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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
第8章 脱魔王派編
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新チーム

「前方より敵集団三頭確認。準備は出来ているか」

「ああ」


 セイヤの問いかけに最初に反応を示したのはジャック。小高い丘の上で戦況の全体を見渡しているセイヤは視界にジャックの姿を捉えると更なる指示を出す。


「作戦通りまずはこちらにおびき出してくれ、ジェイ」

「わかっている。だが……」


 セイヤの指示に対して何かを言いたげな様子のジャックだが、彼が何を言おうとしていたのかセイヤと、セイヤの隣に立つデンシルは理解していた。


 彼らが今いるのはダクリア帝国から東に数キル離れた暗黒領の更地。赤土が主に占めるその場所でセイヤたち新人が課せられた任務は魔獣の捕獲。


 任務のレベル自体はCランク冒険者が請け負うほどの低レベルな仕事であるが、今回の任務の目的は仕事の遂行というよりは新人たちの歓迎会の意味合いが強い。そのためセイヤたちに課された任務は四人で協力して仕事を完遂すること。


 一人一人の実力であれば単体で乗り込んだ方が効率的なのは間違いないが、これからともに活動していく仲間とここでチームワークを築こうという思惑が裏に存在している。


 当のセイヤたちも上からの指示の意味を理解しているためにこうして密に連絡を取り合いながらこちらに向かって走ってくる三頭のダチョウの魔獣を視界にとらえる。


 セイヤたちが任された仕事の内容はダチョウの魔獣の捕獲であり、具体的に何頭捕まえればいいかは伝えられていない。しかし目の前に三頭がいて一頭しか捕まえない消極的な冒険者はこの中にはいなかった。


 小高い丘の上で遠距離からの攻撃及び支援を任されているセイヤとデンシルはもうすぐダチョウの魔獣の群れと遭遇する前衛の二人に向かって新たな指示を出す。


「こちらミズチ。まずは敵に逃げられないようにデンシルの魔法で周囲を囲むから予定地点までの誘導を頼む」

「こちらジェイ。理解した」

「こちらエンジ! 俺が丸焼きにするから任せろ!」


 セイヤの指示に対して的外れな答えを返したのはエンジ。彼も脱魔王派採用試験で相手方が用意したハマスという実力者に善戦していた実力者なのだが、今回の作戦に置いては全くといっていいほど機能していない。


 本当は前衛の二人もギリギリまで姿を隠す作戦を立てていたというのに、現場に着くなりエンジがいきなり火炎魔法を行使して地面に大きな穴を作った。本人曰く落とし穴を作ったそうなのだが、魔法を行使した際に生じた爆音で対象の魔獣たちが逃げてしまった。


 逃げてしまった魔獣をどうやって落とし穴に誘導するのか疑問に思った一同だが、エンジもそこまで考えていなかったらしく、どうしようもないことになった。


 つまり今は二回目の作戦という訳だ。


「おい、あの馬鹿をどうにかしろ」

「ジェイ、君の魔法でエンジの魔法を消滅させることはできるか?」

「あ? 可能なだが、そんなことをしたらあの馬鹿はもっと躍起になるぞ」

「それでいい。だからジェイはひたすらエンジの魔法を消滅し続けてくれ。こちらからもミズチがジェイのことを援護する」


 ジャックに対して指示を出すデンシル。


「なら仕事の方はどうする?」

「俺が一人でやるから問題ない」

「それじゃ今回の仕事の意図が達成されないだろ」

「仕方がない。一名の愚行でチームが危機に瀕するなら、その愚行を止めるのが先だ」

「どうなっても知らんぞ」

「殺さなければ構わないと言われているんだ。問題ない」

「ちっ、わかったよ」


 この時、ジャックとデンシルの間には大きな齟齬が生じていた。デンシルの言った殺さなければいいというのは標的である魔獣に関してだ。捕獲任務なのだから殺してしまうのはいけないだろう。


 それに対してジャックが殺さなくていいと認識したのはエンジ。既に前衛で一度のポカをやらかしているエンジに対してジャックは怒りを覚えていた。ジャックは暗部の仕事を一度で成功させてきた実力者であり、任務失敗は一度もない。


 そんなジャックにとって今回のエンジは邪魔でしかなく、殺すまではいかなくとも半殺しにはしなきゃ気が済まないというのが本音だった。


「デンシル、本当に一人でいいのか?」

「構わない。それよりもミズチはジェイの援護を頼む」

「わかった」


 デンシルに確認をとったセイヤは左手に青い魔方陣を展開させると、水で弓を形作るって固定させる。そして右手には同じように水で形作った矢を掴み、空に向かって弓矢を構える。


「魔獣との接触までどれくらい稼げばいい?」

「三分もあれば十分だ」

「わかった」


 そう答えたセイヤは空に向かって水の矢を放つ。


 セイヤの手から放たれた水の矢は空高く飛んでいき、ちょうどエンジのいる辺りで矢は弾け飛ぶ。頭上で何かが弾け飛んだことに気づいたエンジはすぐに空を見上げる。するとエンジの頬の水滴が落ちていき、その威力は次第に増していく。


 小粒の水が段々と大粒になっていき、その勢いもどんどん強くなっていく。まるでゲリラ豪雨のような局地的な豪雨がエンジの身に襲い掛かった。


「こちらエンジ、突然の豪雨によって炎の威力が弱まってしまう」

「本当か?」

「ああ。まるで沈静の魔法をかけられている感じだ」

「わかった。では無理をせずに標的はこちらに任せろ」


 エンジに新たな指示を出したセイヤだが、もちろんこの雨を降らせているのはセイヤである。セイヤはエンジの頭上に水属性の魔法を行使して彼の魔力を沈静させたのだ。


「大丈夫だ! 当初の作戦通り俺が全て丸焼きにする!}

「は?」

「いや、これくらいの雨じゃ俺の炎は消えない!」


 エンジの答えを聞いたセイヤとデンシルはつい頭を抱えたくなる。この場合、エンジのポジティブさを褒めるべきなのだろうか、それとも知能の低さを責めるべきなのかわからない。


 ただ一つ言えることがあるとすればこのチームの問題児はエンジであるということだ。


「ジェイ。あの馬鹿を消せ」

「了解」


 前衛にいたジャックがエンジの展開する全ての魔法陣を逃すことなく消滅させていく。


「至急、至急、こちらエイジ! 展開した魔法陣が何者かによって消滅させられた。気を付けろ、標的の魔獣は闇属性の魔法を使う!」

「わかった。ではエイジは引き続き魔法での援護を頼む」

「了解! この俺に任せろ!」


 どこまでこの馬鹿はポジティブなのだろうか気になる一同であったが、ずっと相手にしているわけにもいかないので本来の仕事に集中する。


「ジェイ、引き続きその馬鹿を足止めしておいてくれ。ミズチも沈静化を強めてあの馬鹿の元気をおさめるんだ」

「わかった」

「しょうがない」


 こうしてセイヤたち脱魔王派の新チームは仲間に苦戦しながらも初仕事を無事に終えることに成功した。結局魔獣を捕獲したのはデンシル一人であったが、仲間で協力したということに違いはないだろう。


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