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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
番外編 事件は現場以外でも起きている
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番外編Ⅱ 第1話 聖教会から(上)

 レイリア王国の中央王国にある首都ラインッツに、この国の中心の聖教会がある。


 聖教会は首都ラインッツのある中央王国を中心に、フレスタン、ウィンディスタン、アクエリスタンにある教会を管理し、日々この国の平和を守っている機関だ。


 聖教会のトップには数十年前までリーナ=マリアという女神がいたが、現在は失踪中のため、彼女の七人の部下であった者たちが、七賢人として聖教会のトップに立っている。


 現在の七賢人は数十年前にできたメンバーとは多少異なり、当時のメンバーのうち、四人が死亡したため、補充として四人を加えたのが現在の聖教会だ。


 そして七賢人の下には、十三使徒と呼ばれる者たちが存在している。


 十三使徒とは、レイリア王国各地から集められた優秀な魔法師のことで、全部で十三人おり、各地の魔法師一族も聖教会の十三使徒になると言われれば、たとえ長男であろうと、固有魔法を使えようとも、喜んで聖教会へと送り出す。


 それほどまで、十三使徒は名誉がある称号なのだ。


 そして十三使徒はそれぞれ自分の部隊を持っており、問題が発生すると、自分の部隊から隊員を出して問題解決に当たる。もし、隊員だけでは対処不可能の場合は、自らが出動することもありうる。


 このような仕組みで、聖教会はリーナ=マリア失踪後から、特に問題なく、この国を治めていた。


 そんな聖教会の三階にある部屋、第八会議室に二人の男の姿があった。


 片方の男は銀色の長い髪を持つ整った顔の男で、椅子に座りながら、もう片方の男の話を聞いている。


 もう一人の男は、茶色い短髪をした強気そうな男で、腰には剣を差しており、座っている男と話していた。


 二人の男は若く、容姿は二十代前半と言ったところだ。しかし彼らの顔は若者にしてはどこか厳しく、切迫した状況だということがわかる。


 「隊長は今回の件、どう思いますか?」

 「お前はどう思っているのだ?」

 「私は不自然かと」

 「ほう……どんなところが?」


 銀髪の男にそう聞かれた茶髪の男が、そう考える根拠を話す。


 「はい、まず犯人です。犯人は中央王国ではないものの、レイリア王国各地で人攫いをしています。中央王国は警備が厳しいのでわかりますが、それにしたって範囲が広すぎます。拠点が一つじゃないとしても、移動のリスクが高すぎです」

 「確かにな」


 二人が話していることは、ここ最近多発している無差別誘拐についてだ。


 各地で人が攫われる事態となっており、聖教会も異常事態だと判断して、調査に乗り出していた事件である。


 「それに攫われたのが魔法師と少女です。魔法師は傭兵として使うのはわかりますが、少女は一体何に使うのでしょか?」

 「グリスの言う通り、私も同感だ。犯人の明確な狙いがわからない」


 銀髪の男は、部下であるグリス=グレイリアにそう答えた。


 グリスは聖教会に所属する上級魔法師であり、火属性魔法を得意とする実戦部隊の隊長だ。


 そして銀髪の男もまた、グリスと同じように考えており、この事件を不審に思っている。


 「隊長も、でしたか。もしかしたら犯人は少女を売って、その資金で拉致した魔法師を運んでいるのではないでは?」

 「ああ、それも考えたのだが……ありえないだろうな」

 「身代金の要求がないということですね」

 「そうだ」


 グリスと一緒に悩む銀髪の男の名前はバジル=エイト。


 彼こそ、聖教会に所属する魔法師であり、この国に十三人しかいない聖教会十三使徒の一人で、序列八位に位置する男だ。


 ちなみにバジル=エイトという名前は本名ではなく、彼の本名はバジル=ナーベリアという。


 バジルはグリス同様、上級魔法師一族であり、グリスの所属する部隊のトップを務めている。


 なぜ名前が変わったのかというと、十三使徒は、十三使徒になると同時に家名を捨て、十三使徒内での序列の数を付ける風習がある。


 なので、バジルの場合、十三使徒内での序列は八番目なので、エイトとなるのだ。


 氷属性を得意とするバジルの出身はアクエリスタン地方の街であり、彼が十三使徒に選ばれたのは今から五年前だ。


 当時十八の頃だったバジルは、当初、十三使徒になることに前向きでなかった。しかし彼の家であるナーベリア家が強く後押しをしたため、渋々十三使徒になったのである。


 だが十三使徒になったバジルは、当初のやる気のなさが嘘のように、今まで以上に鍛錬をするようになった。


 その理由は七賢人からもたらされたこの国の真実。


 十三使徒は、七賢人から十三使徒になると認められたと同時に、ダクリア大帝国や闇属性魔法の存在を教えられる。


 そして、ダクリア大帝国とレイリア王国との間に戦争が起きるかもしれないという可能性も知らされる。バジルはその事実を知り、今まで以上に鍛錬するようなったのだ。


 レイリア王国の外について知っている存在は、七賢人と十三使徒、あとは少数の魔法師達だけ。そのため、バジルは腹心の部下であるグリスにも、ダクリアのことは教えていない。


