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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
第8章 脱魔王派編
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今日だけで5話書いた。疲れた。

 積み荷の上で胸から大量の血を流して倒れる少女を見下すように立っているジャックに動転した色は見えない。なぜならこの少女の胸に剣を刺してこのような状態にしたのは紛れもないジャックなのだから。


 ジャックはまだ辛うじて息のある少女に最後の一手を下そうとした。


 冒険者組合暗部に所属するジャックが生きてきた世界はまさに裏の世界。そこでは殺しも日常茶飯事の出来事であり、命を懸けた戦いは呼吸と同じくらい身近な行為である。だからジャックに人を殺めることに対する忌避は皆無だ。


 そうしたジャックの行為を見て脱魔王派の冒険者たちの中にも止めるべきではと意見する者がいたが、試験を仕切っている大柄の男に中断する意思はない。


 彼らも日々戦いに身を置く冒険者であり、仲間が死ぬ瞬間も嫌というほど見てきた。彼らの仲間になると望んだ以上、命の危険は隣りあわせだ。それにここで人を殺せないようでは後々その甘さが命取りになるかもしれない。


 だから大柄の男はジャックのことを止めようとはしない。少女の犠牲は彼らの今後の活動において必要な犠牲だったと割り切るしかないのだ。


 今にも右手に握る剣を振り下ろそうとしたその刹那、ジャックは自分の周囲に何かが生じるのを感じた。ジャックが周囲に違和感を覚えるのと闇属性の魔法を行使するはほぼ同時だった。


 普段から殺し合いに身を置いているジャックだからこそ違和感を覚えると同時に魔法を行使できたのかもしれない。ただ今はそんなことを気にしている余裕はない。ジャックは自分の周囲に発生した何かを消滅させると攻撃してきた冒険者を探す。


 その主はすぐに見つかった。ジャックの立つ積み荷の下に立つ男だ。ジャックやセイヤと同じくらいの歳に見えるが、纏う雰囲気は随分と大人っぽいその男は積み荷の上に立つジャックのことを見据えている。


「暇なんで少し俺の相手をしてもらおうか」

「自殺願望者なら大歓迎だぜ」

「悪いが俺に自殺願望はない」

「ならすぐに自殺願望を抱かせてやるよ」


 高らかに笑ったジャックは右手に握る剣を男に向かって振り下ろす。ジャックの剣から生みだされた斬撃が襲い掛かるが、男に焦った様子はない。ただ男が何かをつぶやいた直後、ジャックの斬撃は突然軌道を変えて何もない方向へと飛んでいく。


「いきなり攻撃するとは無粋だな」

「律儀に自己紹介でもしろというのか」

「そうだ。どうせ殺し合うなら互いのことを少しくらいは知りたいとは思わないか? 後々の武勇のために」


 男の言い草はまるで自分の勝利が確定しているように感じられる。確かに自分が敗北すると確信して戦に挑む者は少ないだろうが、それにしても男の余裕は目に余る。


「俺の名前を知りたければ、まずはお前が名乗るのは筋ってもんだろ」

「これは失礼した。俺はデンシル、君を倒す男の名前だ。さあ今度は君の番だ」

「ちっ。俺はジェイ」


 潜入のためにこの採用試験を受けているジャックは本名を語るなどという馬鹿な真似はしない。ジェイというのは今回ジャックが使う偽名である。


 ジャックは潜入前からこの名前を使うことを決めており、突然名前を呼ばれても反応できる程度に訓練を積んでいる。


 一方のデンシルはジャックが偽名を使っているとは露知らず、ジェイという名前を聞いて満足した様子で応えた。


「なるほど。では、さようなら」


 そう言うとデンシルは右手を拳銃のような形にしてジャックに向かって構える。その行為はまるで小さな子供のごっこ遊びのようにも思えるが、もちろんそのようなことはない。


 デンシルが指で形作った銃を構えてジャックに向かって一発発砲する。その行為自体に魔法的要素は皆無のはずだが、ジャックは自身の周囲に再び何かが生じたことを感じ取る。それと同時にジャックは再び闇属性の魔法を行使して周囲の何かを対処しようと試みた。


「ちっ」


 だが今度の攻撃は一度の闇属性の魔法では消滅させることができなかった。ジャックは周りに生じた何かは闇属性の魔法で七割程度の消滅を確認するが、まだ三割程度残っていることに気づくと魔法での対処を諦めて右手に握る剣で対処を選択した。


 ジャックが剣を振って対処すると、その何かは明後日の方向に飛んでいき、直後爆音とともに強烈な風がジャックの頬を撫でる。それはまるで視えない爆弾であった。


「よく防いだ」

「てめぇ、随分と性格悪いな」

「ジェイの言葉遣いみたいにか?」

「そうやって俺をイラつかせようとする作戦か?」

「さあ、それはどうだろう」


 余裕の笑みを浮かべるデンシルに対してジャックはどこか余裕がない様子。それでも心の中を悟られまいと毅然とした態度で振舞っているのはさすが暗部に所属する冒険者というだけあるだろう。


「ところで二本目を抜かないのか?」


 デンシルの言う二本目とはジャックの腰に差さっている魔剣クリムゾンブルームのことである。おそらくデンシルはジャックが二刀使いだと勘違いしているのだろう。


「どういう意味だ?」

「俺も外道ではない。二本目を抜く時間くらい待ってやると言っているのだ」

「随分と嘗められたものだな」


 潜入のために正体を隠しているジャックは魔剣クリムゾンブルーム使う訳にはいかない。それにそもそもジャックは二刀使いではないため、ここで魔剣クリムゾンブルームを抜いたところで戦況は変わらないだろう。


 しかしデンシルの方はジャックが完全に二刀使いだと勘違いしているためジャックに魔剣クリムゾンブルームを抜くように迫っている。


 そんなデンシルの余裕がジャックのことをイラつかせる。


「てめぇ如きに二本目を抜く必要はない」

「後悔するぞ?」

「ふん、そこまで抜かせたかったら力ずくで抜かせてみるがいい」

「なるほど。ではそうしよう」


 デンシルはそう言うと再び右手で拳銃の形を作るとジャックに向かって構える。そして先ほどと同様にジャックに向かって発砲するそぶりを見せた。しかも今度は二発。


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