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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
第8章 脱魔王派編
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カクヨムに追いつけ

 デンシルが指で模した拳銃を二発撃った直後、ジャックは再び自身の周囲に何かが生じるのを感じる。そこでジャックが選んだ手段は闇属性の魔法を行使するのではなく、右手に握る剣を構えること。


「ほう」


 ジャックの行動に感心したような様子を見せるデンシルはジャックのことを注視する。一方のジャックは構えた普通の剣に闇属性の魔力を纏わせると自らを基軸として剣を閃かす。その結果闇属性の魔力が乗った斬撃がジャックの周囲に撃ち出され、彼の周囲に発生した何かを一瞬にして打ち払う。


 その何かは斬撃に襲われた衝撃で爆発し、その爆風がジャックの頬を撫でた。ジャックは右手に握る剣に闇属性の魔力を纏わせたままデンシルの方を見る。デンシルはジャックの対処を称賛するように拍手を送った。


「まさか二発目で完全に対処されるとは思わなかった」

「タネさえわかればてめぇの技なんて恐れる必要はない」

「並の冒険者なら一手目で動揺し、二手目はさらに悪手を打つんだが」

「俺はそこら辺の雑魚と一緒にするな」


 ジャックは冒険者組合の暗部に所属する人間であり、彼が積んできた経験は並の冒険者とは比較するのも馬鹿馬鹿しいだろう。


「なるほど、ジェイはかなりできるようだ。だがその年でそれほどの実力を持つには並大抵の経験じゃ敵わないだろう。ジェイ、君は一体何者なんだ?」

「通りすがりの冒険者だ」

「ふむ、覚えておこう」


 ここに来てもまだ自分が優位だと思い込むデンシルに対してジャックは一切の苛立ちを覚えていない。正確には苛立つことをやめたのだ。


 ジャックはデンシルが雑魚ではないと認めることを始めた。そして自分の手で処分すべき標的として認識を改めたのだ。


 デンシルのことを認めたが故にジャックはこの場で出せる限りの本気でデンシルのことを討とうとしている。一方のデンシルもジャックの纏う空気が変わったことに気づき、気を引き締めている様子だ。


「来ないならこっちから行くぜ」

「たまには譲ってやる」

「そりゃどうも」


 次の瞬間、ジャックの姿が積み荷の上から消える。いや、実際は積み荷の上からデンシルの方に向かって跳躍したのだが、予備動作の一切を感じさせないジャックの技量の所為でジャックが消えたと錯覚したのだ。


 デンシルもジャックの技量についていけず、ジャックのことを見逃してしまった。けれどもジャックの狙いが分かっている以上、デンシルは必要以上の警戒をしない。


 彼の狙いは間違いなく自分の首。なら自信を守るバリアを作ればいい。同時に自信を守るバリアの外にジャックを感知すれば爆発する罠を仕掛けておけば恐れる必要はないだろう。


 デンシルはそう考えてすぐに実行する。が、それよりも先にジャックの剣先がデンシルの首元を掠めた。


 気づけたのはジャックの姿が見えたわけでも、ジャックの殺気を感じたわけでもない。ただ一瞬、ほんの一瞬だけ異様な悪寒を感じてデンシルは重心を僅かに後ろにずらした。それが功を奏してジャックの剣を寸前のところで回避できたデンシルの表情は驚きと恐怖に包まれていた。


 ジャックの攻撃には全くといっていいほど殺気がなかった。まるで人を殺めることが呼吸と同じくらい身近で自然な事では無ければ殺気を隠しながら命を狙うことはできないだろう。戦いの世界に身を置き始めた頃は殺気で相手を怯ませることを目指していたが、ある日を境に殺気を消すことの方が有意であると知る人間は少なくない。


 そしてデンシルもその中の一人だった。だから彼はジャックがすぐに異様な存在だと理解し、彼が余裕どころか息をつく間も与えてくれない人間だと痛感する。


(これほどまで殺気を隠す技術を持った人間はそう多くはない……。ジェイ、お前も俺と同じ……)


 心の中でジャックの正体にたどり着こうとしたデンシルであったが、その思考は次の刹那には霧散する。寸前のところで回避したはずのジャックの剣だが、剣が纏う紫色の魔力だけが形を僅かに変えてデンシルの首に迫ろうとしていた。


「致し方ない……」


 防御するのでは間に合わないと踏んだデンシルは自身とジャックの間の空間に魔法を行使する。コンマ数秒の世界で構築した魔法陣はとても脆く、もはや魔法陣ともいえないような代物だがそれでいい。壊れかけの魔法陣が崩れると、そこにあった魔力が分散して一斉に広がる。結果として魔法ともいえない魔力の暴発が二人の間で生じるが、それがジャックとデンシルの二人を引き離すことなった。


 辛うじてジャックの攻撃から身を守ったデンシルであるが、自身で発生させた魔力の暴発によって負ったダメージは少なくない。逆にジャックの方は自身に降りかかる魔力を闇属性の魔力で消滅させたために傷はほとんどなかった。


「随分と驚いているみたいだな」

「当たり前だろ。今の君はあれほど素早く動けるはずがない」

「いつまで俺が三半規管に頼っていると錯覚していた」

「なに?」


 ジャックの言葉に耳を疑ったデンシル。その表情には余裕といえるものは感じられなかった。


「てめぇの能力は空気中の密度を操って疑似的な爆弾を作り出すもの。だがそれでは攻撃力が劣るためにお前は最初に人間の可聴域を超えた音域の音爆弾を使って対象の三半規管を狂わせるんだろ?」

「ご明察」


 デンシルの能力は大気中の密度の操作だ。大気中の一部の密度を急激に上げて一か所に圧力を収束させ、それを一気に解き放つことで透明な爆弾を作り出していた。


 そして最初の一手でジャックが闇属性の魔法を使ったにもかかわらず全ての爆弾を消滅させられなかったのは、ジャックの三半規管がすでに狂わされていて認識した爆弾の発生源と実際に行使した闇属性の範囲が微妙にズレていたためだ。


 だからジャックは二手目の攻撃の際に発生源を一個一個狙うのではなく、闇属性の魔力を乗せた斬撃で周囲のものすべてを処理したのだ。


 けれども問題はそれではない。ジャックが周囲の爆弾を斬撃で処理したことは驚くべき判断力だが予想外の行為ではない。むしろ予想外だったのはジャックがあんなにも素早く動けたということである。


 反撃の際にジャックの狙いが分かっていたデンシルは自身を中心とした防御魔法を行使したにもかかわらず、その時ジャックの身体は既にデンシルの至近距離にあり、彼の握る剣の剣先は正確にデンシルの首を狩ろうとしていた。


 これは三半規管が狂わされている人間にできる芸当ではないはずだ。どうしてジャックがあれほどの速度で動いていたにも関わらず、正確に動けていたのかデンシルにはわからない。まるで三半規管が乱れていないような動きであったが、ジャックの口ぶりからするに三半規管が乱れていることは間違いないだろう。


 デンシルの疑問がより一層深まった。

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