


「俺はこの力をあまり使いたくないんだ。この力は両親を消した魔法と同じだから」


 まったくの偽りであるが、セイヤの出生について何も知らないジャックはそれ以上のことは聞こうとしなかった。というよりもジャックにしてみればセイヤの出自や闇属性を使わない理由なんてどうでもよかった。


 ジャックはただセイヤが闇属性を使えることだけ知れれば満足だったのだ。


「なあ、ジェイ。俺も聞いていいか?」

「勝手にしろ」

「なんでジェイは革命軍に志願した?」

「別に。気分だ」


 ジャックの答えが嘘だということはセイヤにもわかった。むしろジャックは今回の潜入任務には乗り気ではなく、できることなら個人的に墓荒らしと対峙したいと思っていた。


「なら、今まで何人殺してきた?」


 その質問は暗闇の部屋の中でするにはあまりに物騒な話だが、セイヤには聞かずにはいられなかった。


「なぜだ?」

「さっきのお返しだ」


 自分にかまをかけたことに対する仕返しだと答えたセイヤ。


「さあな」

「そうか。ならいい」


 ジャックが答えないのを確認すると、セイヤはゆっくりと目を閉じた。もうこれ以上詮索し合うのは互いのためにならないと察したから。


 セイヤがそれ以上の追及をしないと確信したジャックは瞼を閉じたセイヤにつぶやく。


「せいぜいお前も俺に殺されないように警戒しとくんだな」


 その言葉を最後にセイヤは意識を闇に落とした。

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