 バジルの中で不安がよぎる。


 それはもしかしたら、今回の事件にダクリアが絡んでいるのではないかということ。そう考えたら、バジルは不安で仕方がなかった。


 そんなことを考えているバジルに、グリスが言う。


 「身代金要求がないってことは、拉致された全員を運んでいるってことですよね?」

 「そうなるな」

 「でもそうすると、各地の検問所に荷物の確認をされるはずですよね?」

 「そうしたら被害者が検問所で騒ぎ出すだろうな」

 「そうですよね」


 村から村、街から街、地方から地方など、レイリア王国では移動の際に必ずと言っていいほど荷物検査をされる。それは違法物の密売や、固有魔法の流出を防ぐためであり、検査を回避することは不可能に近い。


 「となると、移動手段や本拠地は各地にあるということになるな」

 「はい」

 「だが、各地の教会からは報告が上がってない」

 「どういうことでしょうか?」


 犯行の大胆さや規模を考えれば、犯人たちの数の多さもわかる。そして犯人の人数が多いという事は、つまり犯人たちの拠点もそれなりに大きいか、かなりの数があることをさす。


 当然、規模が大きくなれば大きくなるほど、犯人たちに関する情報が見つかってもいいはずだ。けれども、今回の犯人はまるで幽霊かのように、その姿がつかめない。


 「わからんが、一つだけ今の条件にクリアする方法がある」

 「そんな方法が?」

 「暗黒領だ」

 「隊長、それはいくらなんでも……」


 バジルの口にした言葉に、グリスが苦笑いを浮かべながら否定する。


 なぜなら暗黒領は普通の人間が出るのも難しいというのに、犯罪組織が暗黒領に出ることができるわけもないから。


 それに暗黒領は魔獣の住処だ。犯人たちもそこまで馬鹿ではないだろう。グリスはそう思った。


 「犯人は拉致した後、暗黒領に出て、暗黒領にある本拠地へと移動した」

 「確かにそれならさっきの条件をクリアしていますが、暗黒領には魔獣がいます。その魔獣を倒せないとすぐに壊滅しますよ」

 「もし、魔獣を倒せるとしたら?」

 「まさか……隊長は魔法師が黒幕だと……」

 「あぁ、それも上級魔法師以上だ」

 「まさか……」


 バジルのとんでもない推理に言葉を失うグリス。


 確かにバジルの言った方法なら今の状態も説明できる。


 見つからない拠点、それが暗黒領にあったら見つかるわけがない。それに上級魔法師一族ともなれば、荷物検査もザルになるはずだ。


 けれども、それは到底信じられるものではなかった。


 「上級魔法師一族ならこの近辺の魔獣など容易い」

 「確かに上級魔法師一族なら暗黒領に出る際も、門番に魔獣討伐と言えば、荷台の確認などもなく暗黒領に出られますが。いったいどこの魔法師一族が……」

 「どこまでかはわからないが、その可能性が高いと俺は思う」

 「この話は上には?」

 「いや、まだ二人だけで留めておこう」

 「わかりました」


 二人は神妙な顔つきで会議室にいると、一人の男が急いで入ってきた。ノックもせずに入ってきた男に対してグリスが怒る。


 「貴様! ノックもせずに入ってくるとは何様だ?」

 「す、すいません」


 ノックもせずに入って来た男は謝罪しながらも、二人につい先ほど届いた情報を伝える。


 「さ、先ほど、ウィンディスタンの教会から連絡がありまして、人攫いの犯人が捕まったと」

 「なに?」

 「それは本当のことなのか?」

 「はい!」


 なんとも言えないタイミングで届いた速報に二人は驚く。


 しかし二人とも優秀な魔法師だ。すぐに切り替えて、詳しい情報を聞く。


 「お前の名前は?」

 「ビーンです」

 「ビーン、お前は今すぐにウィンディスタンの教会に行って連絡してくれ。今からバジルが向かうと」

 「わかりました」


 バジルが命令すると、ビーンは急いでウィンディスタンに向う。


 部屋から出て行くビーンを見送り、部屋に残った二人は真剣な顔で話し始めた。


 「グリス、今すぐに私たちもウィンディスタンに向かう」

 「わかりました。部隊はどのように?」

 「まだ事件が終わっていないとわかっているようだな。部隊はグリスと各部隊長だけを集めろ。それだけでいい」

 「残りは向こうで集めるのですね?」

 「そうだ」


 二人はすぐにウィンディスタンに向かう準備をするのであった。


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