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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
第8章 脱魔王派編
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 フローリストの悪魔の右腕と形容されるウッデスが大樹に拘束をされ自由を奪われていたセイヤの胸に深々と刺さっている。フローリストの右腕に感じられた感触は紛れもなく人体を貫いたときに感じる感触そのものだ。


 けれどもフローリストの右腕に滴るのはセイヤの赤い血液ではなく、透明な液体であった。


「これは……水……?」


 貫いたセイヤが本物ではないとフローリストが認識した刹那、彼の目の前にいたセイヤの輪郭が歪む。それと同時に貫いた右腕に巻き付くようにセイヤの肉体が形を変えていき、対処する間もなくフローリストの肉体を水が包み込む。


「ぐはっ……」


 全身を水で包み込まれたフローリストは必死にもがくが、その行為が逆に彼の首を絞めていく。フローリストの全身を包み込んだ水は彼が暴れるにつれて肉体から離れていくが、離れた水は周囲に飛び散るのではなく頭上へと吸収されていく。


 そうしてフローリストが暴れていくうちにすべての水が彼の首から上に集結し、彼の頭部を水の球体が包み込んだ。


 フローリストは自由になった両手を使って自らの頭部を包み込む水の球体を掴もうとしたが、液体である水を掴むことなど当然できず、彼の両手は虚しく水の中を通り抜けるだけだった。


 暴れれば暴れるほどフローリストの体内から酸素が漏れ出し、彼のことをより一層苦しめていく。たった数秒の間に両者の形勢は完全に逆転した。今なお水の中で藻掻くフローリストの前にどこからとなくセイヤが姿を現す。


 その姿を見たフローリストが何か言いたげにセイヤのことを睨みつけるが、水中にいる彼の声は届かない。むしろ必死に何かを訴えかけることでより一層の酸素を失っているようにも思える。


 フローリストの大樹によって拘束されたセイヤであったが、途中から水属性の魔法である水分身を使って身代わりにしていたのだ。水属性を使う魔法師ならばセイヤの作り出した水分身の精巧さに驚くであるが、彼はあのダリス大峡谷にいた水の妖精ウンディーネと契約をした魔法師だ。


 ウンディーネと同等に水を自由自在に操れてもおかしくはない、ということはなく、セイヤには水属性の適性はからっきしだ。現にウンディーネであるリリィと契約した後でセイヤが使える水属性の魔法は精々中級程度がいいところだ。


 だが今回の水分身は明らかに中級レベルを超えている。ではどうしてこれほどまでに水属性の魔法が上達したのかといえば簡単な話だ。セイヤは聖属性を使って自らに水属性の魔法の適性を付与したのだ。


 聖属性はあらゆるものを発生させる魔法だ。そこに実体は伴う必要もなく、概念であっても発生させることが可能である。それゆえセイヤは一時的に自らに水属性の適性を付与することでリリィ顔負けの水分身を作り出したという訳だ。


 ただずっと行使するわけにもいかないのでフローリストと立場が逆転した今は聖属性の使用を控えている。そのため今のセイヤが使える水属性の魔法は中級が限界である。


「勝負あったね」

「まだだ!」


 自らの勝利を確信したセイヤであったが、フローリストには諦めた様子はない。彼は再び黄緑色の魔法陣を展開すると植物の茎を発芽させて頭部を包み込む水に突き刺す。


 突き刺された茎はみるみると成長していき、そのままフローリストの口に入り込む。しかもそこからさらに伸びていき、自らの肺まで植物の茎を伸ばしたのだ。


 そしてもう片方の先端は水の外、つまり外気に接している。どうやらフローリストは植物の茎をストローのように使うことで直接肺に空気を送り込もうとしているようだ。


 確かにこの方法ならば頭部が水に包まれていても最低限の呼吸をすることができる。だがその気になればセイヤはその茎を突き抜けて水を直接肺に流し込めるということだ。まさに諸刃の剣のような方法だが、フローリストが呼吸に成功している内は得策といえるだろう。


 それにセイヤも鬼ではない。わざわざ肺の中まで水で満たすような残酷な手法は用いないが、かといってこのままフローリストに呼吸を続けさせる気もない。


 フローリストがストロー代わりにしている茎の内部を水で満たすことで呼吸を封じようとしたセイヤ。しかしその時、背後にただならぬ空気を感じたセイヤは無意識に自身の背後に水の壁を作る。直後、水の壁は何かに激突されたようで弾け飛ぶ。


 もしセイヤが水の壁を作っていなかったらセイヤはおろか、フローリストまでもその攻撃に巻き込まれていただろう。


 セイヤは振り向き攻撃の主を探すと、その犯人すぐに見つかった。遠くで剣を振り下ろしたであろう恰好の白髪の少年、ジャックだ。


 フローリストを相手にしてたセイヤの一瞬の隙を突いたのは反魔王派からのスパイ活動で潜入しているジャック。ジャックはセイヤの背後が開いていると見るや剣を振り下ろして斬撃を撃ち出した。この時ジャックに右手に握られているのは魔剣クリムゾンブルームではなく普通の剣だ。


 しかし一流のジャックが生みだした斬撃は恐れるに値するものだった。しかもセイヤとジャックの間では二組が戦闘をしており、両者は近い距離とは言えない。その距離感で明確にセイヤたちを狙い、かつ直前まで殺意を感じ取らせなかったジャックの攻撃にセイヤは警戒感を露わにする。


 もし二人の間にこれほどの距離がなければセイヤはジャックの攻撃に気づけず怪我を負っていたかもしれない。一方のジャックは寸前で自分の攻撃を防いだセイヤに少なからず興味を覚えたが、すぐに標的を変える。


 ジャックがセイヤを狙ったのはその背中に隙があったからで、警戒されてしまえば遠くにいるセイヤを相手にする気はない。むしろ次なる標的を見つけたところだ。


 その標的とは目の前で拳をぶつけ合う冒険者たちから距離をとろうとしている少女。ジャックはその少女の背後に音もたてずに降り立つと、握っていた剣を突き出した。


 ジャックが他の志望者に狙いを変えたことを確認したセイヤは再び目の前のフローリストの方を向き直る。そして今度は隙を作らずに彼がストロー代わりにしていた茎に水を詰めて呼吸を妨げる。


 茎による呼吸を妨げられたフローリストはそのまま為す術なく意識を失うが、結果的に彼の命を救うことになった。もしセイヤが気づかなければフローリストはジャックの斬撃によって命を失っていたかもしれない。


 それにもしセイヤが相手では無かったらフローリストは隙を突かれてジャックの攻撃にさらされていたかもしれない。そういう意味でフローリストはセイヤを相手にしたことが幸運の結果になったということだ。


 

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